海外に拠点を置き活躍する人の中には、その国に馴染むだけでなく、既成概念を打ち破るパワーを秘めた人もいる。
世界で活躍する日本人のつくり手を紹介する本シリーズ。今回スポットライトを当てるのは、ニュージーランドワインの概念を覆したと評される岡田岳樹氏だ。
自然を前面に出したワイナリー名「フォリウム・ヴィンヤード」
岡田岳樹氏は、1978年に東京で生まれた。北海道大学農学部で学んだ後、カリフォルニア大学デイヴィス校でワインの醸造とぶどうの栽培について学んだ。デイヴィス校卒業後はニュージーランドに渡り、ソーヴィニヨン・ブラン種の栽培地でニュージーランド最大のワイン名産地であるマールボロに拠点を置いた。
2003年、岡田氏は「クロ・アンリ」に入社。クロ・アンリはフランスのサンセール地区でソーヴィニヨン・ブランをつくり続けてきたアンリ・ブルジョワがニュージーランドで始めたワイナリーだ。2006年には岡田氏はここで栽培責任者に任命されるまでになった。2009年にクロ・アンリを退社し、自身のワイナリー設立に向けて本格的に動き出した。
そして2010年、「フォリウム・ヴィンヤード(Folium Vineyard)」を設立。一般的に、ワイナリーには自身の名前を付けるが、岡田氏はラテン語で「葉」を意味する「フォリウム」と名付けた。それは「ワインづくりに重要な自然を全面に出したかった」という思いからだという。
ニュージーランド産「ソーヴィニヨン・ブラン」のイメージを一新
これまでニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランは、ハーブの強い香り、あるいはトロピカルフルーツの香りをもつワインというイメージが強かった。
フォリウム・ヴィンヤードのファーストヴィンテージは2011年。岡田氏は、そのワインでワイン愛好家たちの既成概念を打ち破ったと言われる。岡田氏が手掛けるソーヴィニヨン・ブランは、フランス・ブルゴーニュ産のワインと紛うほど、フレッシュなフルーツの香りを持ち、酸味を主体とした繊細で品質の高いワインとなっている。
岡田氏は、クロ・アンリで「ワイン生産は農業である」と学んだ。そして「高品質なワインをつくる一番の近道は高品質なぶどうを育てること」という信念のもとに畑作業を行っている。葉や枝を管理するキャノピーマネージメント、収量制限を徹底し、完熟させたぶどうは手摘みで収穫するといった丁寧な畑作業が、岡田氏がつくる上質なワインに反映されている。
注目度アップのフォリウム・ヴィンヤードのワイン
岡田氏が拠点とするマールボロは、風通しが良く日照時間が長い。そのうえ、降水量が少ないので乾燥している。また、昼夜の温度差が大きいことから、ぶどう栽培に適している。岡田氏はこの地と特に相性の良い、ソーヴィニヨン・ブラン種とピノ・ノワール種を栽培している。
フォリウム・ヴィンヤードの主なラインアップは「ソーヴィニヨン・ブラン」「ソーヴィニヨン・ブラン リザーヴ」「ピノ・ノワール」「ピノ・ノワール リザーヴ」。どれもブルゴーニュワインを思わせる「しっかりした酸味」と「長い余韻」を備えた上品なワインに仕上がっている。
近年、ブルゴーニュワインの価格は高騰傾向にある。ブルゴーニュワインのような特徴を持ち、年々向上を続ける岡田氏のワインは、コストパフォーマンスに優れていると評され、ワイン愛好家たちの注目を集め始めている。