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長野県北東部にあり、人口7000人に満たない村ながら、6軒のワイナリーがある信州高山村(正式名称:長野県上高井郡高山村)。ワイン用ぶどう産地としての自然条件に恵まれており、フランスのシャンパーニュ地方やブルゴーニュの南部地方に似ていると言われている。
そんな信州高山村のワイン産地としての、また観光地としての魅力をアピールするため、メディア向けに開催されたのが、長野県長野地域振興局主催の「“農観連携”ワインツーリズム」だ。
今回は、現地で行ったぶどうの収穫体験のレポートに加えて、ツアー内で醸造家の鷹野永一氏からうかがった内容を中心に、信州たかやまワイナリーについて紹介する。
信州たかやまワイナリーとは
2016年設立の信州高山村で最大のワイナリー。13人のぶどう畑のオーナーが集まった、“農家の夢をかなえるワイナリー”だ。ぶどう畑のオーナーの1人であり、地元出身の涌井一秋氏が代表取締役社長を務めている。
今回のツアーでは、信州たかやまワイナリーの醸造家・鷹野永一氏から詳しい解説を聞くことができた。
信州たかやまワイナリーの成り立ち
信州高山村のワイン用ぶどう栽培の歴史は、1996年に始まる。この年、故・佐藤宗一氏が「この地で最高のシャルドネをつくる」と、ワイン用ぶどうの栽培をスタートさせた。
それから25年以上が経ち、当時は3haだったぶどう畑が今では60haを超え、大手から中小まで複数のワインメーカーにぶどうを供給するワイン用ぶどうの産地となった。2011年にはワイン特区の認定を受けたこともあり、栽培者たちが“今度はワインを醸してワインの産地にしていこう”と動き始める。
その動きを行政がくみ上げ、ワイン産地とは何か、この地にふさわしいワイナリーとは何かを話し合う「高山村ワイナリー構想協議会」が立ち上げられた。そこでまとめられたプランが栽培者に投げかけられ、賛同した13人の出資がベースとなり、信州たかやまワイナリーを立ち上げることに。出資者には、地域の酒販店や旅館も名を連ね、地域を挙げてワイン産地になろうと取り組んでいる。
「ワイン産地とは、小さくても高品質なワインを産するワイナリーが複数点在する地域。そのためには、中核となるワイナリーが必要で、それがこの信州たかやまワイナリーです。人材養成、技術者を養成する役割を担っています」と、鷹野氏は説明している。
ワイン産地を目指すために
では、目指すワイン産地とはどんなものなのだろうか。鷹野氏は、「ワイン産地には、いい人、いいもの、いい飲み手が必要。志の高いつくり手がいること、世界に評価される品質の高いワインがつくられること、それを温かくも厳しく見守る飲み手がいて、初めてワイン産地と言えるだろう」と語る。
また、ワイン産地になるには、200年かかると言われているとし、「長期的なプランが必要で、長い視点を持ったワイナリー経営が必要です。世界を目指すという、世界的な基準でワインをつくることと同じように、飲み手となる人々との交流も強く意識した活動を行っています」と、長い視点を持ちながらワインづくりに取り組むワイナリーであることを強調した。
テロワールの特徴
信州たかやまワイナリーでは、村内の数十カ所からぶどうの供給を受けているという。「同じ味のぶどうはないため、複雑な味わいのワインができると高い評価を受けている」と語るのは、ぶどう栽培家でありワイナリーの代表を務める涌井氏だ。
ぶどうの味を大きく変える要因の1つが標高差だ。鷹野氏の説明によると、ワイナリーがあるのは標高650mで、ぶどう畑は標高400~830mまでの間に点在しているという。
標高が変わると気候が変わるため、標高差がぶどうに与える影響は大きい。ワイン産地を5つの気候帯に分類している「アメリン&ウィンクラー博士によるワイン産地の気候区分」では、高山村の気候帯はリージョン1から4まで幅広く分類されるという。
「他の地域に当てはめると、イタリアの南からシャンパーニュまですっぽりと入るような気候です。気候が変わると、当然ぶどうも変わります」と鷹野氏は説明してくれた。
信州たかやまワイナリーのワインづくり
信州たかやまワイナリーでは、ワインづくりの大切なポイントである収穫時期を見極めるために、収穫の3週間ほど前からぶどうのサンプリングと化学分析を実施。畑と品種ごとに、最適な時期に収穫を行っている。
果汁を優しく絞り、機械ではなく重力でタンクに移動させるなど、できるだけぶどうに負荷をかけずに仕込んでいく。アルコール発酵の前には、デブルバージュ(タンクで一晩寝かせて澱を下に沈めること。上澄みだけを発酵させる)を行っている。アルコール発酵終了後は澱引きを数回繰り返すことで、ワインの透明度と安定度を高めていく。
ぶどうは畑ごとに収穫して仕込んでいくため、同じ品種でありながら、さまざまな特徴を持った原酒(キュヴェ)が生まれる。仕込んだキュヴェが評価できるようになる2月頃には、酒販店などを招いて全てのキュヴェを評価してもらい、アッサンブラージュ(ブレンド)を決める。
「こうして生まれる多様性、そしてその特徴やバランスを感じてもらえるでしょう。クリーンでバランスが良いことが、うちの持ち味です。調和というのは、食とのバランス、地域とのバランスも含まれます。突出した味わいがないことで、目立たないとも言えますが、生活や食に寄り添うような品質になっているのです」と、鷹野氏は語る。
