コラム

ワイン1万銘柄以上を審査したIWC2019、躍進した注目の産地は? ~ ワイン界にも温暖化の影響

1984年から開催されている「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)」 は、世界で最も権威のあるコンペティション(審査会)のひとつとされている。38カ国から選出された400人の審査員が、およそ50カ国からエントリーされた1万銘柄以上のワインを審査する。審査は2週間にわたり、先入観をなくし公平を期するために、産地や名称を伏せたブラインドテイスティング方式で審査される。このたび、2019年のIWC選考結果が発表された。

(C) Rob Lawson Photography Ltd

温暖化に対応した冷涼地域のワインが躍進

温暖化が大きな問題となっている今日、温暖化はワインの世界にも大きな影響を与えている。気温の上昇により、今まで温暖な地域でのみ栽培されていたぶどう品種が冷涼地域でも栽培できるようになっている。今回のコンペティションでは、冷涼地の生産者が、新たに栽培できるようになった温暖地域のぶどう品種を使用して産出したワインが数多く賞を受賞した。

この傾向が顕著だったのがイギリスワインだ。イギリスでは夏の気温が上昇し湿度も低下しており、2018年の夏は記録的な暑さに見舞われた。イギリスのワイン生産者は、この気候変動にうまく対応し、スパークリングワインとスティルワインで優秀な成績を収め、金賞を11銘柄、銀賞を50銘柄、銅賞を60銘柄で獲得した。イギリスの中でも特に気候変動にうまく対応したサセックス地方のワインが躍進し、金賞を受賞した11銘柄のうち7銘柄はサセックス地方のワインだった。

南半球のオーストラリアでも同じ現象が起きている。冷涼なワイン産地として知られているアデレード・ヒルズ やビクトリア州、タスマニア州 のワインが多く金賞に輝いていて、オーストラリア産ワインが獲得した金賞のうち2割を占めた。

ニュージーランドワインでは、もともとは温暖な地域で栽培されるシラーを冷涼な地域で栽培したクール・クライメット・シラーのワインが高く評価された。ワイン産地ホークスベイ のテ・アワンガ・エステート、ヴィダル、トリニティ・ヒルが産するクール・クライメット・シラーを使用したワインが金賞を受賞している。

温暖化にうまく対応した冷涼地域のワインが高評価を獲得したというのが今回のコンペティションの傾向だが、主要なワイン生産国は次のような評価を得ている。

フランス:ワイン界のリーダーとしての位置は変わらず

フランス産ワインは、参加国49カ国の中で最も高い評価を獲得し、ワイン界のリーダーとしての存在感を示した。フランス産ワインは、金賞を102銘柄、銀賞を480銘柄、銅賞を637銘柄で受賞。続くオーストラリアは金賞を67銘柄、銀賞を319銘柄、銅賞を359銘柄で獲得。続いて、スペイン(金53、銀209、銅347)、ポルトガル(金46、銀160、銅280)、イタリア(金28、銀235、銅375)となった。

フランスワインの中でもブルゴーニュワインとシャンパン(シャンパーニュ)はとりわけ有名だが、今回のコンペティションでも高く評価された。ブルゴーニュワインは金賞を37銘柄、銀賞を121銘柄、銅賞を112銘柄で受賞する一方、シャンパンは金賞を36銘柄、銀賞を96銘柄、銅賞を80銘柄で受賞した。

イタリア:ロゼワインで高評価

イタリアは今回、ロゼワインで快挙を成し遂げた。フランスのプロヴァンスといえばロゼワインというほど、プロヴァンス産のロゼワインは品質が高く人気だ。しかし今回、イタリア産のロゼワインがプロヴァンス産のロゼワインよりも高得点を獲得したのだ。

近年、新たに注目を集めているイタリアのワイン産地のひとつで、赤ワインとロゼワインが有名なシチリア島のエトナ。そのエトナでトッレ・モーラがネレッロ・マスカレーゼを使用して生産した「スカルネラ・エトナ・ロザート2018」が、ロゼワインの中で最高の96点を獲得し金賞に輝いた。

ポルトガル:エントリーしたワインの中で最高得点を獲得

今回のコンペティションで最高得点を獲得したワインは、ポルトガルのフォーティファイドワイン(酒精強化ワイン)「ジャスティーノス ・マデイラ・テランテス 1978」で、98点だった。ポルトガルワインは、フォーティファイドワインで強さを見せつけ、38の銘柄で金賞を獲得。ポルトガルの次にフォーティファイドワインで高評価を得たのはスペインで、27の銘柄で金賞を獲得した。続いて、オーストラリアが9銘柄、イタリアが2銘柄で金賞を受賞している。フォーティファイドワインの優れた生産者で、前回2018年のIWC Fortified Winemaker of the Yearに輝いたスペインのエミリオ・ルスタウ氏は、12銘柄で金賞を受賞している。

オーストラリア:南オーストラリア州が国内トップ生産地域の地位を確立

フランスに続いて2番目に高い評価を得たオーストラリアだが、その中でも特に南オーストラリア州のワインが評価された。南オーストラリア産のワインが受賞した金賞の数は、オーストラリア産ワインが受賞した金賞のおよそ半分にのぼり、32銘柄のワインが95点以上の高得点 を獲得している。

今回のコンペティションで、南オーストラリア州は、オーストラリアワインを牽引する国内トップのワイン生産地としての地位を確立した。また、同州のトップワイナリーと称されるバード・イン・ハンドは、4銘柄で金賞を獲得した。

南米:品質の高い赤ワイン

アルゼンチンやチリに代表される南米は赤ワインで有名だが、今回のコンペティションでも高評価を得た。2018年のIWC Red Winemaker of the Year に選出されたフランス人のエルヴェ・ジュワイヨ・ファーブル氏がアルゼンチンに設立したワイナリー、ボデガス・ファーブルが産する「HJ ファーブル・レゼルヴァド・マルベック・カベルネ・フラン 2017」が96点を獲得。メンドーサ赤ブレンドワイントロフィーとアルゼンチン赤ワイントロフィーを受賞した。

アルゼンチンとチリは合わせて24銘柄で金賞を受賞。そのうち23銘柄が赤ワインだった。

南アフリカ:品質の高い白ワイン

南アフリカは、突出した白ワインの品質に注目が集まった。13銘柄で獲得した金賞のうち、11銘柄が白ワイン 、2銘柄が赤ワインとなっている。

その他の注目国

今回注目すべき結果として、モルドバ共和国とチェコ共和国が初めて金賞を受賞したことが挙げられる。このほか、近年、急激に品質が向上している中国産ワインが金賞を4銘柄、銀賞を17銘柄、銅賞を37銘柄で受賞した。

日本

世界的にはまだメジャーとはいえない日本のワインだが、今回は3銘柄が金賞を獲得した。

メルシャン株式会社のシャトー・メルシャンが産する「北信左岸シャルドネ リヴァリス 2017」 が日本白ワイントロフィーと金賞を受賞。さらに「城の平 オルトゥス 2013」が金賞、「北信シャルドネ アンウッデッド 2017」を含む9銘柄が銀賞、「藍茜 2016」と「萌黄 2017」を含む8銘柄が銅賞を受賞した。

ほかに、サントリーワインインターナショナル株式会社の「登美 赤 2014」が金賞を獲得。同社は、2018年に「登美 赤 2013」で金賞を受賞しており、2年連続の金賞受賞となった。

<関連リンク>
2019 Champion Trophy Results|IWC

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で
About the author /  ワインバザール編集部
ワインバザール編集部

世界各国のワインに関するニュースやコラムなどを配信していきます。