コラム

格付け筆頭シャトーの未来に向けた挑戦 ――DBRラフィット社のサステナブルなワインづくり④

サントリーは2025年2月26日、パレスホテル東京(東京都千代田区)にて、ドメーヌ バロン ド ロートシルト ラフィット社(Domaines Barons de Rothschild Lafite)のサステナブルなワインづくりに関するセミナーを開催した。

同セミナーでは、サントリー ワイン本部 輸入ワイン戦略部長の新村聡氏とDBRラフィット社のオーナーでCEOのサスキア ド ロスチャイルド氏が登壇し、2025年で40周年を迎える両社の提携の歴史や、サントリーと同様にサステナブルなワインづくりを進めるDBRラフィット社の取り組みが語られた。

本記事では、5大シャトー筆頭であるシャトー ラフィット・ロートシルト(Château Lafite Rothschild)のサステナブルなワインづくりと、同シャトー取得から150周年を記念する「シャトー ラフィット・ロートシルト 2018」を紹介する。

未来を照らす「PHARE」プロジェクト

シャトー ラフィット・ロートシルトは、1855年のメドック格付けで第1級の筆頭とされ、その後も圧倒的な存在感を誇り続けるシャトーだ。ジェームス ド ロスチャイルド男爵が1868年に取得し、同年にDBRラフィット社が設立された。

他の追随を許さない品質の高さとブランド力から、別格の存在とも言えるシャトー ラフィット・ロートシルトだが、DBRラフィット社が所有する他のワイナリーと同様に、未来のワインづくりに向けて、サステナブルな取り組みを続けている。

例えば、同社が進める「PHARE(フランス語で灯台の意)」プロジェクトは、次世代に継承するためぶどう畑の遺伝的多様性を保存したり、気候変動に強いぶどう品種を選定したりする取り組みだ。プロジェクトチームは4年がかりで約44haのぶどう畑を評価し、34万4394本の樹を観察したという。

温故知新の畑づくり

セミナーの中で、サスキア氏はたびたび「昔の方々がやっていた方法を試してみる」と口にしていた。

セミナーでは、ボルドーの1707年の古い地図と1950年代、1970年代、2000年代の地図が提示された。比較してみると、1950年代にはぶどう畑の他に果樹や野菜の畑があったこと、1970年代にはまだ残っていた森や水場が2000年代にはなくなり、ぶどう畑のみになっているのが分かる。

サスキア氏は今後のワインづくりについて、「特に新しいことをやっていこうというのではなく、昔の人が行ってきた自然との調和をもう一度取り戻したい」と語った。2030年に目指す理想の姿として、さらに追加で13kmにわたる生け垣をつくったり、ぶどうの樹を一部抜いて他の栽培用地に転換したりすることで、ぶどう畑の周囲がより多様性を持つような取り組みを進めていく。

シャトー ラフィット・ロートシルト 2018

先述したように、ロスチャイルド家がシャトー ラフィット・ロートシルトを取得したのは1868年。2018年は取得から150年になる記念の年だ。

2018年は天候不順や長い雨など困難の多い年だったためか、このワインに対してサスキア氏は「手に負えない子どもと名付けたい」と言う。夏の暑さも厳しかったが、この暑さがぶどうの健康を回復させ、結果的に素晴らしいヴィンテージとなった。

厳しい暑さによってアルコール度数が大きく上昇したドメーヌもあったようだが、同社のこのワインは13.5%と、通常とほとんど変わらなかった。DBRラフィット社のぶどうが暑さに対抗できたこと、今後の気候変動(地球温暖化)にも耐えられる可能性を示している。

また、PHAREプロジェクトでは、優れた樹を選び出して台木に接ぎ木して育てる「マッサル・セレクション」を実施しているが、このワインにはそこで選ばれた2本の株のぶどうが使われている。2本の株は、1956年の厳冬により大半のぶどうが凍結して枯れてしまう中で生き残った、寒さに強い株だという。

“気品と繊細さにあふれ、きめ細やかな口当たり、エレガントで長い余韻は比類がないほど。長期熟成を経てさらに荘厳な姿を見せてくれる”(セミナー資料より)

Château Lafite Rothschild 2018
タイプ・味わい:赤・フルボディ
産地:フランス/ボルドー/ポイヤック
ぶどう品種:カベルネ・ソーヴィニヨン91%、メルロー8.5%、プティ・ヴェルド0.5%

「シャトー ラフィット・ロートシルト 2018」のラベル

フランス語で「C」は「100」、「L」は「50」を表す。「シャトー ラフィット・ロートシルト 2018」のボトルには、ラベルの少し上に赤い字で「CL」と記されており、シャトー取得150周年を表している。「CL」は、「シャトー(Château) ラフィット(Lafite)」の頭文字でもある。

また、ラベルに描かれている気球にも「CL」の文字がある。サスキア氏によると、ゆっくりと進む気球のようにゆっくり進歩していこうという思いが込められている。目を凝らすと、気球に2人乗っているのが見える。同シャトーを取得したジェームス ド ロスチャイルド男爵と奥様のベティさんだそうだ。

サスキア氏が大事にしていること

2018年という年は、シャトー取得150年というだけでなく、サスキア氏がDBRラフィット社のオーナーに就任した年でもある。

サスキア氏が責任者になったことによる変化は、オーガニック認証の取得が加速していることだという。また、サスキア氏は、積極的に畑や醸造の現場に向かい、実際に作業するスタッフと時間をかけて対話することを大事にしているそうだ。

今回のセミナーの2日後、サスキア氏はサントリー登美の丘ワイナリーを訪問予定と聞いた。サスキア氏は日本でのぶどう栽培、ワインづくりについてどのような点を観察し、同ワイナリーでどのような対話をされたのだろうか。機会があればぜひうかがってみたい。


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