コラム

世界品質の「ソアーヴェ・クラシコ」のつくり手、イナマ ~解説:イタリアのワイナリー

イタリアは、ワインの生産量世界一を誇る“ワイン大国”だ。ぶどう栽培に適した環境を持ち、古代からワインづくりが盛んで、現在も20州全てでつくられている。

そんなイタリアのワイナリーを解説するシリーズ2回目は、水の都・ヴェネチアで有名なヴェネト州のイナマ(Inama)を紹介する。

イナマとは

イナマは、イタリアを代表する白ワイン「ソアーヴェ・クラシコ(Soave Classico)」のつくり手として知られる。一時期、“デイリーワイン”というイメージが付いてしまったため、その名を再生するべく、世界品質のソアーヴェ・クラシコをつくり出し、国際的な評価を高めた。

また、赤ワインでも、イナマだけが所有している単独のDOC「コッリ・ベリチ・カルメネーレ・リゼルヴァ(Colli Berici Carmenere Riserva)」があり、カルメネーレ(カルメネール)を使った高品質なワインづくりの第一人者でもある。

イナマの歴史

イナマの始まりは、1965年。ジュゼッペ・イナマ氏が、ヴェネト州のソアーヴェ・クラシコ地区の中心地にある、モンテ・フォスカリーノの上部斜面という最良部に畑を購入したことがきっかけだ。

同氏の目的は、この土地に植えられている、ヴェネト州の土着品種ガルガネガの古樹から、最高品質のソアーヴェ・クラシコをつくること。それによってソアーヴェ・クラシコを、世界に通用する白ワインへと再生させることだった。

火山灰の土壌から高級ワインの生産に成功

イナマでは現在、ソアーヴェ・クラシコのエリアに約30haの畑を所有している。ソアーヴェ・クラシコの中でも最上級の丘陵地とされるモンテ・フォスカリーノは、北イタリアでは唯一の火山灰土壌のため、高品質のワインができるとは誰も考えていなかった。

それでもジュゼッペ氏は、高品質なワインをつくれると信じ、コンサルタントや指導に頼ることなく、自らの経験やノウハウだけを頼りに独自の研究を続けた。試行錯誤の後に、世界が認める品質のソアーヴェ・クラシコの生産に成功したのだ。

家族経営のイナマは、ジュゼッペ氏の息子ステファノ氏が引き継いでいる。同氏は1980年代後半には、ソーヴィニヨン・ブランとシャルドネの植樹も行った。ソーヴィニヨン・ブランを栽培したのは、モンテ・フォスカリーノではイナマが初めてだという。

この2種の国際品種のぶどうを使用した白ワインが1991年に発売され、「イナマにしか表現できないテロワールの個性」だと、国際的にも高い評価を受けた。イナマは、その後のソアーヴェ・クラシコの成功も合わせて、ソアーヴェエリアの概念を変えた先駆者と評されている。

伝統の辛口ワイン、ソアーヴェ・クラシコとは?

ソアーヴェ・クラシコはイナマの代表的な商品だが、イタリアの伝統的な辛口白ワインとしても有名だ。ソアーヴェとモンテフォルテ・ダルポーネに広がる、火山性土壌の丘陵地帯でつくられる。

ソアーヴェ・クラシコは、ぶどうもワインも歴史が古い。使用するぶどうは、白ぶどう品種のガルガネガ。ガルガネガは、2000年前に古代ローマ人がこの地に持ち込んだと言われている。

また、ソアーヴェ・クラシコは、1968年に統制原産地呼称のDOCに認定。火山性土壌によるミネラル感のあるワインは、古代ローマ時代からの主食である魚介によく合うため、長い間愛され続けている。

ソアーヴェ・クラシコとソアーヴェの違い

ソアーヴェ・クラシコとよく似た名前を持つ「ソアーヴェ(Soave)」について、その違いも説明したい。

ソアーヴェ・クラシコは、古代ローマ時代にぶどう栽培が始まったとされる、歴史的なエリアでつくられる。一方、ソアーヴェは、ソアーヴェ・クラシコの外側にある平坦部でつくられたワインとなる。栽培地域も広く、ソアーヴェ・クラシコと比べると手頃な価格のデイリーワインだ。品質・味わいともに、両者は全く異なる。

ソアーヴェの語源は「心地良い」という言葉。その名の通り、すっきりとした辛口飲みやすく、フルーティーな味わい。一方、ソアーヴェ・クラシコは、火山灰土壌で育ったぶどう特有のミネラル感と芳醇な香りがある。コクも深く、熟成にも耐え得る品質の高さを誇っている。

どうやって世界的なソアーヴェ・クラシコをつくったか?

