コラム

名ヴィンヤードから若手とベテランがつくり出すワイン「センシーズ」 ~カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー

   

カリフォルニアワイン協会(CWI)は、カリフォルニアワインについての知識を深めることを目的として、影響力のある若手ソムリエに現地のワイナリーを“バーチャル”で体験してもらう「カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー」を開催した。

ツアーは2020年11月19日・20日と同年12月3日・4日の2回に分けて実施され、ソムリエたちは、コンラッド東京(東京都港区)に設けられた会場から、ワイナリーを訪問した。

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今回はそのバーチャルツアーから、センシーズ(Senses)の内容を紹介する。

センシーズ

センシーズがあるのは、冷涼な気候のソノマ郡だ。ナパ・バレーから海に向かって車を走らせると、進むにつれて寒くなっていくのを感じるという。

設立者は、ウエスト・ソノマ・コーストのオクシデンタル(Occidental)で生まれ育った、クリストファー・ストライター氏とマックス・ティエリオット氏、マイルズ・ローレンス・ブリッグス氏の3人。今回のバーチャルツアーには、ストライター氏がガイドとして登場した。

左から、マイルズ・ローレンス・ブリッグス氏、マックス・ティエリオット氏、クリストファー・ストライター氏

ブリッグス氏とティエリオット氏の家はヴィンヤードを所有しており、幼稚園からの友人である3人は、ヴィンヤードやその周囲にあるレッドウッドの森で遊び、虫を捕ったり、秘密基地をつくったりして、自然に触れながら遊んでいた。しかし、ワインづくりに関わることはなく、ストライター氏とブリッグス氏は大学に進学。ティエリオット氏は俳優としての道を歩み始めた。

3人が一緒にワインづくりをするようになったきっかけは、ストライター氏がある女性と出会ったことだ。女性の家族が経営していたのは、カリフォルニア州を代表するワイナリーの1つである、ケンダル・ジャクソン。ストライター氏も大学時代にそこで働き、創業者であるジェス・ジャクソン氏が第2の父のような存在となった。彼からある日、「自身のワインをつくりたいという、その考えは素晴らしいと思う。でも、経営側の勉強をしてみてはどうか」と言われたのだという。

ケンダル・ジャクソンで働きながら、ワインコミュニティについての知識を深め、ワインメーカーたちと出会い、ワインや食への興味を持ったストライター氏は、数理経済学と物理学の学位を取得し、さらに経済学の修士号を取得した後で、幼なじみのブリッグス氏とティエリオット氏に、親のヴィンヤードを受け継いでワインをつくらないかと持ち掛けたのだ。そして2011年、当時22歳と23歳だった3人が貯金を持ち寄って、100ケースのワインをつくり、翌年には完売を果たした。

その後、地元のジュニアカレッジでぶどう栽培のクラスを受講し、ワインメーカーを雇って本格的に事業をスタート。2011年には100ケースほどだった生産も、現在では4000ケースほどにまで成長していった。

「目標は、明日ワインを売ることではなく、何世代にも受け継がれるブランドを築くことです」と、ストライター氏はセンシーズのワインづくりについて語っている。

ナパ・バレーの大物がワインメーカーに

センシーズのワインメーカー、トーマス・リヴァース・ブラウン氏

センシーズのワインメーカーは、シュレーダー・セラーズやアウトポスト、マイバックなどの、カルトワインのつくり手として知られるトーマス・リヴァース・ブラウン氏。ナパ・バレーやカベルネ・ソーヴィニヨンのイメージが強い彼だが、オクシデンタル地区でのピノ・ノワールやシャルドネにも情熱を注いでおり、センシーズの立ち上げを知って彼から連絡をくれたのだという。

自社畑であるB.A.ティエリオットで3人と会ったブラウン氏は、自分から「ワインづくりを引き受ける」と提案してきたのだという。3人は急に現れたナパの大物に警戒をしていたものの、親のヴィンヤードを受け継ぐのなら、最高のワインをつくる準備が必要だと感じていたことや、長く働いてくれるワインメーカーを探していたこと、すぐにブラウン氏と打ち解けたことから、チームに受け入れることを決めた。

自社畑と契約畑

センシーズの自社畑は、B.A.ティエリオットとヒルクレストの2つがある。

B.A.ティエリオットは、その名からも分かる通り、ティエリオット氏の親が所有していたヴィンヤードだ。霧の影響や海からの冷たい風の影響を常に受ける場所であり、畑を取り囲むレッドウッドの森も特徴的だ。

リトライのテッド・レモン氏が長期契約をしていたことで知られており、ブラウン氏のお気に入りの畑でもあるという。

もう1つの自社畑であるヒルクレストは、ブリッグス氏が生まれ育った場所でもある。1972年に開拓された、ソノマ・コーストで最も古いヴィンヤードの1つだ。

契約畑は、オクシデンタルやその近郊のチャールズ・ハインツ、ダットン・パームズ、シルバー・イーグル、ロシアン・リバー・バレーのエル・ディアブロ、セバストポルのカンツラー、グリーン・バレーのペリー・ランチ、ペタルマ・ギャップのテラ・デ・プロミッショがある。

