「ベル エポック」――パリが最も輝いていた時代の名前を冠したそのワインは、“シャンパーニュの芸術品”として人々を魅了し続けてきた。200年以上の歴史を持つ老舗メゾン、ペリエ ジュエが1964年に初ヴィンテージをつくり出した逸品で、ボトルにはメゾンの象徴であるアネモネが描かれている。
この記事では、「ベル エポック」の華麗な歴史から人気の秘密、値段など、実際に購入する際の参考情報を紹介する。
シャンパーニュ「ベル エポック」とは
その高級感のある美しいボトルから、日本ではホストクラブやキャバクラなど、夜の街で人気の高い「ベル エポック」。実は、女王陛下や社交界で古くから愛されてきたペリエ ジュエが手掛ける、格調あるシャンパーニュだ。モナコ大公妃グレース・ケリーが、こよなく愛したことでも知られる。
まずは、その名が持つ意味と、なぜ“芸術品”とうたわれるのか、その理由を見ていこう。
パリの良き時代、ベル・エポック
「ベル・エポック(良き時代)」とは、19世紀末から20世紀初頭のパリが最も輝いていたといわれる時代のことを指す。アール・ヌーボーや印象派、エッフェル塔など、この時代に生まれた文化芸術は、今でもフランスを象徴するものばかりだ。
特に芸術では、自然の有機物をモチーフにするアール・ヌーボーがヨーロッパで大流行。その第一人者として知られるのが、工芸作家のエミール・ガレだ。
エミール・ガレによる白いアネモネ
当時、ペリエ ジュエでは、3代目としてアンリ・ガリスが当主を務めていた。弟のオクターブ・ガリスは芸術愛好家で、彼がエミール・ガレと出会ったことが縁となり、ボトルの絵を依頼したという。そうして描かれたのが、金色の縁取りがされた白いアネモネである。
アネモネの花言葉は、“期待”。アール・ヌーボーの特徴であるS字型シルエットのアネモネに込められた意味こそ、シャンパーニュ「ベル エポック」を表現するものであり、創業者がこよなく愛した「自然とアート」が示されている。これが、“アート・オブ・シャンパーニュ(シャンパーニュの芸術品)”とたたえられる理由だ。
「ベル エポック」のつくり手、ペリエ ジュエ
「ベル エポック」のつくり手であるペリエ ジュエは、1811年、フランスのシャンパーニュ地方で産声を上げた。メゾンの名は、ピエール・ニコラス・ペリエとローズ・アデレード・ジュエという創業者夫婦の名前に由来する。夫婦でささやかに始めたシャンパーニュづくりだったが、品質にこだわったワインづくりが注目され、次第に名声を高めていく。
気品ある「ブリュット」スタイルの誕生
2代目の時代、1846年には、辛口(ブリュット)スタイルが誕生する。シャンパーニュといえば、それまでは甘口の食後酒として飲まれていたが、糖分を従来の10分の1程度に減らし、食事をしながら楽しめる辛口に変えたのだ。
この”味変“によって、メゾンが手掛けるシャンパーニュは、食事中や食前酒としても楽しめるものとして認知されるようになる。特に辛口を好むイギリス市場で人気を博し、1861年にはヴィクトリア女王の御用達となった。その人気は、フランスのナポレオン3世や各国の王侯貴族などに広がり、世界のセレブリティたちが憧れるシャンパーニュメゾンへと急成長する。
「ミレジメ」によるプレミア化
今ではヴィンテージをボトルに記載するシャンパーニュも多いが、このアイデアを最初にやり始めたのが、ペリエ ジュエだ。1858年に初めて、ぶどうの収穫年を記したシャンパーニュを発表している。
基本的にシャンパーニュは、品質を維持するために、複数のヴィンテージのワインをブレンドしてつくる。一方で、出来の良い年のワインだけでつくった特別なシャンパーニュを「ミレジメ」と呼ぶ。ペリエ ジュエはいち早くこのスタイルを導入し、ヴィンテージを記載して発売した。これによって特別感が生まれ、ペリエ ジュエの当たり年のシャンパーニュは、プレミア価格で取引されたという。
ちなみに日本では、“最高傑作”と評される、2012ヴィンテージの「ベル エポック」が人気だ。2012年はぶどうの成熟に最適な気候が続き、最上級のぶどうが収穫できた。その中から繊細なシャルドネと力強いピノ・ノワールをブレンドし、さらに5%だけピノ・ムニエを加えることで、素晴らしい味わいを生み出した。
白いアネモネ柄ボトルの誕生
そして、3代目の時代に誕生したのが、メゾンのシンボルとなる白いアネモネ柄のボトルだ。エミール・ガレによって1902年に誕生したこのボトルは、第一次世界大戦の混乱によって一時失われていたが、1964年に当時のセラーマスターがその幻のボトルを発見。「ベル エポック」のボトルとして復活することとなり、今や同社のフラッグシップとして世界中の人に愛されている。
「ベル エポック」が人気の理由
白いアネモネ柄ボトルとともに誕生した、シャンパーニュ「ベル エポック」。“シャンパーニュの芸術品”といわれるゆえんは、もちろんアネモネのボトルだけではない。
ぶどうへのこだわりと徹底した管理
