コラム

定年間近、シチリア産ワインに感動。即決でその土地を購入し、ワインづくりに挑んだ西川惠章氏[日本人がワインで世界を驚かせた]

「人生100年時代」と言われるようになってきた。60代でビジネスパーソンとしてのキャリアにひと区切りつけて、新しいことに挑戦する人が今後増えていくのかもしれない。

世界で活躍する日本人のワインのつくり手を紹介する本シリーズ。今回は、第2の人生をイタリアでのワインづくりに賭けた西川惠章氏に、スポットライトを当てたいと思う。

ぶどう畑の購入と第2の人生を即決

西川恵章氏は、社会人としてのキャリアの大半を、メーカーの社員として過ごしてきた。それが定年の迫った2010年、西川氏はイタリアのシチリア島に赴任することとなった。このことが、西川氏のその後の人生を大きく変えることになる。

2013年7月の週末、シチリア島の自宅から自動車で1時間ほど走ったところにあるエトナ山北麓で開催されている青空市場に出掛けた。その時、市場の近くにあるワイン販売店に何気なく立ち寄ったのだ。

そこで飲んだのが、シチリアの土着品種「ネレッロ・マスカレーゼ」でつくられた赤ワイン。その素晴らしさに、思わず感嘆の声を上げてしまったという。

そして、そのワインを生み出したぶどう畑が売りに出されているという店主の話を聞き、買うことを即決。この時、西川氏は62歳。第2の人生に何をするかを決めた瞬間でもあった。

西川氏は、イタリアに赴任する前にも、ワインづくりで有名なスペインやアメリカなどに赴任している。そして、多くのワインと出会ううちにワインに魅了されていったという。イタリアに赴任したころには、ワイナリーの経営に興味を持ち始めていたそうで、「良いワインをつくるのは、土地の力がすべて」という考えも持っていた。

そうした経緯もあり、感嘆するほどおいしいと感じたワインを生み出した畑の土地の力は間違いないと確信。「素晴らしいワインをつくり出せる畑に出会えた」と思い、買うことを即決できたのだ。

購入した畑は、ワイン産地として有名なエトナ山北麓の緩やかな傾斜に位置し、標高は500m。火山灰性土壌の1haの小さな畑だった。

西川氏は、自身のワイナリーを「テラ・デッレ・ジネストレ(Terra Delle Ginestre)」と名付けた。イタリア語で「テラ」は大地、「ジネストレ」はエニシダを意味する。畑の周辺に群生し、大自然の中でたくましく育つエニシダのように繁栄していきたいという思いを込めた名前だ。

テラ・デッレ・ジネストレのワインづくり

西川氏は、ぶどうそのものの味わいがストレートに出る単一品種ワインを好む。自身がつくるワインも、ネレッロ・マスカレーゼだけを使用した単一品種の赤ワインだ。

しかし畑を購入した当初は、ワインづくりに関して素人であった西川氏。そのため、醸造家の紹介をはじめ、醸造設備などを持たない畑のオーナーのために、設備や施設を貸してくれるところも紹介してくれる「アグロノモ」と呼ばれる栽培のコンサルタントに相談した。

アグロノモのアドバイスを忠実に守り、多くの人の力を借りてつくられたワインのファーストヴィンテージは2014年、初リリースは2017年となった。ステンレスの醸造タンクで1次発酵した後、フレンチオークの樽で18カ月熟成。最後に、樽による個性のばらつきをなくすためにタンクに戻して10カ月寝かせた。こうした工程を経て、初めて市場に登場したわけだ。

テラ・デッレ・ジネストレは、エトナ初となる日本人オーナーのワイナリーということで、イタリアの全国紙「ラ・レプブリカ」で大きく取り上げられた。また、ファーストヴィンテージワインは、世界大会を制したこともあるソムリエから高評価を得た。

これからが楽しみなテラ・デッレ・ジネストレ

テラ・デッレ・ジネストレのワインは、DOCワインである「エトナ・ロッソ」として認められた。ラベルにはDOCワインだけに許される「Etna Rosso」という表記を確認できる。さらに西川氏は、農薬や化学肥料を使用しないぶどう栽培にも挑戦。2017年ヴィンテージ(2020年リリース予定)からは、EUオーガニック認証を受けた「ビオワイン」として販売する計画だ。

テラ・デッレ・ジネストレのファーストヴィンテージワインは、西川氏の夫人「純子」氏の名前と、100%ネレッロ・マスカレーゼを使った「純粋な」ワインであるという意味を掛け合わせて「エトナ・ロッソ・ジュン」と名付けられた。

2017年12月に日本での販売も開始されたエトナ・ロッソ・ジュン

エトナ・ロッソ・ジュンは、赤は肉料理、白は魚料理というワインの常識を覆し、肉料理にも魚料理にもペアリングできるという。シチリアや横浜の有名レストランで試飲会が開かれた際、レストランのシェフがペアリングしたのは、どちらも魚料理のコースだったそうだ。

まだ、知名度は低いが、第2の人生の「楽しみ」ではなく、「本気」で品質にこだわったワインをつくる西川氏。テラ・デッレ・ジネストレは、成長が楽しみなワイナリーだ。生産量はおよそ5000本と少ないので、知名度が上がり入手困難になる前に味わってみてはどうだろうか。

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