コラム

2019年は“甲州”と“つくり手”の個性が味わえるヴィンテージに! ~山梨ヌーボーまつり開催

2019年11月3日、日本ワインの秋の風物詩ともいえる、山梨県産ワインの新酒「山梨ヌーボー」が解禁された。毎年この日に、東京・日比谷公園で開催されるのが、「山梨ヌーボーまつり」だ。

同年8月7日には、「ワイン県」を宣言した山梨県。その宣言から初となる今回のイベントでは、ソムリエの田崎真也氏のワイン県副知事任命式も行われ、山梨県産ワインの新しい時代を感じさせるものとなった。

今回は、今年の山梨ワインやワイン県副知事任命式など、イベントの様子をお伝えする。

ソムリエの田崎真也氏がワイン県副知事に

山梨県は、日本を代表するワインの産地だ。80を超えるワイナリーがあり、テロワールにこだわったワインづくりをしていることから、山梨県の長崎幸太郎知事は「歴史も質も意欲も、日本ワインの元祖だと思っている」として、同年8月にワイン県を宣言している。

山梨ヌーボーまつりのオープニングセレモニーでは、長崎知事による、田崎氏のワイン県副知事任命式が開催された。田崎氏は国内外で長きにわたってソムリエとして活躍し、現在は日本ソムリエ協会の会長を務める、ソムリエ界のレジェンドだ。同年10月に任命された作家の林真理子氏に続き、2人目のワイン県副知事となる。

東京都出身で静岡県在住の田崎氏だが、山梨県とは深い関わりがある。2010年から東京・日本橋のアンテナショップ「富士の国やまなし館」2階にあるレストラン「わいわい Y-wine」を経営し、2015年からは1階のアンテナショップの運営にも携わっている。

田崎氏は任命式後の会見で、「レストランとアンテナショップのどちらも手掛けることで、山梨には素晴らしい食材があることが分かった。この10年間だけでも山梨のワインは著しく進化している。甲州の味わいや品質の進化も素晴らしく、ヨーロッパ系品種の味わいもバリエーションとともに深まってきた。ワインを通じて山梨の食文化を広めていきたい」とコメントした。

世界でも活躍する田崎氏だが、プロフェッショナルを中心に、海外でも日本ワインに興味を持つ人が増えてきていると実感しているという。

田崎真也氏が語る、甲州の現在

2019年のぶどう全体の出来を表現することは難しいが、イベントで口にした山梨ヌーボーについて、田崎氏は次のように語った。

「2015年は酸が高かったが、先ほど口にしたワインは、果実味と酸味のバランスが非常に良く感じられた。新酒の良さは香りの良さ。その点も含めて、素晴らしいものがある。甲州は酸味が伸びていった後にミネラル感が味わえるのが特徴だが、そんな甲州の個性がはっきりと感じられた」

日本は秋の長雨がぶどうの成熟期にかかるため、なかなか完熟まで進まない。しかし、山梨県は全体的に暑い気温が後半まで長引き、ぶどうの成熟度が高い。そのため、果実の特徴が感じられやすいのが甲州の特徴だという。

最後に田崎氏は、「甲州がどんなぶどうなのかという特徴が、だんだんと分かりやすくなってきた。ますます世界唯一であり、オリジナリティのあるワインだと感じている。フランスやカリフォルニアなどと比較するのではなく、どこにもない品質を持ったワインだ」とまとめている。

次々と掲げられる、2019年ヴィンテージの「完売御礼」

そんな甲州の現在が感じられる2019年ヴィンテージをいち早く味わおうと、会場の日比谷公園噴水広場には、およそ3900人の来場者 が訪れた。販売用テントにはオープン前から行列ができ、10時30分に販売がスタートすると、次々と「完売御礼」の札が掲げられていった。

特に早かったのは、山梨ヌーボーまつり限定商品を提供していた中央葡萄酒(グレイスワイン)だ。他に、駒園ヴィンヤード、フジッコワイナリー、丸藤葡萄酒工業(ルバイヤート)、勝沼醸造なども早々に完売していた。

「Ubu スパークリング 甲州 2019」「Ubu スパークリング 巨峰 2019」を販売した駒園ヴィンヤードでは、販売用ワインが売り切れた後も、試飲用ブースに長い行列ができていた。

山梨県産のワインは甲州だけではない。同じく日本固有種で国際品種であるマスカット・ベーリーAはもちろん、アジロンやデラウェアなどさまざまな品種のワインが来場者を楽しませていた。

「いつも以上に苦労して、いいワインをつくった」

オープニングセレモニーであいさつに立った山梨県ワイン酒造組合の斎藤浩会長は、今年のワインづくりについて、「いつも以上に苦労して、いいワインをつくった」と語った。

山梨県ワイン酒造組合の斎藤浩会長。シャトー・メルシャンの元工場長だ

2019年の天候は決して恵まれたものではなかったという。6回ほどひょうに見舞われた地域もあり、不安を抱えつつもぶどう農家は品質を維持した。9月の収穫時期に入ってやっと、雨も降らずにコンディションは好転したそうだ。

同じヴィンテージの同じ品種でも、個性の違うヌーボーがそろった2019年。天候に恵まれなかったからこそ、つくり手の個性が味わえるヴィンテージなのではないかと感じられた。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