古代ローマ時代から、その品質の高さが認められていたというソアーヴェのワイン。第二次世界大戦後にはキャンティとともにアメリカへ輸出され、世界的に人気が高まっていく。その人気ぶりに生産・輸出が追い付かなくなったため、旧来の栽培エリアを拡大。しかし、大量生産されるようになったことで、品質の低下を招くこととなる。

そうした低迷した状況の中でイナマでは、ソアーヴェに付いた量産型のイメージを払拭すべく、最高品質のソアーヴェ・クラシコをつくり出し、評価を“再生”させた。これには、10年以上かけて生み出した、ある方法がカギを握っている。

法律上では、ソアーヴェ・クラシコにはガルガネガを70%使用していれば他の品種を混ぜてもいいことになっている。しかし、イナマのソアーヴェ・クラシコは、ガルガネガを100%使用している。そのため、豊かなミネラルを感じるのが特徴だ。

イナマの畑は全て火山灰土壌で南東・南西向きのため、しっかりと完熟するまでぶどうを熟成させることができる。2009年にはオーガニック栽培に移行、健康なぶどうづくりにも注力した。

ぶどうは手摘みで収穫し、状態により約10時間程度スキンコンタクト(果皮を果汁に浸す工程)を行う。これにより醸造香を引き出し、より濃厚で風味豊かにすることにこだわっている。

また、フレンチオークバリック(木樽)を使用しているのも特徴。オーク樽の風味を加味することによって、かんきつ系やミネラルの風味をより引き出し、複雑味のあるワインになる。さらに、ワインによって新樽使用の割合を調整することで、樽の風味を付けすぎない工夫もしている。

イナマが生み出した、芳醇なアロマを持ち長期熟成にも向くソアーヴェ・クラシコは、これまでのソアーヴェの概念を覆した。世界的なワイン評論家のジェームズ・サックリングによるワイン評価サイト「ジェームズ・サックリング・ドット・コム(James Suckling.Com)」で90点以上を多数獲得するなど、世界に誇れるクオリティとして高い評価を受けている。

イナマがつくる4種のソアーヴェ・クラシコ

イナマは、「ヴィン・ソアーヴェ」「ヴィニエッティ・ディ・フォスカリーノ」「ヴィニエート・デュ・ロト」「ヴィニェーティ・ディ・カルボナーレ」という4種のソアーヴェ・クラシコを生産している。一口に“イナマのソアーヴェ・クラシコ”と言っても、それぞれ畑や樹齢、醸造法が異なり、特徴もさまざまだ。

イナマ ヴィン・ソアーヴェ ソアーヴェ・クラシコ

スタンダードキュヴェとして、日常的に楽しむ位置づけのワインだ。ミネラルと白い花のニュアンスが感じられるシンプルな味わいで、さまざまな料理と合わせやすい。ステンレスタンクで発酵・熟成することにより、ぶどう本来の香りと味わい、酸味を引き出している。

品種:ガルガネガ
味わい:辛口
参考小売価格:2640円

イナマ ヴィニエッティ・ディ・フォスカリーノ ソアーヴェ・クラシコ

ソアーヴェ・クラシコ地区の中でも最上級とされるモンテ・フォスカリーノで、樹齢40年以上の古樹からオレンジ色になるまで完熟したぶどうを収穫し、フレンチオークバリックで発酵している。濃い黄金色が特徴で、カモミールなどの芳醇な花の蜜の香りが広がり、アーモンドやかんきつ系の余韻が続く。

品種:ガルガネガ
味わい:辛口
参考小売価格:4400円

イナマ ヴィニエート・デュ・ロト ソアーヴェ・クラシコ

モンテ・フォスカリーノの中でも特定区画にある、単一畑のロトで採れたぶどうを使用する。フレンチオークバリックで6カ月間発酵・熟成させる。新樽の比率を30%に抑えたことで、樽の風味は控えめ。凝縮した果実味とクリーミーな質感が特徴で、複雑な味わいかつ力強いワインになっている。

