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Wines of Germanyは2018年11月5日、ハイセンスなクリエイティビティとオリジナリティを持ったワインを選んだセレクション「最も“クール”なドイツワイン」を発表した。
ドイツワイン業界では、有名なつくり手の2代目など、若手世代を中心に大きな変革が起きつつある。スタイリッシュでありながら、同時にワインづくりに対して真摯かつユニークなアプローチで生み出されたモダンで新しいドイツワインが増えているのだ。
そうしたモダンな最先端のドイツワインたちは、今まで世界が知っていた「ドイツワイン」とは全く異なるものになっていた。
まずは今回選ばれた“クール”なドイツワインについて、ご紹介したい。その後に、ドイツワインの現況について一通りのおさらいをしておこう。
モダンなドイツワインの傾向と「最も“クール”」なワインたち
まずは「最も“クール”なドイツワイン」にセレクトされた若手生産者たちの熱のこもったワインたちを紹介したい。
いずれも、まだ日本には輸入されていないワインばかり。味わいは「トロッケン」(辛口)のものがそろった。
(テイスティングコメントは、ソムリエ 定兼弘氏のものを一部引用させていただく)
Pet Nat / Weingut Riffel
生産地:ラインヘッセン
ぶどう品種:ヴァイスブルグンター、ショイレーベ
ワイン名の「Pet Nat」とは、「ペティヤン(微発泡)・ナチュレル(自然派)」の意味。
心地よい発泡の泡立ちに、ろ過していないため濁りのある液体。フレッシュでナチュラルな味わいは、草露をそのまま味わっているかのごとく生き生きしている。
Das Riesling-Kartell
生産地:モーゼル
ぶどう品種:リースリング
今回のセレクションで見事1位に輝いたモーゼルのリースリング。6人のメンバーが持ち寄ったそれぞれの畑のリースリングをブレンドし、ドライでエレガント、かつミネラル感のあふれる絶妙な味わいに仕上げた。
CLIFFHANGER / PLOB
生産地:モーゼル
ぶどう品種:リースリング
モーゼルの急斜面での畑仕事を、「クリフハンガー」という名前で表現したワイン。作業は危険を伴いつつも、愛を持ってぶどうに対峙する4人の若者が、その姿勢をワイン名に込めた。
ドライでミネラル感にあふれ、同時にピュアさと透明感が味わえる。
Grobstadthelden / Weingut Welter
生産地:ラインヘッセン
ぶどう品種:ヴァイスブルグンダー
ヴァイスブルグンダー(ピノ・ブラン)の特徴を生かし、ふくらみとフレッシュさを同居させたワイン。酸はマイルドで、後味に若干の苦味が残る。
4人の女性醸造家が集まり、それぞれの得意とするぶどうでスタイリッシュな世界観を表現しているワイナリー。
Grauburgunder / Weingut Karl Pfaffmann
生産地:ファルツ
ぶどう品種:グラウブルグンダー
グラウブルグンダー(ピノ・グリ)を使用したボリューミーなワイン。ぶどう本来の甘さを生かした口当たり、しっかりとしたボディはグラウブルグンダーならでは。少しリッチな食事にも合わせやすい。
HEROINE / Weingut Wageck Pfaffmann
生産地:ファルツ
ぶどう品種:ヴァイスブルグンダー、ジルヴァーナー、ミュラー・トゥルガウ
ファルツ地方に伝わるドラゴンを退治した聖マーガレットの伝説になぞらえ、「ヒロイン」と名付けられたワイン。
ドライな口当たりの中に、ほんのり感じられるマスカット感が特徴的。何層にも重なる複雑な味わいは均整が取れているが、どちらかといえば上級者向けなワインだ。
That’s Neiss Cuvee / Weingut Neiss
生産地:ファルツ
ぶどう品種:シャルドネ、グラウブルグンダー(ピノ・グリ)、ヴァイスブルグンター(ピノ・ブラン)
有名なつくり手の意欲作。通常は合わせないシャルドネ、グラウブルグンダー(ピノ・グリ)、ヴァイスブルグンター(ピノ・ブラン)という3種のブルグンダー種を巧みにブレンドしている。
FREUNDSCHAFTSSPIEL / Weingut Zimmermann
生産地:ラインヘッセン
ぶどう品種:シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)
果実味あふれる良質なワイン。2人の友人同士がタッグを組み、抜きん出たクオリティのピノ・ノワールを目指している。
樽香をおさえ飲みやすく仕上げたのが功を奏し、バランス良好だ。
ちなみにこちらはドイツサッカー連盟主催のイベントにて、VIPエリアのワインに選定されたことがある。
PINOTIMES
生産地:ファルツ
ぶどう品種:シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)
若いうちからおいしく飲めるピノ・ノワール。ピノ種の専門家を名乗るいとこ同士によるプロジェクトだ。
新聞紙面を模したモダンなラベルが印象的。適度にボリューミーで、肉料理等に合わせやすい味わいだ。
ドイツワインの概要/基礎知識
そもそも日本では、昔から続く「ドイツワイン」=「甘い」といった先入観が、いまだに散見される。
それ以前に、ドイツワインについての知識を持ち、その魅力について語れるプロが少ない。また日本に輸入されているのは、ドイツワイン全体のごく一部という状況だ。
知っておくべきドイツワインは、大きく2種類の白ワイン
「ドイツのワインと言えば“白”」というイメージをお持ちの方は多いだろう。
ただしドイツでは近年、黒ぶどうの生産量が拡大し、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)を使用した高品質な赤ワインが増えてきている。それでも、赤のドイツワインはほとんど国内か一部の海外ワイン愛好家で消費されるため、やはり国外で圧倒的に目にするドイツワインは“白”と言えるだろう。
そんなドイツの白ワインは、大きく2種類に分けられる。1つは伸びやかな酸と粘らず重たくならないモダンなスタイル、もう1つはぶどうの天然の残糖を重視する甘口スタイルだ。
前者は「トロッケン」「ハルプトロッケン」「ファインフェルプ」などがワイン名に付く。食事に合わせるのにぴったりな辛口とやや辛口。非常にドライなタイプも多く生産されるようになり、実は今のドイツワインの生産量の3分の2がこのタイプだ。
後者は「シュペートレーゼ」「アウスレーゼ」「アイスワイン」という表記がある甘口スタイル。凝縮したエレガントな果実味をふんだんに味わえる。
[関連記事]「カビネット」「アウスレーゼ」「トロッケン」って何? ドイツワインの味が分かるようになる言葉たち[ワイン用語解説]
ドイツワインに使われる代表的なぶどう品種は?
