コラム

ワインの手法を用いた日本酒づくりにも挑戦するドメーヌ・ボワ・ルカ 新井順子氏[日本人がワインで世界を驚かせた]

   

海外に拠点をおいて活躍する日本人の中には、「日本のために何かをしたい」と思う人が少なくない。

世界で活躍する日本人のワインのつくり手を紹介する本シリーズ、今回は東日本大震災をきっかけに、「日本のためになれば」と新たな挑戦を始めた新井順子氏にスポットライトを当てたいと思う。

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花嫁修業の一環だったワインが天職に

新井順子氏は、1961年に東京で生まれた。日本でワインがあまり飲まれていないころから、新井氏の父は晩酌にワインを飲んでいた。そのため新井氏は、幼いころからワインを身近に感じていたようだ。

新井氏は短大卒業後、保険会社に勤務。当時は花嫁修業をするのが流行りだったため、その一環として、生け花やお茶と一緒にワインのことも習い始めた。

ところが習い始めると、ワインの奥深さにどんどんと魅了されていったのだ。「結婚後、ワインと関わりのある仕事をしたい」と思うようになり、サッポロビールのワインコーディネーターの職に就いた。

新井氏はその後、結婚したものの離婚したことを機に「何をして食べていこうか」と考え、「自分の人生なのだから、好きなことをやろう」と思い、大好きなワインにかかわる職に就くことを決めた。

鉄の意志と実行力、そして不屈の精神

新井順子氏がまず始めたのは、ワインスクールだった。普通の人が通えるカジュアルなクラスから本格的にワインを学ぶクラスまで、対象の広いスクールを開校した。

生徒にワインのことを教えながら、自分自身もより深いことも学んでいくうちに、「本場で学びたい」という気持ちが膨らんでいく。そして1996年、名門ボルドー大学の醸造科へ入学。軌道に乗っていたスクールをたたんで渡仏することになった。

1998年に帰国した新井氏は、フランス料理店を経営するとともに、ワイン教室を主宰。ワイン輸入業にも携わるようになった。これらの事業が軌道に乗った2001年、突然「ロワールの畑を買わないか」という話が舞い込んだのだ。

この時、新井氏は迷わず即決。レストランとワイン教室を閉めて、フランスに移住した。2度目の渡仏の際にも、迷いは全くなかったという。

新井氏の根底には、「何かできる環境にあるならば、やる」「やらずに後悔するより、やって後悔するほうが楽」という考えがあるという。上手くいっている事業さえも手放して、新たなことに挑戦する強い意志と実行力を兼ね備えているからこそ、古い伝統と慣習が強く残るロワール地方でも、突き進むことができたのだろう。

新井氏は2002年に「ドメーヌ・ボワ・ルカ(Domaine des Bois Lucas:ルカの森)」を設立。ただ、最初の数年は苦難の道のりだった。鹿にぶどうの多くを食べられてしまったり、仕込みまで終わったワインが洪水で樽ごと流されてしまったり。両親の他界など、苦労の連続だった。

Touraine Rouge Cuvee KUNIKO 2005

それでも新井氏は、洪水の難を逃れたワインが自然発酵し始めたのを見たとき、ワインの強さに感動。どんなことがあっても、絶対に負けないと思えるようになったという。まさに不屈の精神を手にしたのだ。

そして、強い意志と実行力、不屈の精神で、ドメーヌ・ボワ・ルカを現在の地位に導いた。農薬を使用しないバイオダイナミック農法にこだわった新井氏のワインは、フランス国内のみならず、多くの国の専門家から高い評価を得るようになった。ミシュランの3つ星レストランにもオンリストされている。

Touraine Rouge Cabernet Franc 2004

新たな挑戦

2011年3月11日、東日本大震災が起きた。新井順子氏にとっても、転換点になったという。

新井氏は被災地を支援するために、フランスの生産者に日本の震災のことを伝えた。すると、2000本以上のワインが寄付されたのだ。倹約家のフランス人たちが、手を差し伸べてくれたということに感動したという。

そして、寄付されたワインでチャリティイベントを開催。その収益を被災地に支援物資や義援金として届ける活動を続けるようになった。

支援活動を続けているうちに、自分自身でも何か日本のためにしたいと考えるようになった。そして、得意とする醸造技術を使って日本をアピールできるのではと思い、日本酒づくりを始めたのだ。

新井氏がつくる日本酒は、新しい感覚の日本酒だという。伝統的な日本酒づくりは、「技術が8割、原料が2割」と言われ、手を掛けて時間をかけるのが良いとされている。一方、新井氏は、シンプルに素材の味を生かすため、最小限の手入れでつくっているという。

ワインづくりでも、日本酒づくりでも自分が決めた方法を徹底して実行する新井氏。新井氏がつくるワインと日本酒を飲み比べてみるのも楽しいかもしれない。

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