センシーズのワインと産地

新たなAVA「ウエスト・ソノマ・コースト」

オレンジ色の場所がオクシデンタル

ソノマ・コーストの中でも標高が高く、冷涼な気候であるウエスト・ソノマ・コースト。センシーズは、ウエスト・ソノマ・コースト・ヴィントナーズの一員として、ウエスト・ソノマ・コーストが、ピノ・ノワールやシャルドネにとって特別な場所であることを証明しようと努めてきた。センシーズやフリーマン・ヴィンヤード&ワイナリーなどの地域のワイナリナーは、ウエスト・ソノマ・コーストが新しいAVA(アメリカ政府認定ぶどう栽培地域)に認定されるように尽力している。

ウエスト・ソノマ・コーストでは、美しい緑の丘や海を見下ろす光景は珍しくない。

海から近いため、霧や風といった海の影響を受けており、さらにはレッドウッドの森のおかげで冷涼な気候に恵まれて、ぶどうはゆっくりと成熟していく。

「冷涼な気候は私たちのワイン、そしてウエスト・ソノマ・コーストを語る上では欠かせないものです」と、ストライター氏は語っている。

2018 シャルドネ チャールズ・ハインツ

このワインに使用しているぶどうは、チャールズ・ハインツ氏が手掛けるヴィンヤードで栽培されたもの。ハインツ氏は、ソノマ・コーストにおけるぶどう栽培のパイオニアの1人だ。

チャールズ・ハインズの畑の風景

成熟した果実感や味わいがあるものの重さはなく、高い酸を感じることのできるバランスが良いワイン。センシーズがこだわるテクスチャーを堪能できる1本だ。

収穫後、葉と果実を一緒にタンクに入れて2時間ほど寝かせてから、樽に直接絞り出す。その際に、葉を完全には取り除かずに発酵させ、そのまま13~14カ月熟成させている。その間、いろいろと手をかけることはせず、天然酵母で発酵させて、熟成中はかき混ぜる作業も行わない。ボトリングする際にも、清澄(コラージュ。瓶詰め前に浮遊物や濁りを取り除く作業)やろ過を行っていない。こうしたワインづくりにより、「果実が輝く」とストライター氏は説明する。

果実味が豊かだがバランスが良く、葉の影響が強く出すぎてもいない。ソノマ・コーストらしい、酸が全てをまとめ上げているワインだ。

Senses Wines 2018 Chardonnay Charles Heintz
アペレーション:ソノマ・コースト
アルコール分:14.5%
品種:シャルドネ100%
熟成:フレンチオーク樽を100%使用(新樽率30%)し、14カ月熟成
参考小売価格:1万6500円(税込)

2018 ピノ・ノワール ロシアン・リヴァー・ヴァレー

センシーズでは、それぞれのヴィンヤードごとに、ベストな樽からシングル・ヴィンヤード・ワインを出しているが、このワインは、シングル・ヴィンヤード・ワインに採用されなかった樽のワインをブレンドすることで、新しい魅力を引き出している。このワインはまだ若く、飲む少し前に開栓しておくのがおすすめだという。

このワインに使われているぶどうは、ペリー・ランチで栽培されたもの。かつてはキーファー・ランチと呼ばれており、プレミアムなピノ・ノワールを生む畑として知られていた。

収穫後に選果をして完全に茎を取り除き、5日間ほどコールド・ソーク(コールド・マセレーション、低温浸漬。果実を低温な環境下に置くことで、果皮成分を抽出する方法)させて、色味とアロマを引き出してから、2週間発酵機に入れた後に圧搾。糖分が完全にアルコールに変わってしまう前に樽に入れ、樽内で自然な発酵を促している。

これは、センシーズでピノ・ノワールをつくる際に行っている一般的な手順だ。生産量が多い場合には、ふたの閉まる発酵機を使用して、1日に2回ガス抜きを行っている。茎を取り除く割合やコールド・ソークの日数は、ワインによって異なる。

若いうちに楽しめるように、樽での熟成期間は10カ月間にとどめている。素晴らしいアロマがあり、デリケートでバランスの良い味わいが楽しめるワインだ。

Senses Wines 2018 Pinot noir Russian River Valley
アペレーション:ロシアン・リバー・バレー
アルコール分:14.2%
品種:ピノ・ノワール100%
熟成:フレンチオーク樽を90%使用(新樽率10%)し、10カ月熟成
参考小売価格:1万2100円(税込)

2018 ピノ・ノワール デイ・ワン

ブリッグス氏が受け継いだ、ヒルクレストで栽培したぶどうを使用したワイン。

ストライター氏のお気に入りの1本だという。2~3エーカー(約0.8~1.2ha)ほどの小さな畑に、4つのクローンが植えられており、素晴らしい味わいとテクスチャーを生み出している。こちらのワインもまだ若さが感じられるワインだ。200ケースほどしかつくっていないが、2021年には日本に入港する見込みだ。

Senses Wines 2018 Pinot noir Day One
アペレーション:ソノマ・コースト
アルコール分:14.3%
品種:ピノ・ノワール100% 熟成:フレンチオーク樽を100%使用(新樽30%)し、10カ月熟成

樽の影響を付けすぎず、「果実や酸が輝く」ワインをつくり出しているセンシーズ・ワインズ。これまで数々の傑作を生み出したヴィンヤードから、若いつくり手とベテラン醸造家が生むワインを味わってみてはいかがだろうか。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