コラム

サクラアワードで最高賞受賞の「イル パッソ」を手掛けるヴィニエティ・ザブ ~解説:イタリアのワイナリー

イタリアは、ワインの生産量世界一を誇る“ワイン大国”だ。その割合は、生産量第2位のフランスを凌ぎ、世界全体の20%を占める。地中海とアルプス山脈に囲まれたイタリアは、温暖な気候を特徴とし、ぶどうの栽培時期には降雨量も少なく、ワインづくりに最適な環境がある。そのため、古代からワインづくりが盛んで、現在も20州全てでつくられているほどだ。

そんなイタリアのワイナリーを解説していくシリーズの初回は、コストパフォーマンスの良さから世界中で人気の「イル パッソ」を手掛ける、シチリアのヴィニエティ・ザブ(Vigneti Zabu)について紹介する。

ヴィニエティ・ザブとは

ヴィニエティ・ザブは、日本で開催されるワインコンペティション「サクラアワード(“SAKURA” Japan Women’s Wine Awards)」で最高賞を受賞するなど、高品質ながら手頃な価格で購入できる「イル パッソ」のつくり手として知られる。

ファルネーゼグループの一員に

ヴィニエティ・ザブの歴史は、1980年に、創業者のアデュア・ヴィッラ氏が南アメリカからイタリアへ移住したことから始まる。

イタリアでワイン販売に携わったヴィッラ氏は、ワイナリー経営を志すようになる。その後念願の畑を購入し、友人でイタリアの有力生産者ファルネーゼの醸造家でもあるフィリッポ・バッカラーロ氏に披露したところ、バッカラーロ氏はその畑に可能性を感じ、個人的に関わりを持つこととなった。

3年間畑を手入れした後、1984年にようやく初めてのワインづくりをスタート。その後順調に売り上げを伸ばし、世界へ販路を広げるまでになる。しかし、徐々に世界中の顧客を相手にしていくことが困難となった。

そのため2010年からは、バッカラーロ氏と、同じくファルネーゼのカミッロ・デ・ユリウス氏、ヴァレンティーノ・ショッティ氏が、ヴィッラ氏から畑を引き継いで、ヴィニエティ・ザブのオーナーとなった。イタリアトップの生産者であるファルネーゼの資本が入ることで、ザブはグループの一員としてさらなる成長を遂げたのである。

恵まれた環境でのぶどう栽培

ヴィニエティ・ザブでは、シチリアの州都パレルモから約90km離れたサンブーカ・デイ・シチリアに、25haの自家畑を所有する。周辺はベリーチェ渓谷やアランチョ湖などの自然に囲まれ、工場の排気など空気汚染の原因となるものもない、恵まれた環境だ。

気候も独特で、夏は暑く乾燥しているが、標高が高く昼夜の寒暖差がある。この気候がぶどう栽培に適しているため、ヴィニエティ・ザブの畑では、質のよいぶどうができる。また、畑の標高が約400mと高く、風通しもよいことから虫などの病害も少ない。ゆえに、殺虫剤や防カビ剤、除草剤といった化学的なものは使用しない、オーガニック栽培が可能なのである。サボテンしか育たないような極度に乾燥した土地だが、アランチョ湖の豊富な水を利用しているのも特徴だ。

主力はネレッロ・マスカレーゼで、その他に、ネーロ・ダーヴォラなどシチリアの土着品種に力を入れている。一部でシャルドネ、シラー、メルローも生産している。また、ぶどうは、機械を使わずに全て手摘みで収穫している。

ヴィニエティ・ザブでは、自社畑で収穫したぶどうの他にも、契約農家から買い取ったものも使用している。買い取ったぶどうは「ザブ」シリーズと呼ばれるスタンダードクラスのワインに使い、上位クラスのワインには自社畑のものをと使い分けをしている。

