コラム

キアンティ・クラッシコの産地を360度俯瞰する ~土壌だけじゃない! テロワールをつくり出す自然の要素とは

キアンティ・クラッシコ協会は2021年3月15日、ザ・ペニンシュラ東京(東京都千代田区)にて、プレスイベント「キアンティ・クラッシコの産地を360度俯瞰する」を開催した。

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黒い雄鶏がシンボルのキアンティ・クラッシコは、サンジョベーゼ主体でつくられるワインだが、産地によってかなり表情が変わる。イベントでは、産地を360度見渡せる写真を見ながら、その要因を解説。その内容を全4回にわたって紹介するが、第2回となる今回は、キアンティ・クラッシコのテロワールをつくり出す条件についてまとめてみた。

キアンティ・クラッシコのテロワール

キアンティ・クラッシコは、イタリアの中西部に位置するトスカーナ州の「D.O.C.G.(統制保証原産地呼称)」だ。下の地図で、濃い緑色になっている部分がキアンティ・クラッシコの範囲となる。

地図①(引用元)Alessandro Masnaghetti www.enogea.it for Consorzio Vino Chianti Classico

トスカーナ州で最も有名なD.O.C.G.と言えば、キアンティだろう。キアンティは、トスカーナ州の中央付近に広がっているが、その中で1716年にトスカーナ大公コジモ3世が定めたキアンティ産地とほぼ一致するのが、キアンティ・クラッシコだ。

キアンティ・クラッシコの気候

キアンティ・クラッシコにクローズアップした地図がこちらだ。

地図②(引用元)Alessandro Masnaghetti www.enogea.it for Consorzio Vino Chianti Classico

地図②の左の地形図に引かれた赤い線は、エリア内にある山脈を示す。東側にはキアンティ山脈が延びており、平行して西側にも山脈が走っている。さらにその間を垂直につなぐ山脈が、キアンティ・クラッシコ地区を南北に分けている。

今回のセミナーで講師を務めたアレッサンドロ・マズナゲッティ氏は、「風景を見れば、微気候や土壌、生まれるワインなどが分かる。その出発点として非常に重要な地図だ。この大小の山脈が、テロワールを形成している」と説明している。

地図③(引用元)Alessandro Masnaghetti www.enogea.it for Consorzio Vino Chianti Classico

地図③の右の気温分布図から、キアンティ・クラッシコの気温を見てみよう。山脈の周囲は、標高が高いため、気温が低いことが分かる。キアンティ山脈から離れ、西に行くほど暖かくなる。南北ではなく、東西で寒暖差があるのが、キアンティ・クラッシコの特徴だ。

キアンティ・クラッシコの土壌

続いて、キアンティ・クラッシコの土壌分布を見てみよう。

地図③の土壌分布図(左)を見ると、東側(南北に広がる黄土色の部分)にマチーノ・デル・キヤンティと呼ばれる、水はけの良い砂岩土壌が広がっている。キアンティ山脈周辺の土壌は、水はけの良い、粒の大きな砂岩だ。

標高の高い山脈周辺とマチーノ・デル・キヤンティの部分は土壌が一致しているのが分かる。また、山脈周辺ではピエトラ・フォルテ(強い石)という硬い砂岩が採れる。

ピエトラ・フォルテはとても硬く、建築資材にも使われている

土壌分布図中央のバラ色の部分はアルベレーゼと呼ばれる土壌で、マチーノ・デル・キヤンティと異なり、石灰質が含まれている。

キアンティ地方には、古代は海の中にあったという土壌が多いが、サン・カシャーノ・イン・ヴァル・ディ・ペーザという村の周囲(北西部のベージュ色の部分)にあるのは、河川の氾濫などで土砂が堆積した沖積土壌。そこから南に行ったところにも同様の色合いの部分があるが、そこは湖成堆積物という粘土の多い土壌だ。

テロワールに影響を与える自然の要素

ワインのキャラクターを形づくるテロワールは、いくつもの自然の要素が積み重なってできている。

標高が高い場所や冷涼な場所は、酸が多くなり、香ばしい果実が感じられるワインになる。また、標高が低い場所や日当たりが良い場所で栽培されたぶどうは、より熟して酸が少なくなるが、過熟にはならない。

畑がどの方角を向いていてどれくらい太陽の恵みを受けるのかや、畑の傾斜も非常に重要だ。最も日当たりが良いのは南西向きの畑で、最も涼しくなるのは東向きだが、周りに日差しを遮るものがあるかないかでもテロワールは変わる。

土壌がワインに与える影響を、ごくシンプルに説明すると、砂が多い土壌では、ワインはよりエレガントになり、色が薄くなる。粘土が多くなると、しっかりとしたワインになり、色が濃くなる。また、土壌に石灰が多いほどより酸が残り、少ないと酸が減る。

こうした条件が組み合わさって、キアンティ・クラッシコの多様なテロワールがつくり出されている。

次回(第3回)は、キアンティ・クラッシコ山脈に近い東側でつくられた4つのワインをテイスティングしていく。

キアンティ・クラッシコD.O.C.G.には、24カ月の熟成が必要なキアンティ・クラッシコ・レゼルバ、30カ月以上の熟成が必要なグラン・セレツィオーネがあるが、第3回・第4回のテイスティングで登場するワインは、いずれも収穫の翌年の10月1日から出荷が可能なキアンティ・クラッシコから選出されている。若い段階から飲むワインだが、手頃な価格でテロワールが味わえるという点で、講師のアレッサンドロ・マズナゲッティ氏も「大好きなワイン」とのこと。

テロワールを知り、そしてワインを選ぶ参考になれば幸いだ。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