「ベル エポック」は、ぶどうの個性を生かした味わいを特徴とする。口に含むと、優雅なフローラルの香りとともに、複雑で繊細な味わいが広がる。
ベリエ ジュエが所有する畑は、99%以上がグラン・クリュ(特級畑)。区画あたりの収穫量制限を設けるなど、“白ワインの女王”シャルドネを主体に、よりすぐりのぶどうを栽培している。
所有する65haのぶどう畑は、東京ドーム約13個分に匹敵する。同じシャルドネでも、グラン・クリュのクラマン村とアヴィーズ村では味わいが異なり、特にクラマン村のシャルドネが、繊細な味わいで高い評価を受けている。
8人のセラーマイスターが受け継ぐ伝統
創業から200年以上が経った現在でも、ペリエ ジュエのクラフトマンシップは変わらない。歴代8人しかいないセラーマスター(最高醸造責任者)が、脈々とその精神を受け継いでいるからだ。
2020年から8代目のセラーマスターを務めるのは、セブリーヌ・フレルソン氏だ。同社初の女性セラーマスターで、人並み外れた感性とワインへの情熱が、彼女をその地位に押し上げた。
7代目のエルヴェ・デシャン氏は、シャルドネのみでつくる「ペリエ ジュエ ベル エポック ブラン・ド・ブラン」や、日本の桜をオマージュした「同 ベル エポック エディション プルミエール」などを発表した人物。同氏は、27年間で培った全てのノウハウを、2年間という歳月をかけて新しい責任者へと引き継いだという。
定番から期間限定品まで、「ベル エポック」の逸品
「ベル エポック」には、定番商品の他に、季節の限定品などがある。
定番商品は、緑の「ペリエ ジュエ ベル エポック」、オレンジ色の「同 ベル エポック ロゼ」、金色の「同 ベル エポック ブラン・ド・ブラン」の3種。定番商品とはいえヴィンテージシャンパーニュのため、ぶどうの生育条件などが基準に満たない場合には生産されないこともあり、全ての商品で希少性が高いといえる。
小売店やオンラインショップでも、価格が変動することが少なくない。最安値は、複数サイトで「商品名」や「製造年」、そして「正規品/並行輸入品」の表記を確認しながら検討することをおすすめする。
ペリエ ジュエ ベル エポック
緑色のボトルに白いアネモネをあしらった、エミール・ガレのデザインボトルが印象的な「ベル エポック」を象徴する逸品。美しいボトルは贈り物におすすめで、お祝いの席でもテーブルに彩りを添える。インスタ映え商品としてもテッパン。
特徴:アップルグリーンの外観。フレッシュで洗練された味。白い果実の香り。
マリアージュ:刺し身やカルパッチョなどの魚介類、さっぱりした鶏肉、舌平目
アルコール度数:12度
参考小売価格:2万6620円(税込)
ペリエ ジュエ ベル エポック ロゼ
グラン・クリュのピノ・ノワールとシャルドネを使ったロゼ。10年近い熟成を経て、通に愛される味わいが完成した。
特徴:淡いサーモンピンク。グレープフルーツの香りに始まり、バラや野イチゴの香りが続く。爽やかな口当たりと滑らかな余韻が楽しめる、バランスの良い味わい。
マリアージュ:ジビエなどの肉料理、ロブスター
アルコール度数:12度
参考小売価格:5万5000円(税込)
ペリエ ジュエ ベル エポック ブラン・ド・ブラン
特別な2区画で収穫された最上級のシャルドネのみを使用。さらに、単一畑で同じ年に収穫したぶどうのみを使用するという、こだわりの逸品。
特徴:淡いゴールド。フレッシュでふくよかな味。グレープフルーツなどのかんきつ系の香り。
マリアージュ:イタリアン、白身魚や魚介類、豚肉、鶏肉料理
アルコール度数:12度
参考小売価格:8万8000円
ペリエ ジュエ ベル エポック エディション オータム
7代目のセラーマスターが発表した、日本の秋をイメージしたロゼ。紅葉を想像させる深みのある色合いが印象的。
特徴:ほのかに赤みを帯びた、ピンクグレープフルーツを思わせる色合い。ザクロやベリー、柿、かんきつ類の豊かな香りを持つ。生き生きとした泡が立ち、まろやかな口当たり。
参考小売価格:5万5000円
ペリエ ジュエ ベル エポック エディション プルミエール
7代目のセラーマスターが日本の桜にインスパイアされ、花が咲き誇る喜びをイメージしたシャンパーニュ。グラン・クリュの中でも、厳選された2区画のシャルドネを90%使用している。
特徴:明るくフレッシュなペールピンク。ピーチなど白い果実のようなフローラルな香りに、シャルドネならではの爽やかさが調和している。
参考小売価格:3万2450円
なお、価格は日によって変動するため、検索する際は「正規品 最安値」と入れて検索してみよう。
「ベル エポック」、5つの魅力
最後に、「ベル エポック」の魅力を5つにまとめて紹介する。
① 女王陛下にも愛された老舗メゾンのフラッグシップ商品。
② エミール・ガレによる、インスタ映えするアートなボトルデザイン。
③ グラン・クリュのシャルドネを主体に使用した、複雑で繊細な味わい。
④ 基準を満たした年だけにつくられる、プレミアム感。
⑤ 定番商品の他に、季節の限定品などもある。
関連リンク
ペリエ ジュエ公式サイト