コラム

シャンパーニュの奥深さに製法から迫る! 味を決めるアッサンブラージュとドサージュについて老舗メゾン醸造責任者が解説

創設は1868年、2018年でちょうど150周年という節目を迎えたシャンパーニュ・メゾン「カナール・デュシェーヌ」。樽職人ヴィクトル・カナールと、ぶどう栽培農家の娘レオニー・デュシェーヌが結婚して創業した「マリッジ・シャンパーニュ」としてフランスでは大変有名なメゾンだ。

そのカナール・デュシェーヌの150周年を記念した「キュヴェV」の日本お披露目に伴い、醸造責任者であるローラン・フェドゥ氏が来日。2018年11月27日、シャンパーニュ醸造の命ともいえるアッサンブラージュ(ブレンド)についてのセミナーを開催した。


シャンパーニュの製法

発泡しないスティルワインの製法とは異なり、シャンパーニュをつくる際には特別なステップが数多くある。

まず簡単に、シャンパーニュの製法をおさらいしていこう。

<前半>
ぶどうの収穫
 ↓
選果
 ↓
圧搾(2度に分ける)
 ↓
デブルバージュ(不純物の沈殿・除去)
 ↓
発酵

ここまでは、スティルワインの醸造と大きく違うところはない。

<後半>
アッサンブラージュ(ブレンド)
 ↓
ティラージュ(酵母と蔗糖を入れる)
 ↓
瓶内2次発酵
 ↓
熟成
 ↓
ルミアージュ(オリを瓶の口に集めるため、毎日瓶を少しずつ回転させる)
 ↓
デゴルジュマン(オリの除去)
 ↓
ドサージュ(補糖)
 ↓
ブシャージュ(瓶にコルクを打ち固定)

このうち、味を決定的に決めるのはアッサンブラージュとドサージュの工程だ。今回のセミナーは、この2工程について、実際のテイスティングを交えながら丁寧に解説された。

アッサンブラージュ――ブレンド前のワインの味は?

シャンパーニュのブレンドには、いくつかのワイン(原酒)が使われる。複数年のワインが使われた場合はノン・ヴィンテージ・シャンパン(NV)として、単年のワインのみが使われた場合は、その年号表示とともにヴィンテージ・シャンパンとして発売される。

この日は、2018年に収穫したぶどうでつくったワイン3種類(ピノ・ムニエ、ピノ・ノワール、シャルドネ)と、2015年のリザーブワイン1種類をそれぞれテイスティングした。ばらばらに味わうと、その個性が際立った。



まずテイスティングしたのは、ピノ・ムニエだ。フレッシュでフルーティーな印象。この品種の持つイチゴやキャンディのような香りと果実感は、シャンパーニュになったとき、重要な役割を果たしてくれる。

次にピノ・ノワール。同じピノ種だが、ムニエよりもパワフルな印象がある。チェリーなど赤果実の優雅な香り。エレガンスをもたらすのもピノ・ノワールの大切な仕事だ。

3つ目はシャルドネ。品種の特徴であるフレッシュさ、シャープさ、白い果実の香りが感じられる。より良いバランスを獲得するにはさらなる時間が必要だが、サンプルとしてはとても良い印象とのこと。

最後は、2015年に醸造したブラン・ド・ノワール(黒ぶどうのみを使用したもの)からのリザーブワイン。カナール・デュシェーヌではブレンド全体の30〜40%が過去年からのリザーブワインだという。

落ち着いた味わいの中にシトラスフルーツ、マンダリンやグレープフルーツの風味が感じられる。ここでも、ピノ・ノワールのもたらずエレガントさが、重要な要素だ。

ドサージュ――補糖量=甘さではない

アッサンブラージュ前のワインテイスティングが終わったら、3杯のシャンパーニュが並べられた。どれもシャルドネ100%でつくられたブラン・ド・ブラン(白ぶどうのみを使用したもの)で、2013年の同じ日に同条件で仕込まれたものだ。しかし、明らかに味わいが異なった。



ここでローラン氏から、2つの質問があった。「これらの違いは補糖の量だけですが、どのシャンパーニュの補糖量が多く、どのシャンパーニュの補糖量が少ない分かりますか? また、どのバランスが一番好ましいと思いますか?」

ローラン氏は補糖の量について記者などからいろいろと聞かれることがあるそうだ。しかし、決まった量があるわけではなく、その時々によって補糖の量は異なるという。「香り、味わい、フレッシュさ、まろやかさ、果実味といった数々の要素のすべてにバランスを取れる量を探しています」(ローラン氏。以下同)

面白いのは、補糖量が多いからといって味わいが甘く感じられるわけではないことだ。このテイスティングでは、真ん中に置かれたシャンパーニュに最も果実味を感じ、右のシャンパーニュは酸が効いているように思えた。ところが、右のシャンパーニュは最も補糖量が多く(1リットル当たり8g)、真ん中は最も補糖量が少なかった(1リットルあたり4g)。

この結果に、会場からもどよめきが起こったが、ローラン氏の狙いはそこにあった。

「若いころ、もうずいぶん昔のことになりますが、ワインの先生が『酸が強ければ補糖しなさい』といったばかげたことを言っていました。今ではそういう教え方はしていないはずですが……。
コーヒーが苦いからといって砂糖ばかりを入れていたら、それはコーヒーではなくなってしまいます。糖を足したからといって、ただ甘くなるわけではありません、全てはバランスなのです」

発酵・熟成――タンクの大きさすら仕上がりに大きな影響

同じ条件で仕込まれたワインでも、貯蔵の方法により味は大きく変化する。

例えばローラン氏は、3年間、全く同じワインを2つの異なるタンクに入れ、温度や湿度は同条件で熟成させるという実験をした。1つは50ヘクトリットル(hl)の小さなタンク、もう1つは800hlの大きなタンクだ。

3年後、小さなタンクのワインは熟成が進みまろやかになり、大きなタンクのワインはまだまだフレッシュさが残っていた。この経験から、シャンパーニュに使うリザーブワインは大きなタンクで保存するようにしているとのことだ。

またローラン氏は、デゴルジュマンのときに出る泡の量が、それぞれ異なることに気づいたという。分析官と一緒に瓶内の違いを調査すると、「瓶内に残っていた酸素量が多いほど、デゴルジュマン時に泡があまり出ない」と判明したそうだ。



だが、瓶内の酸素量が多いと、味の劣化が起こってしまう。そのために5年前、酸素を確実に抜けるように独自の機械を発明した。

この機械では、1滴の水をボトルに落とすことで液体に泡を発生させる。その泡が瓶口まで上がってくるときに、一緒に酸素も瓶外へ追い出す仕組みだ。その直後に打栓をすると、液体の酸化や劣化を防ぐことができて、個体差を極力減らすことができる。

今では他のメゾンでも導入している「ジェッティング」という方法だが、最初に発明したのはカナール・デュシェーヌだそうだ。

老舗として、またフランス国内の小売市場で売上2位につける人気のメゾンとして、シャンパーニュ業界に大きな影響を与え続けるカナール・デュシェーヌ。醸造のカギを握るローラン氏の詳しい説明により、ゆるぎない品質を保ち続けているメゾンの誇りをうかがい知れた。

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About the author /  Yayoi Ozawa
Yayoi Ozawa

フランス料理店経営ののち、ワインとグルメ、音楽を専門とするライターへ転身