品種:ガルガネガ
味わい:辛口
参考小売価格:6050円

イナマ ヴィニェーティ・ディ・カルボナーレ ソアーヴェ・クラシコ

祖父ジュゼッペ氏、父ステファノ氏に続く第3世代目の3兄弟によって、2016年に初めてリリースされた、イナマで最も新しいワインだ。

単一畑のカルボナーレで採れた、樹齢平均40年以上のぶどうを使用。ステンレスタンクで熟成後、さらに6カ月間、瓶の中で熟成させている。フレッシュで、酸味とミネラル感がある。また、ラベルは3人のコルク職人を表現した特徴的なデザインになっており、3兄弟がつくる新時代のソアーヴェ・クラシコであることを表している。

品種:ガルガネガ
味わい:辛口
参考小売価格:5500円(税込)

イナマしかつくれない赤ワインとは

イナマが誇るのは、白ワインだけではない。1990年にコッリ・ベリチ地区に畑を購入し、黒ぶどうのカルネメーレを栽培して、赤ワインの生産にも着手した。

イタリアワインは4つのランクに分類されるが、コッリ・ベリチではデイリーワインに位置付けられるヴィーノ・ダ・ターヴォラが量産される。その土地で、最高級の赤ワインをつくる第一人者になることが目的だった。その後、カルメネーレにカベルネとメルローをブレンドした「ブラディシズモ」を1997年にリリースし、高い評価を得た。

その成功を受け、カルメネーレに最適な、日当たりがよく赤土の粘土質土壌の畑を購入。2009年には、イナマの単独所有DOCコッリ・ベリチ・カルメネーレ・リゼルヴァに認定された。そして、ここで採れたカルメネーレで、「ピゥ」「カルミニウム」「オラトリオ」を生産している。

中でも「オラトリオ」は、優れたヴィンテージにのみつくられる最上級キュヴェ。黒こしょうを思わせるスパイシーさに加えてカカオやベリーが香り、まろやかな味わいとソフトなタンニン、長く続く余韻が特徴だ。“カルメネーレの偉大さを知るに最適な1本”と評されている。

その他のおすすめワイン

イナマでは、ソアーヴェ・クラシコ以外にも、質の高い白ワインを生産している。

イナマ ヴルカイア・ソーヴィニヨン・デル・ヴェネト

ソアーヴェ・クラシコに先駆け、1991年にイナマが最初にボトリングして発売した白ワイン。トロピカルフルーツなどの華やかな香りと果実味、火山灰土壌で育ったソーヴィニヨン・ブラン特有の豊かなミネラル、穏やかな酸を感じる。テロワールの個性を楽しめる、イナマならではの1本。

品種:ソーヴィニヨン・ブラン
味わい:辛口
参考小売価格:3520円

イナマ ヴルカイア・フュメ・ソーヴィニヨン・デル・ヴェネト

前述のヴルカイアとともに、1991年に発売された。違いは、ヴルカイアがステンレス熟成なのに対し、ヴルカイア・フュメは、フレンチオークバリックで約半年間、熟成させていること。これによって、フュメ(スモークやローストをした)の香りが出る。ローストしたコーヒーや樽由来の香りと、完熟したトロピカルフルーツの豊かな味わいが楽しめる。

品種:ソーヴィニヨン・ブラン
味わい:辛口
参考小売価格:8140円

イナマ シャルドネ・デル・ヴェネト

イナマの火山灰土壌のテロワールを表現したシャルドネの白ワイン。明るい黄色で、リンゴや洋ナシなどのアロマと果実味がしっかりと感じられる。豊かなミネラルと華やかさがあり、長い余韻となって残るのが特徴だ。女性人気も高い。

品種:シャルドネ
味わい:辛口
参考小売価格:3520円

創業以来、常にワインの評価・品質向上に情熱を燃やしてきたイナマ。世界に誇る高品質のソアーヴェ・クラシコはもちろんのこと、イナマにしかつくれない赤ワインもぜひ味わってみてほしい。

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About the author /  大江 有起
大江 有起

コピーライター、雑誌の編集者などを色々経てフリーライターに。文章を書くことと、赤玉スイートワインや貴腐ワインのような甘いワインが好きです。 ワインバザールさんにてワインに興味を持ち、一般社団法人日本ソムリエ協会ワイン検定シルバー取得しました