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イタリアのワイナリーを解説するシリーズ3回目は、イタリア中部に位置するマルケ州のイル ポレンツァ(Il Pollenza)だ。
同ワイナリーでは、石油・エネルギー事業で成功した由緒ある伯爵家と、「サッシカイア」などを手掛け、イタリアワインの新潮流「スーパータスカン」をけん引した伝説の醸造家がタッグを組み、素晴らしいワインを次々と生み出してきた。初リリースしたワイン「イル ポレンツァ」は、イタリアの権威あるワインガイドで最高賞を受賞し、華々しいデビューを飾っている。
イル ポレンツァとは
イル ポレンツァは、マルケ州トレンティーノ市の美しい丘稜地に位置する。ワイナリーとしての歴史は浅いが、貴族の誇りをかけて、スーパータスカンやボルドーに匹敵するワインをつくり続けている名門だ。
エネルギー事業の成功からワイナリー経営へ
オーナーは、ローマ教皇ピウス9世の末裔であるアルド・ブラケッティ・ペレッティ伯爵。ヴェネト州にルーツを持つ伯爵家は、1200年代から続く由緒ある家柄だ。1933年から石油やエネルギー事業を展開し、業界の重鎮として発展を遂げてきた。
ペレッティ伯爵は、「余生は好きなワインづくりをしたい」という思いから、祖父テバルトの家系の伝統を引き継ぐことになる。枢機卿の家系であるアンティッシ・マッティ女王から譲り受けた200haの畑で、20世紀後半にワイナリーの立ち上げに着手する。
1998年に、ペレッティ伯爵の友人で醸造家のジャコモ・タキス氏が畑やぶどうのクローンを分析した結果、畑が持つポテンシャルが高いこと、フランスのボルドー品種に適した土壌であることが判明した。
タキス氏の指導の下、ぶどうの植え付けを行い、2001年にペレッティ伯爵とタキス氏共同でイル ポレンツァを創業した。
「サッシカイア」の産みの親、ジャコモ・タキス氏とは?
ペレッティ伯爵が厚い信頼を寄せたタキス氏は、どのような人物だったのだろうか。
同氏は、トスカーナ州の有名ワイナリー、アンティノリなどに従事し、1970~80年代にかけて起きた「イタリアワイン・ルネッサンス」をけん引した。
同州のDOCボルゲリでは、ボルドー品種をブレンドしたワイン「サッシカイア」を生産。1980年代に国際的ブームを起こすほどの大成功に導いた。続いて「ティニャネッロ」「ソライア」など、ボルドー品種ブレンドのワインが高く評価された。
タキス氏は、固有品種の使用が義務付けられていたイタリアのワイン法を超越し、国際品種をブレンドするなど、自由な発想でワインをつくった。これらはスーパータスカンと呼ばれ、安いキャンティワインの産地だったトスカーナ州のワインの品質と、国際的な評価を高めた一大ムーブメントとなった。タキス氏は、イタリアワインの歴史を動かした“スーパータスカンの父”として、その名を世界中に知られるようになった。
当初はワインづくりを趣味程度に考えていたペレッティ伯爵だが、タキス氏から畑がボルドー品種に向いていることを伝えられると、伯爵はマルケ州でしかつくれない、スーパータスカンを超越したワインをつくることを決心する。2人は最高のワインづくりを目指して、イル ポレンツァをスタートさせた。
タキス氏は畑だけでなく、樽や醸造など、全てのワインづくりに関わるエノロゴ(醸造家)として活躍した。
ぶどう畑にたたずむ優雅な宮殿
イル ポレンツァは、アドリア海から内陸25kmの場所に位置する緩やかな丘陵地帯にあり、マルケ州の中でも指折りの美しさを誇るロケーションにある。
約200haある敷地には60haを超える広大なぶどう畑が広がっており、その中に中世を思わせる壮大な宮殿風の建物がたたずんでいる。建物の中には16世紀の建築家サンガロによって建てられたものもあり、その優雅な光景は貴族のワイナリーと呼ぶにふさわしい趣だ。一方で、ボルドーと同じように、最新の醸造設備も備える。
気候は、海洋性と山岳性を併せ持った微候性のミクロクリマと呼ばれるもので、質の良いぶどうの育成には最適な、恵まれた環境だ。
トレッビアーノやモンテプルチアーノなどの国有品種の他に、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、シラー、メルロー、プティ・ヴェルド、ソーヴィニョン・ブランなど、豊富な国際品種を栽培している。
タキス氏の指導により、1haあたり6000本の高密植栽培を行い、ぶどうの凝縮度を高めるほか、手摘みで収穫する際に質の良いぶどうのみを選果する。出来上がったワインの熟成と保存は、最大2000個のバリック(木樽)を貯蔵できる、地下7mにあるバリックルームで行っている。
初リリースで最高賞受賞の「イル ポレンツァ」
