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ボルドー5大シャトーを紹介する本シリーズ、今回は「ボルドーの宝石」「最も女性的なワイン」などと評されるシャトー・マルゴーのことを取り上げたい。
「最も女性的」なシャトー・マルゴー
ワイン好きな人なら、「シャトー・マルゴー」の名前を1度は聞いたことがあるだろう。壮美な城館をあしらったラベル、エレガントなイメージの「マルゴー」という名前、そして5大シャトーの中で「最も女性的」と言われるしなやかな味わい――。シャトー・マルゴーは時代の変遷に振り回されながらも、17世紀ごろから名声をとどろかせるようになった名シャトーだ。
シャトー・マルゴーのことを語る上で、どのようなことを覚えておくべきだろうか。いくつかのポイントに分けてまとめてみた。
10~30年の熟成で真価を発揮
シャトー・マルゴーの真価は、最低10年寝かさないとわからないと言われている。
リリース直後では、まるで若い娘が頑なに口をつぐむような堅苦しい雰囲気であるのが、年を経るに従い妖艶な魅力をまとった美しい貴婦人のような味わいとなる。良いヴィンテージのものは30年もの熟成が可能であるという。
フレンチオークの木樽にこだわり
シャトー・マルゴーのこだわりの1つとして、醸造にはフレンチオーク製の樽を使っている点が挙げられる。
シャトー・マルゴーにはお抱えの樽職人がいて、1日に3樽を製造するというが、それでもワイン醸造に必要な数の3分の1程度しか確保できない。不足分はボルドーやコニャックの樽職人から購入。木の樽によって多様性を加えることがシャトー・マルゴーのワインづくりにおいては重要な要素になっている。
2009年、サードワインをリリース
「偉大なヴィンテージ」と言われる2009年に、シャトー・マルゴーはファーストワインの品質をさらに向上させるため、セカンドワインの他にサードワイン「マルゴー・デュ・シャトー・マルゴー」をリリースした。こちらはリリース直後からその魅力を楽しめることが特徴で、マルゴーの魅力を気軽に楽しむには最適だろう。
殺虫剤を使用しないぶどう栽培
シャトー・マルゴーの特徴として、1990年ごろからいち早く「セクシャル・コンフュージョン」という手法を採用した。
これは、小さなフェロモンカプセルを樹に付けることにより、蛾の交配を減らすというもの。結果として殺虫剤を使用しないぶどう栽培が可能になった。肥料は有機肥料であり、一部、馬を使った工作も試験的に導入されている。
優雅なイメージの裏側に、波瀾万丈の歴史が
「1855年のメドック格付けに先立って、トーマス・ジェファーソン米大統領が個人的に1級として個人的に格付けをしていた」「ロバート・ウォルポール英初代首相は3カ月に4樽のペースで購入していた」「ヘミングウェイは孫娘にマルゴー(英語読みではミーゴ)と名付けた」などと、有名なエピソードに彩られたシャトー・マルゴー。だが実際は、不作や持ち主の変更などで幾度も危機に見舞われたシャトーであった。
シャトー・マルゴーは1855年のメドック格付けで1級に輝き、その後ジロンド県のコンテストでも満点を獲得した。実はそれに先立った1789年のフランス革命の時点では、当時のオーナーは処刑され、シャトーはオークションで売却され、荒廃してしまったという。混乱はしばらく続き、所有者も転々としたが、バスク人のベルトラン・デュオットにより美しい城館が建てられ、今日の優雅なイメージが確立された。
格付け1級となった後も、ベト病の被害や世界大恐慌の影響を受け、20世紀後半も不作が続くなどし、生産をストップしなければならない年もあったという。所有者も相変わらず変わっていたが、1970年代末にギリシャの実業家であるメンツェロプロス家が購入。大規模な設備投資を行い、シャトー・マルゴーのワインづくりを再生させた。
マルゴーのおすすめワイン銘柄
シャトー・マルゴーがつくり出す主なワインは次のとおりだ。
グラン・ヴァン・デュ・シャトー・マルゴー
シャトー・マルゴーのファーストラベル。シャトー・マルゴーの支配人が「ベルベットの手袋のなかの鋼鉄の拳」と評するグラン・ヴァンのしなやかさの中に秘められた力強さを際立たせるため、カベルネ・ソーヴィニヨンの比率を80~90%にまで高めるようになっている。
パヴィヨン・ルージュ・デュ・シャトー・マルゴー
セカンドラベルとしてつくられる赤ワイン。グラン・ヴァンのカベルネ・ソーヴィニヨン比率が高くなった分、こちらではメルローの比率が上がり、柔らかな赤ワインに仕上がっている。
パヴィヨン・ブラン・デュ・シャトー・マルゴー
シャトー・マルゴーが手掛ける白ワイン。ソーヴィニヨン・ブラン100%でつくられ、生産量は希少。白ワインでありながら30年の熟成に耐えるとも言われている。
マルゴー・デュ・シャトー・マルゴー
前述のサードワイン。手頃な価格で入手できるものの、現状では生産量がごくわずか。シャトー・マルゴーと関係の深いレストランなどを中心に卸されるため、ほとんど一般向けの小売市場には出回っておらず、購入は困難。興味がある方は、見掛けたら即買いすべきかもしれない。