コラム

ワイン界を震撼させた「パリスの審判」 ~ ワインの常識が覆った事件とは

ワイン評価ランキングをチェックすると、今では当たり前のように、新旧世界のワインが入り混じっている。

しかし現在の状況は、数十年前には考えられなかった。「新世界(ニューワールド)のワインは、旧世界(オールドワールド)の足元にも及ばない」というのが当時のワイン界の常識。両世界のワインを比較するという考えさえなかったのだ。

その常識が覆ったのは、1976年に「パリスの審判」と呼ばれる事件が起きたからだ。フランスワインとアメリカワインをブラインドテイスティングして順位を付けた結果、白ワインと赤ワインの両方でアメリカワインが1位を獲得してしまった。

このことはワイン界の歴史を変えた出来事として人々の心に刻まれ、それ以降、新旧ワイン界が交わるようになった。今回はこの「パリスの審判」について、紹介していこうと思う。

The Judgement of Paris....

「フランスワインこそ高級。新世界ワインは安くて酔うために飲む」

パリスの審判が起きるまで、「フランスのボルドーやブルゴーニュでつくられるワインこそが高級ワイン。新世界のワインは、安くて酔うためだけに飲むワイン」と考えられていた。

そんなころに「アメリカワインの品質が劇的に向上している」と気が付いたのは、パリスの審判の仕掛け人であるイギリス人のスティーブン・スパリュア氏だった。彼はパリで、ワインショップと有名なワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」を経営していた。

スパリュア氏は、カリフォルニアで多くのワインをテイスティングし、カリフォルニアでフランスに劣らぬワインがつくられていることを知ったのだ。

Red Hills Winery, Yamhill County, Oregon

伝統に縛られていたフランス、最先端の研究成果を採り入れたアメリカ

アメリカワインの品質が向上したのは、1970年代後半からだと言われている。それまでアメリカではウイスキーやカクテルが大量消費されていたが、社会事情の変化に伴い、ワインを愛飲する人が増えてきた。その結果、ワインづくりにも注目が集まるようになり、カリフォルニアで高級ワインを産出するワイナリーが出現してきたのだ。

フランスでは古くからワインを好み、世界最高と評されるワインを産出していたこともあり、伝統を守ることに固執したワイン生産者が多かった。しかし、アメリカでは、失敗を恐れない精神を持ち、20世紀になって発達してきた現代醸造学を抵抗なく採り入れる生産者がほとんどで、急速に成長を遂げたのだ。

このことをアメリカ国外はもちろん、アメリカ国内でも認知されていなかったため、スパリュア氏はその事実をみんなに知ってもらおうと、フランスワインとアメリカワインを比較する試飲会を開くことを思いついた。

Cata de vinos

運命の日、1976年5月24日

1976年5月24日、パリのインターコンチネンタル・ホテルで開催された試飲会は、トップレベルのフランス人テイスター9人で構成された審査員が、それぞれのワインをブラインドテイスティングして点数を付けた。

出品されたのは、スパリュア氏が持ち帰ったカリフォルニア産カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネの各6銘柄とフランスも同品種の各4銘柄。フランスの白ワインはすべてブルゴーニュ、赤ワインはすべてボルドーのものだった。

結果は、白ワインではアメリカのシャトー・モンテレーナ(1973年)が、赤ワインでもアメリカのスタッグス・リープ・ワインセラーズ(1973年)が、1位に輝いたのだ。

Chateatu Montelena- 1973 Chardonnay

ワインづくりの新たな時代の幕開け

「パリスの審判」として知られるようになったこの試飲会によって、「優れたワインはヨーロッパでしか生まれない」という常識が消え去り、「どこでも優れたワインはつくれる」という新たな考えが生まれた。

ワインづくりはこれを機に、新旧世界が交わる新たなステージに進んだと言われている。

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ただ、この敗北を受け入れられないフランスのワイン関係者は、「フランスワインの飲み頃」を理由に、異議を申し立てた。「ブルゴーニュやボルドーの偉大な白・赤ワインは、長い年月の熟成を経て初めて真価を発揮する」というのだ。そのため、10年後と30年後にリターンマッチが開催されたが、どちらもカリフォルニアワインの圧勝に終わったのだった。

なお「パリスの審判」とは、もともとギリシャ神話のエピソードを指す。神々の女王・ヘラ、知恵と戦いの女神・アテナ、愛と美の女神・アフロディーテのうち、最も美しい女神を選ぶ役目を羊飼いのパリスに任されたことから、「パリスの審判」と呼ばれている。

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