世界中のワイン生産地域の中でも最も伝統を重んじると言っても過言ではないボルドー地方で、大きな動きがあった。ボルドーとボルドー・シュペリユールワインに使用できるぶどうが新たに7品種認められそうなのだ。
2019年7月2日付けの「Decanter」と「wine-searcher」によると、ボルドー地方で、7品種のぶどうを新たに認定することについての可否を問う投票が、ワイン生産者によって行われ、圧倒的多数が賛成したという。今後、国の公的機関であるI.N.A.O.(国立原産地名称研究所/Institut National des Appellations d’Origine )の承認が得られれば、実際に追加されることになる。
新たに品種を追加する理由
ボルドー地方と言えば、ワインのオールドワールドの中でも、特に伝統や格式を大切にする地域として有名だ。そのボルドー地方が、なぜ新しい品種の追加を認可しようとしているのか。
その大きな理由は、温暖化対策と言われている。新たな品種を追加するのは病気の対策にもなるが、今、最も深刻な問題は、気候変動による温暖化だという。
例えば、メルロー種はボルドー地方で最も多く栽培されている赤ワイン用のぶどうだが、温暖化の影響を大きく受けている。
温暖化によって、果実の糖度が以前よりも高くなっているのだ。糖は、発酵によってアルコールに変化するので、糖度が高いということは、アルコール度数が高くなるということにつながる。
アメリカのカリフォルニア州などでは、糖度の高いぶどうでアルコール度数が高めのワインをつくって、その力強さを売りにしていたり、水を追加してアルコール度数を下げたりしている。しかし、フランスではワインに水を追加することは禁じられているほか、ボルドー地方のワイン生産者の多くは、力強さよりもエレガントさをワインに求めている。
アルコール度数を下げる一番簡単な方法は、果実の収穫を早い時期に行うことなのだが、糖度だけに注意を払って収穫してしまうと、果実のうま味がないワインになってしまう。
こうしたことから、気温が高くてもゆっくりと熟すぶどう品種を導入する動きが、世界のワイン生産地で盛んになっていて、さすがのボルドー地方もそうした流れに乗ることとなったのだ。
新たに認可される7品種とは
今回、新たに認可される可能性が出てきた7品種は、4品種が赤ワイン用、3品種が白ワイン用となっている。その中には、フランス原産ではなく、ポルトガル原産のぶどうが2品種含まれている。
トウリガナシオナル種は、ポルトガルを代表する品種で赤ワインに使用される。タンニンを豊富に含み、暑く乾燥した環境でも、複雑さとエレガントさを持つワインをつくれる。
アルヴァリーニョ種は、ポルトガルを代表する品種で白ワインに使用される。豊かな香りとエレガントさを持つ。
マルスラン種は、1961年にフランスでカベルネ・ソーヴィニヨン種とグルナッシュ種を交配させてつくられた品種。赤ワインに使用される。熟成、収穫時期が遅い。
プティ・マンサン種は、フランス南西部に位置するポーが原産地で、甘口の白ワインに使用される。豊かな香りを持ち、熟成が遅い。
アリナルノア種は、フランスが原産で、カベルネ・ソーヴィニヨン種とタナ種を交配させてつくられた品種。赤ワインに使用される。
カステ種は、1870年にボルドー地方で発見された非常に珍しい品種。赤ワインに使用される。2008年にはフランス全土で栽培地が1ha未満にまで減少していたとも言われている。
リリオリラ種は、シャルドネ種とバロック種を交配させてつくられたと言われている珍しい品種。白ワインに使用される。
認可後の規制
前述した7品種が正式に認可された場合、使用できるワインや、栽培地などが決められている。
追加された品種を使用できるのは、ボルドーとボルドー・シュペリユールワイン。これらのワインは、ボルドー地方でA.O.C.ワインを産する地区すべてで生産されていて、ボルドー地方のワイン生産量の55%を占めている。コート・ド・ボルドーやサン・テミリオン、メドックなどのアペラシオンを冠するワインには使用できない。
生産者は、所有するぶどう畑の5%で追加品種の栽培が可能で、ブレンド率は10%までとされている。早ければ、2020-2021年のシーズンから栽培が開始されるのではと、「Decanter」は伝えている。