世界初の缶ワインと言われる「バロークス」が日本で販売され始めたのは、2005年。長年、缶ワインの研究を行ってきたオーストラリアのバロークスは、アルコールによる化学反応が起きないよう、独自に開発したコーティング剤でアルミやスチール缶の内部を覆うことに成功し、世界初の缶ワインを誕生させたと言われている。
発売から15年ほど経過したにも関わらず、日本ではまだまだ目にすることが少ない缶ワイン。しかし今、アメリカやイギリスで、缶ワインの人気が上昇しているという。
缶ワインの人気上昇はアメリカから!?
今、缶ワインの人気を牽引しているのはアメリカと言って間違いないだろう。まだまだ市場規模は非常に小さいが、スーパーマーケットや酒屋で、販売スペースが拡大しているだけでなく、缶ワインを一番目立つ棚に陳列する店も増えてきた。さらに缶ワイン専門の会社が続々と登場。2018年には、米セブンイレブンが自社ブランド「ローマー」を立ち上げている。
北米では、数年前から缶ワインを目にする機会が増え、アメリカの経済雑誌「フォーブス」によると、缶ワインの需要も急上昇しているという。また、世界のワイン市場をリサーチしているSopexaも同様の傾向を指摘している。Sopexaが公表した2018年の「WINE TRADE MONITOR」では、ワインの入れ物に関して、調査対象である業界関係者の40%以上が、北米ではボックス入りや缶入りのワインが支持されていると回答した。
アメリカに続いてイギリスも
古くからワインを嗜むイギリスでも、缶ワインの人気が上昇し始めている。イギリスのワイン雑誌「デカンター」によると、イギリスの小売業者が缶ワインのストックを増やしているという。また、有名なスーパーマーケットのウェイトローズやテスコ、セインズベリーズ、コープでは、扱う缶ワインの種類を増やしている。さらに、2018年にはイギリス初のイギリス産缶ワイン「アンコモン」が生産、販売された。
缶ワインのメリット
缶ワインの多くはヴィンテージワインでも、原産地呼称のワインでもない。しかし、今や缶ワインの品質は、ボトルワインに引けを取らないという。
また、ボトルワインにはない缶ワインのメリットが、認知度や人気の上昇を後押ししている。缶ワインのメリットとしてまず挙げられるのが、製品にした時の重さだ。缶ワインは、ボトルワインと比べて軽いので、輸送時に排出する二酸化炭素の削減につながる。さらに、ガラスボトルよりもリサイクル率が高いなどの理由から、缶ワインは、ボトルワインよりも環境に優しいワインとされている。
ほかにも、缶ワインはボトルワインと比べて、手軽にそして気軽に楽しめるというカジュアルさがメリットと言える。簡単に冷やすことができ、オープナーもいらない缶ワインは、BBQやピクニックでも手軽に楽しめ、さらにガラス瓶が禁止されているところでも飲むことができる。
缶ワインの展望
缶ワインの人気が上昇し始めたと言っても、ワイン界で缶ワインが占める割合は非常に少ない。人気が上昇中のアメリカでさえ、アメリカワイン市場での缶ワインの売り上げは1%に満たない。
また、ボトルワインが瓶詰め後も熟成していくのに対し、缶ワインは完全に密閉されてしまうため、品質を保持できても熟成は望めないなど、ボトルワインのようにはいかないこともある。
しかし、専門家は、缶ワインの未来は明るいと考えているようだ。缶飲料は、カクテルをはじめ酒、ビールに至るまで、さまざまな飲み物で成長を遂げてきている。そのため、缶ワインも消費者の予想や期待をはるかに超える可能性を持っていて、ガラスのボトルが当り前というワインの概念を変えるかもしれないというのだ。確かに、2015年に643万ドルだったアメリカでの缶ワインの売り上げは、2016年には1449万ドル、2017年には3200万ドルと毎年倍以上の伸びを見せている。
イギリスの「デイリー・メール」紙の調査によると、アメリカでは気楽に楽しめるという理由で20~30代の若い世代で缶ワインが支持されているという。この世代はインスタ映えを気にする世代でもあり、斬新なデザインや、可愛いデザインのパッケージは、インスタ映えするという理由で人気がある。さらに、他の世代よりも環境問題に敏感なため、環境に優しい缶ワインが注目されているのではないかとも言われている。
缶ワインは成長過程にあり、缶ワインの製造に関わる、缶工場やパッケージ企業、ワイナリー、輸送業者などが組織化されていないという課題もある。しかし、若い世代にアピールし浸透させることで、彼らが年を取った時、缶ワインに対する世間の考え方は大きく変わっていて、確固たる地位を築いているかもしれないと、専門家は推測している。缶ワインビジネスには、さらなる発展と新しい可能性が秘められているようだ。