コラム

変換期を迎えるボルドーワイン、サステナブルなワインづくりへ前進 ~ 「バリューボルドー2019」発表会

   

ボルドーワイン委員会は2019年4月24日、「バリューボルドー2019」のプレス向け発表会を開催した。発表会後の記者会見では、来日したボルドーワイン委員会会長のアラン・シシェル氏がボルドーの最新情報について説明した。シシェル氏が語った内容について、詳細を紹介する。

2018年ヴィンテージとボルドーワインの展望

記者会見でシシェル氏は、まず、ボルドーワインの最新ヴィンテージと日本市場の動向などについて報告した。

2018年ヴィンテージは“優れたクオリティ”

2018年の春は雨が多く、トラブルを予感させる始まりだったが、夏以降の気象条件は素晴らしく、ぶどうは収穫期までによく熟した。心配された収穫量も、十分に確保することができた。ワインは、繊細で香り高くフルーティー、かつバランスの優れたクオリティに仕上がった。

EPA発効で輸出額は一時的に減少

ワインは、フランスから日本へ輸出される物品の中で、輸出額が多いものの一つ。そして、ワイン輸出量の約半分をボルドーワインが占めるという状況だ。ボルドーワインは、日本では圧倒的な知名度を誇り、日本のワイン市場をけん引するリーダー的存在と認識されてきた。
2019年2月1日には日本と欧州連合(EU)の間で経済連携協定(EPA)が発効され、ワインの関税が撤廃された。このEPA発効時期を市場が意識したためか、2018年のボルドーワインの対日輸出額は、前年比8%減とややペースダウンした。しかし、これはあくまでも一時的なものと理解しており、再び競争力が上がってくると考えている。

「持続ある発展」に向けた取り組み

日本の消費者に対して実施したアンケートによると、「ワインを購入する際、サステナブルな生産者かどうかを考慮しているか?」という問いに、実に77%が「考慮している」と回答している。
世界各国で大きな広がりを見せる「持続可能なワインづくり」だが、ボルドーでも真剣な取り組みをしている。
現在、ボルドーでは、「健康を重視し、環境を大切にするワインづくり」を目標とし、60%のぶどう畑がサステナブル認証を受けている。近い将来、これを100%まで上げるため、ボルドーワイン委員会としてさまざまな施策を実施している。大きな柱となるのは、①水やエネルギーの消費を抑え、②生態環境を大切にし、③スタッフの健康管理にも力を注ぐ、という3点だ。

現在、フランス政府の制定するHVE(高環境価値)認証企業の4分の1が、ボルドーのワイン生産者だという。この事実からも、持続ある発展に向けた取り組みが広がりつつあることが見て取れるだろう。

生物多様性を保護するさまざまな取り組み

では、具体的にどのような取り組みが行われているのだろうか。
シシェル氏によると、動物や植物の生物多様性を保護するために、次のような取り組みが行われている。

1.カバークロップの採用

現在、ボルドーの畑全体の85%が、カバークロップを採用している。これはは、畑の土の表面に草を生やすことで、虫が住みついて有機物質をもたらし、土壌本来の機能を活性化させる効果がある。

2.休耕地に花を植える

カバークロップと同様に、休耕地も畑としての生き生きした土壌を保つため、花を植えている。そこにも虫が集まり、有機的なサイクルができる。同時に、畑の景観を美しくする効果もある。

3.木を植え、生き物の隠れ家をつくる

テントウムシやトンボ、畑に生息する小動物などのために、木を植えている。これらの木はアグロフォレストリーと呼ばれ、ぶどう畑の中や畑に沿って植えられる。木が枯れても撤去はせず、虫や鳥の避難場所としてその場に残している。
2018年には、灌木を使って約23kmに及ぶ生け垣も設置された。この生け垣は、多様な生態系を保護し、動物の隠れ場所として、また、自然の食料を提供する助けとして、大いに役に立つものだ。

4.コウモリを住まわせる

フランス国内には30種類のコウモリが生息しているが、そのうち22種類がボルドーの畑に住んでいる。コウモリたちは、ぶどうに付く害虫、主にハマキガを食べてくれる。一晩に2000匹もの害虫を食べてくれるため、その効果は絶大だ。
ボルドーの生産者たちは、コウモリが住めるよう巣箱を設置したり、使用していない小屋をあえて撤去せずに置いている。

ワインスクールやプロ用アプリも展開

ボルドーワイン委員会は、さまざまな手法を使ってボルドーワインの魅力を伝えてきたが、特筆すべきはトレーニングだ。
世界各国に「ボルドーワインスクール」を設置し、プロや愛好家向けに講習会を開催している。スクールは今年で30周年を迎えるが、過去8万5000人の生徒のうち、45%がプロ。入門講座から専門的な講座、イベント開催と、積極的な活動を行っている。
また、2017年よりデジタルツールの有効活用を始めた。具体的には、プロ用のアプリ「ŒnoBordeaux(ウノボルドー)」を開発。ボルドー発の最新情報や、専門知識などをアップし、情報を発信している。

「ŒnoBordeaux」ダウンロードはこちら

アンドロイド版:
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.civb.oenobordeaux&hl=ja

iTunes版:
https://itunes.apple.com/jp/app/%C5%93nobordeaux/id1210056846?mt=8

食の市場がよりライトに、体に優しいものに変化しつつある今、ボルドーワインも全体として大きな変換期を迎えている。軽快な赤、ロゼやスパークリングも多く見られるようになった。これからますます、日常的に楽しめるワインが増えてくるだろう。良質なつくり手の高品質なワインが気軽に楽しめる――そんなボルドーワインから、ますます目が離せない。

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About the author /  Yayoi Ozawa
Yayoi Ozawa

フランス料理店経営ののち、ワインとグルメ、音楽を専門とするライターへ転身