コラム

降雨量の多い伊豆、ぶどう栽培に苦労しながら金賞ワインをつくり出した中伊豆ワイナリーのこだわり

   

静岡県伊豆市にある中伊豆ワイナリー シャトーT.Sは、シダックスの創業者である志太勤氏(現・取締役最高顧問)の故郷である伊豆で「文化の一端を担う世界に通じるワイン」をつくるという思いを形にしたワイナリーだ。

そのワインづくりへのこだわりを、2001年3月に東京農業大学醸造学科を卒業し、新卒でシダックスに入社した醸造責任者の松本智康氏に伺った。

「地元に恩返しを」

中伊豆ワイナリー内にあるワインセラーには、オーパスワンなど、ナパ・ヴァレーのワインやフランスの高級ワインがずらりと並んでいる。このワインセラーは、誰でも自由に見学することができる。


コレクションからはナパ・ヴァレーへのリスペクトが感じられる。ただ、伊豆の気候は温暖湿潤で、ナパ・ヴァレーとは全く異なる気候条件だ。それにもかかわらず、伊豆でワイナリーを立ち上げたのには、シダックス創業者である志太勤氏の「自分の生まれ育った故郷でワインをつくりたい。地元に恩返しをしたい」という思いがあったからだという。

降雨量の多い伊豆でのぶどう栽培に立ち向かう

しかし、故郷・伊豆でぶどうを育てるには、気候条件は恵まれているとは言い難い。伊豆でのワインづくりは、アイデアや工夫が求められるものになった。

ぶどうは本来、乾燥した気候を好む。降雨量が多く、台風の影響を受けやすい伊豆でのぶどう栽培には、雨対策が欠かせなかった。

そこで中伊豆ワイナリーでは、ぶどうの実の周りに「グレープガード」という雨よけを使用。さらに2017年からは、雨水が土に吸収されずに流れ出るように、一部の畑で全面をシートで被覆するなど、工夫を凝らしてぶどうを栽培している。

2000年にオープンした中伊豆ワイナリー。自社畑を拡大しながら、さまざまな経験を積み重ねて改善してきたことで、かつては雨の影響で激減することもあったぶどうの収穫量も安定するようになってきた。


中伊豆ワイナリーでは現在、3名が醸造を担当している。その年のぶどうの出来に合わせて、毎年さまざまな方法を試しながら、品質向上を目指しているという。

2009年の志太シャルドネ プレミアムが金賞を受賞

こうしたぶどう栽培や醸造の工夫を重ねてきたことで、中伊豆ワイナリーは2007年以降、国内の主要コンクールで金賞や銀賞を受賞するようになってきた。

【中伊豆ワイナリーの主な金賞受賞歴】
2007年 第5回国産ワインコンクール 「志太シュールリー2006」
2009年 第7回国産ワインコンクール 「志太農場長野シャルドネ 2007」
ジャパン・ワイン・チャレンジ 「志太農場長野シャルドネ 2008」
2010年 第8回国産ワインコンクール 「志太シャルドネ プレミアム 2009」
2018 年 第5回サクラ・アワード 「志太ホワイト甘口 2016」(ダブル・ゴールドを受賞)

こうした受賞歴の中でも、「志太シャルドネ プレミアム 2009年」は契約畑ではなく、自社畑で栽培したぶどうを使用。その「志太シャルドネ プレミアム」が金賞を受賞したときには、社内に大きな喜びをもたらしたそうだ。

これまで金賞・銀賞を受賞したのは、すべて白ワイン。今後は赤ワインの受賞も目指し、チャレンジを続けていくという。

今後に向けての抱負として、松本氏は次のメッセージを送ってくれた。

これからは、より「伊豆産」ぶどうの特徴を追及しつつ、高品質化を目指してまいります。
収穫されたぶどうのポテンシャルを最大限引き出すべく、さまざまな技術と知識・経験をもとに醸造し、より多くのお客様に「おいしい」と言っていただき、「笑顔」になっていただけるワインをつくれるようにがんばってまいります。


中伊豆ワイナリーのワインは、ワイナリーやインターネットで購入できるほか、シダックスの運営しているレストランの一部でも取り扱っている。また、伊豆近郊の酒屋やスーパーでも販売されているので、ふるさとへの思いが詰まったワインを伊豆観光のお土産にするのもおすすめだ。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