フランス、ボルドー地方に位置するサン・テミリオン地区の名門ワイナリーを紹介する本シリーズ。今回は、サン・テミリオンの格付け制定からおよそ50年の時を経て、最高位「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA」への昇格を果たした「シャトー・パヴィ」について、ご紹介していこう。
シャトー・パヴィのエピソード
シャトー・パヴィは、2012年の格付け見直しで、アンジェリュスとともにサン・テミリオンの格付けで最高位の「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA」に格上げされた。格付け制定からおよそ50年の間、最高位への昇格はなかったため、ボルドーの歴史に残る出来事となった。
シャトー・パヴィは、小規模なシャトーが多いサン・テミリオン地区において、最大規模のシャトーとなっている。所有している約32haのぶどう畑は、サン・テミリオン地区の南東の丘陵斜面に位置し、土壌にも恵まれた最高ランクの栽培地。最良の畑で栽培された高品質のぶどうからつくるシャトー・パヴィのワインは、サン・テミリオン地区で最高峰のワインの1つに数えられる。
有名なワイン評論家のロバート・パーカー氏も、シャトー・パヴィを高く評価している。シャトー・パヴィが産するワイン「シャトー・パヴィ」は2000、2005、2009、2010年にパーカーポイントで100点を取得している。初めて100点を獲得した2000年ヴィンテージについて、パーカー氏は、「間違いなくこれまでにボルドーで生産された最も記念碑的なワインの1つ」と評している。
シャトー・パヴィの歴史
シャトー・パヴィが所有する、サン・テミリオン地区の丘陵斜面にぶどうが植えられたのは4世紀と言われている。
この土地の最初の持ち主はタルマン家で、1850年にはサン・テミリオンの1級シャトーとして、当時のワインガイドブック「コック・エ・フェレ」に掲載されている。
1885年に、ボルドーの仲買人フェルディナン・ブーファール氏がタルマン家の土地を購入。6年で約50haまで土地を増やしてワインの生産規模を拡大した。フィロキセラが蔓延した際は、大きなダメージを受けるが、ブーファール氏は豊富な栽培経験で危機を乗り越え、畑を守った。
その後、シャトー・パヴィは、アルベール・ポルト氏の手に渡り、1943年にはパリの仲買人アレキサンドル・ヴァレット氏の所有となる。ヴァレット氏は、60年間にわたるぶどうの植え替え計画を忠実に実行し、パヴィの品質を高めた。そして1954年のサン・テミリオン格付けでは、「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセB」に格付けされた。
1998年に現オーナーであるジェラール・ペレス氏がシャトーを購入。彼は経営面だけでなく、品質向上のために様々な改革を行った。その結果、シャトー・パヴィのワインは、伝統的なスタイルのワインからモダンなワインへとスタイルを変え、2012年にサン・テミリオンの最高格付け「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA」に格上げされるに至った。
シャトー・パヴィのワインづくり
栽培地と栽培方法の改良
1998年にシャトーを取得したジェラール・ペレス氏は、ぶどう畑を改良した。まず、カベルネ・フランの一部をメルローに植え替えた。さらに排水性を良くするドレナージュや醸造設備への導水工事を行い、土壌を改善した。
ペレス氏は、ぶどうの樹の剪定方法も変更した。左右に主枝を伸ばし、そこから派生する枝にぶどうを実らせる「ギヨー・ドゥーブル(ダブル)」と呼ばれる方法から、片方だけに枝を伸ばす「ギヨー・サンプル」という方法に変更したのだ。ギヨー・サンプルにすると、収穫量が減るが、高品質な果実が実りやすくなり、その結果、品質の高いワインができる。さらに、枝を高く伸ばして葉が広がるようにするキャノピー・マネジメントを行って、収穫量を増やした。
最新技術の導入
ジェラール・ペレス氏は、最新技術を率先して導入し、醸造施設の改修、醸造方法の改良も行った。
発酵に使用するタンクは、1923年製のセメントタンク(容量200hl)から温度調整が可能な80hl容量の小さいフレンチオーク製のタンクに変更された。また、古い樽貯蔵庫を取り壊し、新しい樽貯蔵庫を建てた。新しい樽貯蔵庫は壁が二重構造になっている革新的な作りで、壁の厚さは60cmほどもある。壁と壁の間には空調設備が設置されており、この新しい設備で樽熟成が行われている。
設備だけでなく醸造方法にも、低温マセレーションや、澱を取り除かずにワインに深みを与えるシュール・リーといった最新のテクニックを導入している。
シャトー・パヴィでは、ぶどうの収穫はすべて手摘みで、収穫しながら選果している。醸造所で再度選果してから、除梗・破砕する。その後、フレンチオーク製の樽に入れて1週間ほど8~12℃で低温マセレーションを行う。そして、28~32℃で4~5週間アルコール発酵させた後、果皮浸漬を行い、新樽でマロラクティック発酵をする。
発酵後、18~24カ月熟成させるが、発酵後すぐには澱引きをせず、およそ6カ月の間、パトナージュ(澱の旨味成分をワインに含ませるためにかき混ぜること)をしながらシュール・リーを行う。その後は3カ月に一度澱引きをする。シャトー・パヴィでは、瓶詰め前に卵白を使ってのコラージュは行わず、軽く濾過をして瓶詰めしている。
シャトー・パヴィは、新しい設備や技術を積極的に取り入れることで、複雑で芳醇なワインを産み出すことに成功した。
シャトー・パヴィのおすすめワイン
シャトー・パヴィ
過去に4度、パーカーポイントで満点を取得している。メルロー主体に、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドしてつくられる。複雑で芳醇な香りと味わいを持つ。しっかりとしたタンニンが感じられ、熟成させるほど、味わいが増す。
レ・ザロム・ド・パヴィ
シャトー・パヴィのセカンドワイン。2005年から生産されている。10年の熟成に耐えるワインで、古典的なサン・テミリオンの味と評されている。濃厚なフルーツ味としっかりとしたアロマを感じられる。