由緒ある国際ワインコンクールが開催され、影響力のあるワイン雑誌『デキャンター』が発行されているイギリス。古くからワインを楽しんでいる国であるにもかかわらず、ワイン生産国としてはほとんど耳にすることはなかった。そのイギリスが、近年、高品質のワインを生産し、権威ある国際コンクールで次々と賞を受賞。ワイン生産国へと変貌を遂げようとしている。
温暖化により恩恵を受けたイギリスワイン
フランスをはじめとするワイン生産大国が、温暖化により、栽培品種の追加や変更を迫られている中、イギリスでは夏の昼夜の気温が上昇したことで、ぶどうの栽培可能地域が広がった。
イギリスで栽培されているぶどうの本数は、2017年には100万本だったが、2018年には160万本にまで増加している。ワインの年間生産量も2016年の415万本、2017年の590万本から急激に増えて、2018年には1320万本に達している。そして2040年までに4000万本になると予測されている。
さらにイギリスワインの品質も向上していて、売り上げと国際的評価の向上につながっている。2017年には、権威あるデキャンター・ワールド・ワイン・アワード(Decanter World Wine Awards)と、インターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション(IWSC)、インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC) で上位の賞を受賞した。こうした評価と品質の向上に伴い、売り上げも2015年から2017年にかけて31%伸びた。
今年2019年のIWCでも、イギリスワインは気候変動にうまく対応していると評価された。スパークリングワインとスティルワインで優秀な成績を収め、11銘柄で金賞を、50銘柄で銀賞を、60銘柄で銅賞を獲得している。
海外のバイヤーもイギリスワインの品質の高さを認めつつあり、2017年には27カ国だった輸出先も、現在では40カ国に増加。輸出量の約65%を占めるアメリカやスカンジナビア半島諸国が主な輸出先となっているが、今後、日本などの市場も拡大できるとしている。
国内外の需要に伴い、現在164軒あるワイナリーも今後さらに増加すると見込まれている。そして、ワイン産業関連の雇用も現在は約2000人だが、今後20年で最大3万人の新規雇用を生み出すとみられている。
スパークリングワインの躍進
イギリスは、古くからスティルワインをつくってきたが、近年、スパークリングワインの生産が盛んになり、現在では、イギリスで生産されるワインの69%がスパークリングワインとなっている。
イギリスでスパークリングワインが盛んにつくられるようになったのは、アメリカ人のモス夫妻の功績が大きい。夫妻は1988年頃からイギリスでスパークリングワインを本格的につくり始めた。そして、初ヴィンテージの1992ナイティンバー・プルミエ・キュヴェ・ブラン・ド・ブランが、1997年のIWSCで金賞とイングランド産ワイントロフィーを受賞。翌年に発表したワインは、同じ金賞とイングランド産ワイントロフィーだけでなく、瓶内二次発酵スパークリングワイントロフィーも受賞した。こうして、イギリスで質の高いスパークリングワインをつくれる可能性を目の当たりにし、多くのイギリスのワイナリーがスパークリングワインをつくり始めるようになった。
また、近年、フランスの代表的なシャンパンのつくり手であるテタンジェがケント州で、世界で初めて辛口のシャンパンを誕生させたポメリーがハンプシャー州でスパークリングワインをつくり始めたことも更なる追い風となっている。
今後の課題
特にスパークリングワインで飛躍的な成長をみせるイギリスワインだが、課題もある。それは、春先の霜被害に対する対応だ。フランスのシャンパーニュ地方では、霜の被害で生産量が著しく低下しても、良いぶどうが収穫された年につくられブレンド用に保存してあるリザーブワインと混ぜ合わせることで需要に対応している。しかし、リザーブワインを確保するには、莫大な資金を必要とする。小規模ワイナリーが多いイギリスで、この問題にどう対応していくかがイギリス産スパークリングワインの更なる飛躍の鍵となりそうだ。
また、Wines of Great Britain(WineGB)が指摘するように、ニュージーランドやオーストラリアなどワイン新興国の成功には政府からの多大な支援が大きく関わっている。イギリス政府が、どれだけ自国のワイン産業に関心を払い関わっていくのかという点も、イギリスワインの成長に大きな影響を与えるとみられている。