だからと言って、買い取るぶどうの質に妥協することはない。ヴィニエティ・ザブでは、ぶどうを買い取る際は収穫量ごとに支払うのではなく、区画ごとに支払いをするようにしている。ぶどうは収穫した重さに応じて支払いをするのが一般的だが、アブルッツオでのファルネーゼのやり方を参考にして、このようにしている。

これによって収穫量が少なくても収入が安定するため、契約農家は間引きや選定を心置きなく行える。その結果としてヴィニエティ・ザブでは、質の高いぶどうを得られるようになるのだ。

徹底した管理のもとで行うワインづくり

ヴィエニティ・ザブは、恵まれた自然環境のもとで丁寧に育てたぶどうと、最新の設備、徹底した管理により、高品質のワインを生産し続けている。

ワインづくりは、協同組合で行っている。醸造設備は主に組合のものを使用しているが、クロスフロー・フィルター(濾過装置)など一部の設備は、ファルネーゼの持ち込みだ。

セラー内には古いコンクリートタンクがあり、主にワインの保管やマロラクティック発酵(リンゴ酸を乳酸に変化させる過程)に使われている。コンクリートタンクは、ステンレスタンクより長期保存に向いており、ワインの果実味を損なわない。セラーは、分厚い1mの壁で気温を一定に保っている。

赤ワインの醸造用タンクはセラー内に、白ワインのものは屋外に設置。それぞれの温度はコンピュータ制御により、オフィスから常に監視・コントロールできるようになっている。また、醸造は酸化を防ぐため、窒素を充填させて行う。

醸造家には、ヴィニエティ・ザブの創業当時から関わっている主任のバッカラーロ氏のほか、2013年からはシチリア出身のジュゼッペ・アルファーノ氏が常駐として加わった。アルファーノ氏は、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、アメリカ、フランスのプロヴァンスなど、世界各地でワインづくりの経験を積んだスペシャリストだ。収穫時など重要な判断が必要な時期にはバッカラーロ氏も来て、全体に指示を出している。

最高賞を受賞した看板ワイン「イル パッソ」とは?

ヴィニエティ・ザブを代表するワインといえば、赤ワインの「イル パッソ」だろう。

2019年に開催された、日本の女性審査員によるワインコンペティション「サクラアワード2019」では、「ヴィニエティ・ザブ イル パッソ ネレッロ マスカレーゼ 2017」が、最高賞のダイヤモンドトロフィーを見事受賞した。ダイヤモンドトロフィーは、エントリー総数4326本中わずか48本しか選ばれなかった、非常に栄誉ある賞だ。

そう聞くと「イル パッソ」は、手の届かない高値のワインのようにも思えるかもしれない。しかし、日本でも1000~2000円台で販売されている。高品質なワインながら、手軽にトライできる価格なのも魅力だ。

この「イル パッソ」には、かつてはネレッロ・マスカレーゼとネーロ・ダーヴォラを混ぜていたそうだ。しかし、樹齢がある程度高くなり、品質が安定したため、2016年ヴィンテージ以降はネレッロ・マスカレーゼ100%でつくられている。

なお、ヴィニエティ・ザブでは、ネーロ・ダーヴォラ100%でつくる“もう1つのイル パッソ”「ヴィニエティ・ザブ イル パッソ ヴェルデ ネーロ ダーヴォラ」 も生産している。購入時は、ラベルをよく確認して選びたい。

「イル パッソ」のつくり方や特徴は?