ワイナリーのフラッグシップワインと言えば、2001年にリリースした「イル ポレンツァ」だ。ファーストヴィンテージにして、イタリアソムリエ協会のワインガイド『ドゥエミラヴィーニ(DUEMILAVINI)』(現『ビベンダ(BIBENDA)』)で、最高賞にあたるチンクエグラッポリ賞を受賞し、瞬く間に話題になった。
その後のヴィンテージも、イタリアのワインガイド『ガンベロ ロッソ(Gambero Rosso)』誌などで多数受賞歴を持ち、評価の高さがうかがえる。日本国内でも、ワイン専門誌『ワイナート』(美術出版社)が、2007年第40号で「イタリアエレガントワインベスト20」に選出している。
ボルドーやスーパータスカンに引けを取らない味わい
品質の高さを誇る「イル ポレンツァ」は、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルローなど、ボルドー品種を使用したフルボディの赤ワインだ。フレンチオークの新樽で約13カ月熟成させている。
紫がかった濃いルビー色を持ち、グラスに注げば圧倒的な香りが立ち上る。凝縮した果実の深い味わいで、豊富なタンニン、酸味が調和した美しい飲み心地だ。力強さとエレガンスさを併せ持ち、長い余韻を特徴とするワインは、コクのあるチーズや骨付き肉とよく合う。
上級のボルドーやスーパータスカンに引けを取らない品質で、スーパータスカンを超えた偉大なワインをつくりたいという、ペレッティ伯爵とタキス氏2人の思いがこめられた逸品だ。
「イル ポレンツァ」
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、プティ・ヴェルド
味わい:フルボディ
参考小売価格:1万2000円
新たなエノロゴがつくる希少ワイン「コスミーノ」
長年にわたり、イル ポレンツァに貢献してきたタキス氏だが、2016年に82歳で逝去した。2007年からは、タキス氏の志を継ぐエノロゴとして、カルロ・フェッリーニ氏が就任している。
同氏は、イタリアの最優秀エノロゴなど数々の受賞歴を持つ。就任した年に生産した「イル ポレンツァ」は、『ガンベロ・ロッソ』誌で最高賞のトレ・ヴィッキエーリを獲得している。
そんなフェッリーニ氏が、“グレート・ヴィンテージ・イヤー”と評価する時にだけつくられる特別なワインが「コスミーノ」だ。
カベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランをブレンドしてつくるボルドースタイルの赤ワインで、その名はペレッティ伯爵の孫の名前に由来する。
有機栽培で育てたぶどうをグリーンハーベスト(収穫量制限)により厳選し、手摘みで収穫している。完熟のブラックベリーやプラムに、レザーやタバコなどのニュアンスが混ざった複雑で芳醇な香り。タンニンは滑らかで、まろやかな果実味と渋み、酸味がバランスよく調和し、サーロインステーキやローストビーフなどの赤身肉、熟成チーズと相性が良い。
希少ワインながら4000円代から買えるので、しなやかで洗練された味わいを楽しんでみてはいかがだろうか。
「イル ポレンツァ コスミーノ」
品種:カベルネ・フラン
味わい:フルボディ
参考小売価格:4800円
その他のおすすめワイン
イル ポレンツァ ポルポーラ
イル ポレンツァのエントリーラインとされている赤ワイン。メルローとモンテプルチアーノをブレンドしている。
濃いルビー色で、熟したブラックベリーやブルーベリーのジャムのように濃厚な果実の香りにスパイスのニュアンスが加わる。滑らかな果実味で、力強さと複雑性がありながら、まろやかさも兼ね備えたワインだ。ハンバーグなどの肉料理のほか、酸味が魚料理ともマッチする。
品種:モンテプルチアーノ、メルロー
味わい:フルボディ
参考小売価格:2500円
イル ポレンツァ ブリアネッロ
ワイン評価サイト『ジェームズ・サックリング・ドット・コム(James Suckling.Com)』で、90点の高得点を出したワイン。ボルドーで生産されている、ソーヴィニヨン・ブランの白ワインをイメージした。
淡い麦わら色で、グレープフルーツなどのかんきつ系の爽やかな香りと酸味、豊かなミネラルに白桃のニュアンスが加わる。魚介料理やサラダ、白身肉などと合う。
品種:ソーヴィニヨン・ブラン
味わい:辛口
参考小売価格:2500円
イル ポレンツァ ディディ
ピノ・ノワールやシラーをブレンドした、淡いサーモンピンクの辛口ロゼワイン。ほのかなチェリーの香りがフレッシュで爽やかな酸味を感じる、スマートな飲み心地だ。ハム類や野菜のマリネ、魚介とも相性がいい。
品種:モンテプルチアーノ、ピノ・ノワール、シラー
味わい:辛口
参考小売価格:2500円
【解説:イタリアのワイナリー】
サクラアワードで最高賞受賞の「イル パッソ」を手掛けるヴィニエティ・ザブ
世界品質の「ソアーヴェ・クラシコ」のつくり手、イナマ