コラム

メドックワイン マスタークラス2022:①主要ワイン産地メドックの歴史と多様なテロワール

メドックワイン委員会は2022年11月2日、八芳園(東京都港区)にて、「メドックワイン マスタークラス2022」を開催した。

講師を務めたのは、日本ソムリエ協会理事で、同協会認定ソムリエ・エクセレンスの米野真理子氏。米野氏から、フランスのワイン生産地として知られるメドックの歴史やテロワール、格付け、環境保護への取り組みなどについて解説があった。

米野氏は現在、ボルドーワイン委員会から正式に認められた、ボルドーインターナショナルエデュケーターとしても活躍している。2~3年に一度研修を受け、更新時にはチェックを受けて、ボルドーの新情報を発信する役割を担っている。米野氏が2019年に現地を訪れた際は、サステナブルなワインづくりなど、これまでのイメージとは違う、新しいメドックについて話があったという。

講師を務めた米野真理子氏

クラス後半では、メドック地区全8アペラシオンのワイナリーから寄せられた、2019年と2010年代のワインのテイスティングも実施された。

1回目となる今回の記事では、メドックの歴史や多様なテロワールについて取り上げる。

メドックの概要

フランス南西部のボルドー地方に位置するメドックには、600軒ほどのシャトーと約1000のブランドが存在する。メドックのぶどう畑は1万6200haあり、ボルドーのぶどう畑の15%を占める。食用を含めた日本の全てのぶどう畑と同じくらいの面積となっており、その規模の大きさがうかがえる。

格付けで有名なメドックは、高級ワインの産地と称される。生産者の規模はさまざまで、畑の面積が0.5haほどの小規模農家と200ha以上を有する大規模農家が隣り合っている。

地域全体で年間8000万本を販売し、EU(欧州連合)に40%、その他の国々に60%を輸出している。輸出金額は7~8億ユーロ(約1000~1200億円)で、ボルドーが輸出する赤ワインの約40%をメドックワインが占めている。

ボルドー地方とメドックの歴史

ボルドー地方では、紀元前40年にぶどうの樹があったとされ、紀元100年にはワインを輸出していたという。

中世には、イギリスの影響を受けてワイン産業が成長する。その背景には、フランスに大領地を有していたアキテーヌ女公でフランス王妃のアリエノール・ダキテーヌが、離婚後の1152年に、後のイングランド王ヘンリー2世の妃となったことが挙げられる。これをきっかけにイギリス人がワインを輸入するようになり、ボルドー地方はイギリスとの経済活動が急増し、ワイン産地として大きく発展した。

その後、有力者たちがメドックのテロワールに投資し、14世紀ごろにはぶどう畑が出現した。17世紀にはオランダ人がメドックの沼地を干拓するとともに、硫黄や補酒(ウイヤージュ)、澱抜き(スティラージュ)などを用いて輸送のための保管技術を開発した。

1855年、ナポレオン3世の要請で格付けが制定されたことで、メドックのワイン産地としての評価が高まった。そして1860年代のフィロキセラ禍、1929年からの世界恐慌、1950年代の過酷な冷害など、歴史の中で困難に見舞われながらも、今日、ワイン王国フランスの中でも重要なワイン産地として、その地位を確立している。

メドックのテロワール

メドック地区は、ジロンド川に沿うような形で、縦70~80km、幅2~5kmと細長く広がっている。長い年月を経てガロンヌ川から運ばれた山の砂利が、浸食と堆積を繰り返した結果、土壌にさまざまな違いが表れた。

西部や北部は粘土と石灰質、あるいは粘土と砂質の層で、西部のリストラック周辺はピレネー山脈の砂利や石英に砂、粘土質が混ざっているところもある。ぶどう品種は、メルローが多く植えられている。

東部はガロンヌ川とドルドーニュ川の増水によって形成された砂利の層で、水はけの良い土壌となっている。栽培品種はカベルネ・ソーヴィニヨンが多い。

また、海洋性気候のため温暖で、程よい湿気と日照に恵まれており、メドック地区はワインづくりに最適な土地と言える。

メドック地区のテロワールについては、次回以降の記事で各アペラシオンの特徴を紹介する際にも少し触れる。

現在のメドック

歴史あるワイン産地メドックは、家族経営の生産者が多い。現在、規模の大小を問わず若い世代がワインづくりを引き継いでおり、女性や外国人を含む若く意欲的な生産者が栽培や醸造の責任者として活躍している。

また、メドックでは、サステナブルなワインづくりにも力を入れている。ぶどう畑を元の生態系に戻すためにカバークロップを植え、刈り取る際は一列ずつヒツジに食んでもらうことで草中の虫を守る。ぶどう畑の近くにコウモリの巣箱をつくって、ぶどうに害をなすガを捕食してもらうといった工夫もしている。

ビオやビオディナミ、HVE3など、環境保護に関する各種認証の取得も進んでいる。メドックにある8つのアペラシオンのうち、メドックとオー・メドック、リストラックは栽培面積の94%、ムーリスとマルゴーは約78%(2020年データ)が、認証済みあるいは取得中となっている。

次回の記事では、1855年のメドック格付けなど、3つの公式な格付けについて紹介する。

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