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フランス、ボルドー地方に位置するサン・テミリオン地区の名門ワイナリーを紹介するシリーズ。
今回は、シャトー・パヴィとともにサン・テミリオンの格付けで、制定後初めて最高位「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA」への昇格を果たした「シャトー・アンジェリュス」について、ご紹介していこう。
シャトー・アンジェリュスのエピソード
シャトー・アンジェリュスは、サン・テミリオンの格付けが制定されてからおよそ50年の間なかった、最高位「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA」への昇格を、2012年にシャトー・パヴィとともに成し遂げた。
シャトー・アンジェリュスが産するワインは、真のサン・テミリオン愛好者であれば必ず飲むべき偉大なワインとも評されている。ワイン評論家のロバート・パーカー氏も著書の中で「アンジェリュスは常に、非常に大衆的な魅力を備えたサン・テミリオンである。大量生産されるワインの多くが輸出されていること、美しいラベル、魅力的でしなやかなスタイルなどによって、熱心なサン・テミリオン愛好家の中にもアンジェリュスの信奉者は多い」と高く評価している。
シャトー・アンジェリュスの歴史
ブアール・ド・ラフォレ家によって守られてきたシャトー・アンジェリュス。世界的に有名なサン・テミリオンの鐘楼から1㎞ほどのところに位置する同シャトーには、マゼラ礼拝堂、サン・マルタン礼拝堂、サン・テミリオン村にある教会の鐘の音が聞こえてきたことから、「教会で鳴らされる祈りの鐘」や「朝、昼、夜の時刻を告げる鐘」の意味を持つ「アンジェリュス」をシャトー名にしたと言われている。
ブアール・ド・ラフォレ家が取得する以前の1700年頃、現在シャトー・アンジェリュスが所有している栽培地の一部は、スフラン・ドゥ・ラヴェルニュ家が所有していた。1700年代後半に、スフラン・ドゥ・ラヴェルニュ家の息子とブアール・ド・ラフォレ家の娘が結婚し、両家は親戚関係となる。その後、スフラン・ドゥ・ラヴェルニュ家に跡継ぎがいなくなると、1900年代初めに、シャトー・アンジェリュスはブアール・ド・ラフォレ家のモーリス氏に渡った。それ以降、シャトー・アンジェリュスはブアール家が所有している。モーリス氏やその息子達は、隣接する土地を購入し、栽培地を拡張した。現在は、ユベール・ド・ブアール・ド・ラフォレ氏と、いとこのジャン・ベルナール・クルニエ氏が所有している。
ユベール・ド・ブアール・ド・ラフォレ氏とジャン・ベルナール・クルニエ氏は、ワインの品質向上に努めた。それまで同シャトーのワインは数年の熟成にも耐えられない、若飲みしかできないワインだった。しかし、ボルドーのエノロジスト(ぶどうの栽培から瓶詰めまで、全ての工程を指揮する専門家)として著名なミシェル・ロラン氏をコンサルタントとして迎え入れるなどした結果、1980年代になると品質が劇的に向上。1996年には、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセBに認定された。その後も高い評価を受け続け、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセAの実力を持つシャトーと言われ続けてきたアンジェリュスは、2012年に念願のプルミエ・グラン・クリュ・クラッセAへの昇格を果たした。
シャトー・アンジェリュスのワインづくり
品質を安定させる特徴的なブレンド比率
サン・テミリオン地区の多くの1級シャトーは、ぶどう栽培地として評価の高いプラトー(台地)の上部、粘土質石灰岩の土壌にぶどう畑を所有している。しかし、シャトー・アンジェリュスの栽培地は下部に位置しているため、粘土質石灰岩の土壌は一部のみ。残りは砂や砂利が多く含まれる土壌となっている。そのため、それぞれに適したぶどう品種を栽培していて、粘土質石灰岩の土壌にはメルローを、砂や砂利が多く含まれる土壌にはカベルネ・フランやカベルネ・ソーヴィニヨンを栽培している。
その結果、サン・テミリオン地区のほかのシャトーと比べて、シャトー・アンジェリュスは、カベルネのブレンド比率が高く、通常、メルロー50%、カベルネ・フラン47%、カベルネ・ソーヴィニヨン3%となっている。そのため、メルローの出来が悪い年でもカベルネ・フランは良いという場合があり、安定した品質のワインを産することができる。
高品質のぶどう
シャトー・アンジェリュスでは、質の高いぶどうを理想的な成熟状態で収穫し、丁寧な醸造で品質の高いワインをつくっている。
同シャトーでは、ほかのシャトーと比べて枝を長めに剪定している。これは、春先の霜で、新芽が枯れてしまうのを防ぐためだという。ぶどうの樹は、枝先にある芽から発芽し、株に近いところが一番遅く発芽する。質の良い果実がつくのは、一番遅く発芽する株に近い部分のため、長めに剪定することで、先に発芽する芽を多くし、株に近い部分の発芽を遅らせている。このように発芽時期をずらして、春先に多い霜にあわないようにしているのだ。
また、シャトー・アンジェリュスでは、収量を抑えることで品質の高いぶどうを栽培している。さらに、収穫は全て手摘みで、選果は収穫時と除梗の前後の3回行っている。除梗後の選果は、除梗機で取り切れなかった果梗などを全て取り除くために、選果台を2台使用し30人の人手をかけて徹底的に行っている。
選果後のぶどう果実は、潰れてしまわないよう、ポンプではなくベルトコンベアで醸造用タンクの上部まで運ばれ、タンクの中へ落とされる。破砕は行わない。ぶどうをタンクの中に落とした際、衝撃で果皮が破れるものもあるが、破れないぶどうもある。シャトー・アンジェリュスでは、果皮が破れなかった果実をその粒のまま発酵している。これは「ホールベリーファーメンテーション」と呼ばれ、ワインにフルーティさを持たせる。その後、低温マセレーションや発酵などを行い、18~24カ月間熟成する。
こうして産出されるシャトー・アンジェリュスのワインは、濃い色と濃密なアロマと果実味を持ち、現代のボルドーワイン系統の代表格と称されている。
シャトー・アンジェリュスのおすすめワイン
シャトー・アンジェリュス
リッチな果実味を持ち、濃縮感や上品なタンニンを持ち合わせている。若飲みでも熟成させても楽しめる。
ル・カリヨン・ド・ランジェリュス
シャトー・アンジェリュスのセカンドラベル。1987年ヴィンテージからつくられている。シャトーの生産量の20~30%を占めている。ファースト・ラベルと同様、丁寧に手入れされたぶどうを使用している。