海外で活躍する日本人について見聞きすることは珍しくなくなった。とは言え、そうした日本人の活躍を知ると、同じ日本人として喜ばしい気持ちになる。
世界で活躍する日本人のつくり手を紹介する本シリーズ。今回は、人を笑顔にするワインをつくりたいと、ニュージーランドでワイン醸造をする木村滋久氏にスポットライトを当てる。
ワイン醸造への道をひらいたワイナリーツアー
木村滋久氏は、1973年に東京で生まれた。ワイン醸造家を志すまでは、10年間キャピトル東急ホテル(現在のザ・キャピトルホテル東急)の和食レストランで働いていた。
もともとワインが好きだった木村氏はワインスクールに通うようになり、JSAソムリエ資格を取得した。資格取得の喜びを胸に、通っていたワインスクールが主催するボルドーとシャンパーニュのワイナリーツアーに参加。そこで、ワインの素晴らしさはもとより、醸造家たちの情熱やワイナリーの雰囲気に魅了された。それを機に「ワインづくりの仕事がしたい」と思うようになったという。
2003年にホテルを退社すると、ニュージーランドに渡り、1年間Eastern Institute of Technologyでワイン醸造とぶどう栽培を学んだ。卒業後は、ホークスベイのナタラワ・ワインズとマルボロのクロ・アンリでぶどう栽培の仕事に携わった。2007年の収穫時期からは、世界的に評価の高いヴィラ・マリアで醸造チームの社員として勤務。 アメリカ、オレゴン州のエルク・コーヴでもワイン醸造の修行をした。
その後、家族でニュージーランドに永住することを決意し、2009年にキムラ・セラーズを設立。同年、キムラ・セラーズの初ヴィンテージもリリースしている。
畑も醸造所も所有しないワイナリー
キムラ・セラーズは、収穫時にだけ人を雇い、それ以外は木村氏と奥様でワインづくりをしている家族経営のワイナリーだ。
驚くことに、木村氏は畑も醸造所も所有していないという。素人には、畑も醸造所も持たずにワインがつくれるのかと考えてしまうが、そういうワイナリーは少なからず存在する。
木村氏は、ぶどう農家の畑の一画を契約してぶどうを栽培し、醸造は、ほかの小規模ワイナリーに醸造施設の一部を借りて行っている。
皆が笑顔になれるワインを
木村氏のつくるワインのラベルには、桜の花びらをシダの新芽の形に並べたロゴマークが印刷されている。ニュージーランド原産のコルというシダの新芽は、ニュージーランドのシンボル。そして日本のシンボルである桜。この2つを組み合わせたロゴには、ニュージーランドと日本を繋げたいという木村氏の思いが詰まっている。
また、シダの新芽は「新しい始まり」や「成長」「調和」の象徴とされる。つまり、ラベルにはニュージーランドと日本の調和、ワイナリーの成長を願う気持ちも込められている。
「おいしいワインに出会った時は、誰もが幸せな気持ちになり笑顔になる。そんな瞬間を多くの人に与えられるワインを妻と二人でつくりたい。そして、ニュージーランドワインの素晴らしさを日本に伝えたい」。これが木村氏の願いだ。
木村ご夫妻お二人の調和が生み出す、人を幸せにするワイン。木村氏は、そのワインで人と人を繋ぎ、ニュージーランドと日本を繋ごうとしている。