続いて、ドイツワインによく使われるぶどう品種を確認していこう。
リースリング
ドイツ全土やフランス・ドイツ国境地帯(アルザス地方)で多く生産されている。
豊かな果実味とエレガントな酸が魅力的だ。リンゴや桃の香りが特徴で、貴腐ワインに使われると蜂蜜のような魅惑的な香りに変貌する。
美食家の好む品種とも言われるが、世界の銘醸地からつくられるワインと同等の高品質なものでも、比較的安い値段で手に入るのがうれしい。
ジルヴァーナー
柔らかで優しい印象の白ぶどう。繊細なタイプから重厚なものまで、土壌により表情を変える。魚介系やホワイトアスパラガスなどは繊細なタイプと、白身の肉は重厚なタイプとぴったり。
グラウブルグンダー(ピノ・グリ)
ふくよかな辛口が多くつくられる白ぶどう。皮が紫色がかっており、そのボリューム感を生かしたワインに仕立てられることが多い。
白ぶどうでありながら、ラムやジビエにも合わせられる。灰色がかった外観が特徴的。
ヴァイスブルグンダー(ピノ・ブラン)
パイナップルやアプリコットのようなトロピカルな香りが特徴的。酸味はシャープに締まっているが、リースリングよりもまるい。魚介や鶏肉にぴったり。アルザス地方でもよく使われる。
シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)
ドイツで栽培される黒ぶどうのうち、最もエレガントな品種。
絹のような舌触りと赤果実のようなアロマティックな香り、そして適度なタンニンを持つ。肉料理にはこちらを合わせたい。
ドイツワイン、押さえておきたい13の生産地
ドイツには13の主要なワイン生産地があり、それぞれが特徴のあるワインをつくっている。
その中から、有名な産地をいくつか紹介しよう。
モーゼル
伝統と歴史のある川沿いの産地で、急勾配の斜面に畑が広がることで知られる。あまりの勾配に機械が使えないため、ほとんどの作業を人力で行なっている。
リースリングの銘醸畑が多く、ミネラリティのあふれる素晴らしいぶどうが栽培される。
ラインガウ
ライン川沿いに広がる歴史ある産地で、ぶどうの栽培に理想的な気候を生かし、高品質なワインが多くつくられる。
ぶどう品種としてはリースリングとシュペートブルグンダーが多く、また貴腐ワインの誕生の地としても知られる。
フランケン
フランクフルトの東部に広がる産地で、昔から個性のあるワインを多くつくってきた。
リースリングよりもジルヴァーナーなどがよく使われる。
「ボックスボイテル」と呼ばれる特殊な平たい瓶が、フランケンの名物だ。
ファルツ
温暖な気候を生かしたボリューム感あふれるワインがつくられている。
リースリングやブルグンダー種を中心に、高品質で飲みごたえのあるワインが多い。
バーデン
ドイツの中では温暖な地域。フランスのアルザスやスイス国境に隣接していることもあり、食文化が非常に豊かなエリアだ。
辛口のワインが赤白共につくられている。ブルグンダー(ピノ)種が多い。
日本におけるドイツワインの販売状況
かつて日本では、「白ワインと言えばドイツの甘口」といった時代が長く続き、高い人気を誇ったものだった。しかし辛口ワインの潮流が押し寄せるに伴い、ドイツワインの輸入量は大幅に落ち込んでしまった。
ただそうした状況も、ここ2年ほどで輸入量・販売金額に大きな回復傾向が見られる。
その理由としては、まずドイツの生産者たちの変化が挙げられる。世界市場を見据え、高品質な辛口ワインの生産に尽力してきた生産者のおかげで、日本でも「ドイツワインにもおいしい辛口の白ワインがある」という認識が浸透してきた。
また、2009年より一時期閉鎖していたDWI(ドイツ・ワイン・インスティチュート)日本事務所が2016年に再び開設され、力の入ったプロモーションをしていることも挙げられる。
しかし、フランスやイタリアと比べて、ドイツワインに注目するインポーターは少ない。非常に素晴らしいのに、日本に紹介されていないつくり手もまだまだある。
高品質でおいしいドイツワインが増えている昨今、すっきりしたゼクト(発泡)やドライなリースリングが日本市場に広く紹介されれば、国内のワイン業界を揺るがす1つの大きなムーブメントになるかもしれない。