海外に拠点を置き活躍する日本人の中には、家族を伴って移住する人も少なくない。
世界で活躍する日本人のつくり手を紹介する本シリーズ、今回は、ご夫婦でワインづくりに打ち込む佐藤嘉晃(よしあき)氏にスポットライトを当てたいと思う。
ロンドンへの赴任で芽生えたワインづくりへの情熱
佐藤嘉晃氏は、1971年に大阪で生まれた。1994年に早稲田大学を卒業後、日本興業銀行(現在のみずほ銀行)に勤務。そこで恭子さんと出会い、結婚した。結婚後、ロンドンに赴任。夫婦共にワイン好きであったことから、ロンドン赴任中に、夫婦でフランスやイタリアのワイン産地にたびたび足を延ばした。そうするうちに、自分たちのワインをつくりたいと考えるようになったという。
2006年、佐藤夫妻はワインづくりの夢を実現するため、銀行を退社。ニュージーランドに渡り、リンカーン大学で栽培学と醸造学を学び始めた。2007年に大学を卒業すると、ニュージーランドで最高峰のワイナリーと称されるフェルトン・ロードで修行した。2009年に嘉晃氏は、マウント・エドワードに移籍。また同年、念願であった自身のワイナリー「サトウ・ワインズ」を設立した。
目指すのは自然なワイン
嘉晃氏は自身のワインづくりに集中するため、2012年にマウント・エドワードから離れた。一方、恭子さんはサトウ・ワインズの醸造家として、嘉晃氏ともにワインをつくるかたわら、現在でもフェルトン・ロードでヴィンヤード・スーパーバイザーとして活躍している。
佐藤夫妻は、「ぶどうの樹は有機農法、バイオダイナミック農法によって育成されるべきで、ワインも、極力人の手を介さず化学薬剤や添加物を使用せずにつくる」という信念のもと、可能な限り人の手を加えず自然に任せたワインづくりを目指している。
そのため、サトウ・ワインズでは、ニュージーランド政府公認の有機栽培認定であるビオグロを取得している畑からぶどうを入手。醸造においても、亜硫酸の添加を極力抑えていて、圧搾や発酵時には添加せず、ボトリング直前にのみ僅かに行う。
世界に広がるサトウ・ワインズのワイン
朝日が良く当たる畑で栽培されたぶどうからつくるワインと、西日を良く浴びて育ったぶどうからつくるワインの味わいの違いまで把握する佐藤氏。どこまでも真摯にワインと向き合い、純粋なワインを追求している。
そんな佐藤氏のサトウ・ワインズは、世界のワイン愛好家たちの注目を集めている。評論家のジャンシス・ ロビンソン氏は、著書「The World Atlas of Wine 7th Edition」の中で、サトウ・ワインズをセントラル・オタゴの代表銘柄として紹介している。
2009年の初リリース時、サトウ・ワインズの生産量は、ピノ・ノワールの190ダースだけだった。現在では、リースリング、ピノ・グリ、シャルドネが加わり1300ダースを生産している。そして、それらはオセアニアやアジアだけでなく、ヨーロッパや北米にも輸出されている。
ヨーロッパで修行を積んだ際、自然派ワインに共感した嘉晃氏。嘉晃氏の目指すワインは、体にやさしく、スムーズなのどごしのワインだという。佐藤夫妻は、自然に任せたワインづくりで、人にも自然にもやさしいワインをつくり続けていくだろう。