コラム

古代ギリシャから注目されていたワインの健康効果 ~ “レスベラトロール”で内臓脂肪の蓄積を抑制し、動脈硬化の進行も抑制

「ワインは健康にいい」というイメージを持っている人もいるだろう。例えば、赤ワインには「ポリフェノール」という健康成分が豊富に含まれている。1997年には、ポリフェノールの健康効果に注目が集まり、ワインの年間消費数量が前年比で4割以上増えるワインブームが起きたほどだ。

そんなポリフェノールに着目し、ワインメーカーのメルシャンは20年以上もポリフェノールに関する研究を続けている。その研究成果の一端を披露するため、2018年8月23日には“スーパーポリフェノール”と呼ばれるポリフェノールの一種「レスベラトロール」に関するセミナーが開催された。

ワインにはどんな健康効果があると言われていて、特に「レスベラトロール」はどのような点で優れているのだろうか。同セミナーの内容を基に、ワインの健康効果や上手においしく取り入れる方法などを紹介したい。

古代から注目されてきたワインの健康効果

古代ギリシャの時代から、ワインは医療目的に使われていたという記述が残っている。古代ギリシャの医者・ヒポクラテスは、ワインには健康増進や肥満防止、精神安定などの効果があると分析していた。

また、1556年に書かれた書籍「ぶどう療法」の中では、ワインは肥満・高血圧・心臓病といった生活習慣病に効果があると記されている。

他にもインドの古い医学書には、「心と体の活性剤」「不眠と憐れみと疲労を癒し、食欲・消化や幸福感を促進する」という記述が見られるという。

セミナーで登壇したキリン(株)ワイン技術研究所の矢内隆章氏は、「ワインにはこうした現代に必要な効果があると古代・中世から言われていた」と紹介した。

フランス人の健康は、ワインが支えている? 「フレンチ・パラドックス」とは

1989年にWHOが実施した調査では、フランス人は喫煙率が高く、動物性脂肪の摂取量も多いのに、心臓疾患による死亡率が比較的低いと指摘された。

矛盾しているように思われるこの調査結果は「フレンチ・パラドックス」と呼ばれており、フランス人がワインをよく飲むことから、このような結果につながったのではないかと考えられている。

また、心疾患のリスクを高めることで知られている肥満の割合を見ても、フランスは近隣諸国と比べて低い。肥満指数を示すBMIで見ると、WHOが肥満と定義しているBMIが30以上の成人の割合は、イギリス(24.9%)やドイツ(21.3%)と比べて、フランスは15.6%と低い水準だ。

メルシャンは「肥満を引き起こす内臓脂肪の蓄積の抑制には、ポリフェノールの一種であるレスベラトロールが関係しているのではないか」と考え、三重大学と共同研究を進めている。

そもそもレスベラトロールって?

健康成分として注目されているポリフェノールは、もともとは植物が害虫などから身を守るために持っている苦味や渋味、色素の成分だ。

「ポリフェノール」と一口に言うが、実は赤ワインに含まれるポリフェノールは4000~7000種類もあると言われている。レスベラトロールもそのひとつだ。

赤ワインにはレスベラトロールやアントシアニン、カテキン、タンニンなど、ぶどう由来のさまざまなポリフェノールが含まれ、レスベラトロールは特に黒ブドウの果皮に多く含まれている。赤ワインには他にも、アルコール発酵や熟成時の樽由来のものなど、多種多様なポリフェノールが含まれている。

そしてレスベラトロールは、1997年に健康維持に役立つことが報告された。それ以降、内臓脂肪の蓄積抑制や動脈硬化の進行抑制、記憶力の改善、社会性の向上など、心身の健康への作用についての論文が発表されてきている。

内臓脂肪の蓄積を抑えるという研究結果も

内臓脂肪の蓄積抑制について、キリン(株)ワイン技術研究所では、三重大学と次のような共同研究を実施している。

[方法]

ゼブラフィッシュを3群に分け、それぞれに次のいずれか1種類のエサを与えた。
・通常のエサ
・肥満させるエサ
・肥満させるエサにレスベラトロールを加えたエサ
そして5週間後に、内臓脂肪と血中中性脂肪を測定した。

[結果]

肥満させるエサだけを与えられた群に比べて、レスベラトロールを加えたエサを与えられたゼブラフィッシュは、内臓脂肪や血中中性脂肪共に低い結果となった。

レスベラトロールが、肥満に伴って脂肪細胞で活性化するたんぱく質(EP300)を阻害したことにより、内臓脂肪の蓄積抑制につながったと考えられるという。

レスベラトロールを含む食品にはどんなものがある?

続いて登壇した管理栄養士の浅野まみこさんは、レスベラトロールは「アンチエイジングの目的で、サプリメントで摂取している人が多い」と説明した。抗酸化作用の他に、肌のしわやたるみの原因になる糖化を修復する抗糖化作用があることが注目されているという。


食品であるワインからの摂取は、サプリメントよりも安全性が高く、より効果が期待できるそうだ。

また、内臓脂肪の蓄積を抑えて太りにくくする効果について、「痩せている人が摂取しても、それ以上に痩せてしまうことはない」と強調している。

レスベラトロールは、ぶどうのほかにピーナッツの果皮、イタドリティー、チョコレート、ブルーベリーに多く含まれている。その中でも、最も効率的に摂取できる方法が「赤ワインを飲むこと」。赤ワイン1杯(125ml)で摂取できる量をチョコレートやピーナッツで摂取しようとすると、次の写真ほどの量が必要になる。


赤ワイングラス1杯(125ml)で摂取できるレスベラトロールの量は、ダークチョコレートなら板チョコ29枚分、皮つきピーナッツ5kg、赤ぶどう416g分

サプリメントと比べても、10分の1の摂取量で同様の効果が期待できるという。

飲みすぎはNG! お勧めの摂取方法

アルコールが飲めない人にも、赤ワインからレスベラトロールを摂取する方法がある。

それは料理に使うことだ。レスベラトロールは加熱しても変化しない。赤ワインを煮込み料理に使うと、レスベラトロールは肉やたんぱく質にくっついて、腸管から体内に吸収される。また、酸にも強いので、レモン汁や酢を使っても変化しにくい。
浅野さんの秋のおすすめメニューは「秋刀魚(サンマ)とキノコのソテー 赤ワインソース」と「梨のコンポート ヨーグルトがけ」だ。


秋刀魚とキノコのソテー。仕上げに赤ワイン、レモン汁、醤油、バターを加えて完成

梨のコンポート。赤ワイン、砂糖、レモン汁を加えて5分間煮込む

料理と一緒に赤ワインを飲むと、血中に取り入れられやすくなるのでおすすめだという。

いくら健康効果が期待できるといっても、毎日たくさんの赤ワインを飲む必要はない。厚生労働省では、「節度ある適度な飲酒」の目安として、グラスワインなら1日1~2杯(125~250ml)としている。このくらいの量で十分に健康への効果が期待できるそうだ。

健康のためにも、毎日適量の赤ワインを楽しんでみてはいかがだろうか。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