ヴィニエティ・ザブが所有するネレッロ・マスカレーゼの畑は、粘土質土壌と砂質土壌が半々という割合の特徴的なテロワールだ。ここでは、力強さとエレガントさを併せ持つぶどうが出来上がる。

ぶどうは、房から10cmほどのところで枝を切り、畑に7~14日間ぶら下げ、乾燥(アパッシメント)させる。徐々に水分が減少し、エキスが凝縮して糖度が増したぶどうを、既に発酵したネレッロ・マスカレーゼに加え、もう一度発酵させた後、木樽で約半年熟成させる。

この製造方法は、リパッソと呼ばれる。リパッソとは「元に戻す」という意味で、二重発酵のこと。これにより、ワインに複雑かつまろやかな味わいが生まれるのだ。同じくイタリアのヴェネト州でつくられている最高級ワイン「アマローネ」も、同じ製法が採用されている。

ネレッロ・マスカレーゼは、ピノ・ノワールのようなエレガントさを持つ品種で、地元では、「色が薄く、糖度が上がらない」とされていた。そのため、アパッシメントとリパッソを用いることで、濃くて糖度が高く、フルーティーなワインをつくることに成功した。

ちなみに商品名は、丘から丘に続く道を「イル パッソ」と呼んだことが由来になっている。また、ラベルに足跡が描かれているが、これは「乾燥」を意味する「パッソ」に、「歩み」という意味もあることに起因する。手摘みの作業から始め、品質を高めるために一歩一歩着実に前に歩んでいく、ヴィニエティ・ザブの姿勢が表現されている。

ヴィニエティ・ザブのおすすめワイン

「イル パッソ」をはじめ、イタリアの土着品種を使用したワインなど、おすすめのワインを紹介する。

ヴィニエティ・ザブ イル パッソ ネレッロ マスカレーゼ

ヴィニエティ・ザブを代表する1本。鮮やかで濃い黒紫。糖分を上げた干しぶどう特有の芳醇な香りと果実そのものが持つ、弾けるような甘みが生きている。タンニンは控えめで、滑らかな口当たり。スパイシーさやバルサミコを思わせる風味も特徴だ。

品種:ネレッロ・マスカレーゼ
味わい:フルボディ
参考小売価格:2100円(税別)

ヴィニエティ・ザブ イル パッソ ヴェルデ ネーロ ダーヴォラ

有機栽培されたネーロ・ダーヴォラを使用した、もう1つのイル パッソ。深い赤色で、赤や黒の果実の濃厚な香りに加え、スパイス、かすかにユーカリのニュアンスがある。フルボディのしっかりとした厚みと、長い余韻が特徴だ。ネレッロ・マスカレーゼのものとの違いを飲み比べてみるのも楽しい。

品種:ネーロ・ダーヴォラ
味わい:フルボディ
参考小売価格:1750円(税別)

ヴィニエティ・ザブ ザブ ネーロ ダーヴォラ

土着品種のネーロ・ダーヴォラを使用した赤ワイン。若い樹齢のぶどうを使い、飲みやすくフルーティーに仕上げた。ダークチェリーの果実アロマに、桑の実のような凝縮したベリーが野性的に香る。ほのかな甘さの中にもフレッシュな酸味があるため、キレが良く爽やかな印象。

品種:ネーロ・ダーヴォラ
味わい:ミディアムボディ
参考小売価格:1300円(税別)

ヴィニエティ・ザブ ザブ グリッロ

シチリアの代表的品種グリッロを使った辛口の白ワイン。ぶどうは、協同組合の契約区画のものと自社畑のものをブレンドしている。麦わら色で、爽やかな花の香りとともに、エキゾチックな果実の香り。フレッシュでありながら厚みがあり、ほろ苦い後味が心地よい。

品種:グリッロ
味わい:辛口
参考小売価格:1300円(税別)

恵まれた環境のなか、質の高いぶどうとワインづくりに取り組むヴィニエティ・ザブ。高品質でコスパ抜群のワインを、ぜひ味わってみてはいかがだろうか。

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About the author /  大江 有起
大江 有起

コピーライター、雑誌の編集者などを色々経てフリーライターに。文章を書くことと、赤玉スイートワインや貴腐ワインのような甘いワインが好きです。 ワインバザールさんにてワインに興味を持ち、一般社団法人日本ソムリエ協会ワイン検定シルバー取得しました