秋に収穫したぶどうが、ワインとして最初に発売されるのが「ナッチョ」シリーズだ。翌年の桜の季節に合わせてリリースされる。その後、樽で育成する赤ワインなどは、ゴールデンウィークごろまでに樽の中に納まるのだという。
ワイン用ぶどうの収穫を体験
メディアツアーでは、ソーヴィニヨン・ブランの収穫を体験させていただいた。
涌井氏のレクチャーを聞き、ケースに腰掛けてぶどうの房を収穫。傷んだ実を取り除いた後、収穫ケースに移すという作業だ。ぶどう畑の風を感じながら、丁寧にぶどうの房を切り、真剣にぶどうの選別をする作業に思わず没頭してしまった。
30分にも満たない時間で、ツアーの参加メンバー8人が収穫したぶどうの量がこちら。
なかなかの量に見えるかもしれないが、慣れた人ならこの2倍以上は収穫でき、もっと正確に選別もできるとのこと。奥の深い作業だと感じられた。
今回収穫したぶどうは、「ヴァラエタル」シリーズの2022ヴィンテージとして仕込まれるという。ワイン好きとしては、楽しみが1つ増えるのもうれしいところだ。
2023年度からワインツーリズムが本格化
2023年度からは、ワインツーリズム「ワインな猫の手旅」が本格的にスタートする。
「ワインな猫の手旅」では、地元の食や自然、温泉などを堪能しながら、ワイナリーやぶどう農家のお手伝いを体験でき、農業と観光という長野の魅力を一緒に楽しめる。信州たかやまワイナリーの他に、信州高山村、須坂市、長野市信州新町にあるワイナリーやぶどう農家が受け入れ予定だ。
「ワインな猫の手旅」は、あくまでもお手伝いを楽しむためのもので、バイト代などの報酬が出るわけではない。だが、少し変わった旅をしたい人、ワインが好きな人、農業に少しでも興味がある人、子どもと自然に触れ合う体験がしたい人などにおすすめだ。
信州たかやまワイナリーでできること
信州たかやまワイナリーは、ツアーに申し込まなくても訪れることが可能だ。
ワイナリーは、温泉宿が立ち並ぶ山田温泉から車で少し行ったところにあり、観光のついでに立ち寄ることができる。
ただし、ワイナリーの場所は非常に分かりにくいため、カーナビでは表示されずに迷子になる人も多く、注意が必要だ。車で向かう際には、場所が登録されているGoogleマップの使用がおすすめとのこと。
それでは、信州たかやまワイナリーでできることをまとめよう。
ワインの購入
ワイナリーでは、高山村限定販売の「ナッチョ」シリーズ、ワイナリー限定販売の「ラボ」シリーズ含めて、全てのワインと、ワイングラスなどのグッズを購入できる。営業時間は9~16時(12~13時は昼休み)で、年末年始を除き年中無休だ。クレジットカード、PayPayにも対応している。
販売スペースのすぐ横からは、ガラス越しにワイナリーの中を見下ろすことができる。
ぶどう畑の見学
ワイナリーの周辺に広がる、ぶどう畑の見学も可能だ。ただし、ワイナリーにいる職員に一声かけて、注意点などを確認することが必須となる。
ぶどうができる場所の風の流れや日当たりを感じながら歩いてみると、そこで出来たワインへの愛着が深まるもの。勾配があるので大変だが、ワイナリーに立ち寄った際には、ぜひ見学をしてみると良いだろう。所要時間は10~30分程度だ。
イベントに参加
前述したとおり、信州たかやまワイナリーでは、ワイン産地を目指す一環として、飲み手となる人々との交流も強く意識した活動を行っている。
その1つが、毎年4月中旬(20日前後の休日)に開催される「春のvin(ヴァン)まつり」だ。春に発売される「ナッチョ」のお披露目も兼ねており、ワインと地元飲食店の料理が楽しめる。この時期には推定樹齢500年の1本桜「黒部のエドヒガン桜」など、村内のサクラが見頃になるので、高山村を観光するには最高のシーズンだ。
新型コロナウイルス感染症の流行以降は、テイクアウトやオンライン開催も含めて継続されている。詳細はHPやFacebookで案内されるので、気になる人はぜひご確認を!
信州たかやまワイナリーのワイン
最後に、信州たかやまワイナリーのワインを、シリーズごとに見ていこう。
ヴァラエタル(Varietal)シリーズ
「ヴァラエタル」は、品種ごとに商品化したもの。白はシャルドネとソーヴィニヨン・ブラン、赤はピノ・ノワールとブレンドのそれぞれ2種類がある。
高山村の代表品種でもあるシャルドネは、主にステンレスタンクで発酵・熟成させているが、木樽で発酵・熟成させたものを一部ブレンドすることで、バターを使った料理にも合うワインに仕上げている。
香りの高いソーヴィニヨン・ブランは、グレープフルーツやパッションフルーツを連想させるような香りとかんきつを感じる味わいが楽しめる。レモンを搾った魚料理との相性が抜群だ。
ピノ・ノワールは、グラスに注いでしばらくすると、スミレやバラの華やかな香りが一気に広がる。しなやかな味わいで、気軽に楽しめる。
メルロー&カベルネは飲み応えのあるタイプで、メルローとカベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランを皮や種からしっかりと抽出し、9カ月間樽の中で熟成させたもの。樽からくるコーヒーやスパイスのニュアンスも感じられ、お肉や煮込み料理に合わせやすい1本だ。
ファミリーリザーブ ナッチョ(Naćho)シリーズ
「Naćho」は、気軽にワインを楽しんでもらいたいという思いからつくられたシリーズ。「どう?」「どうしてる?」と、相手への気遣いを表す地元の方言「なっちょ?」が名前になっている。辛口でくせが少ないワインで、どんな食事にも合わせやすい。「春のvinまつり」の頃には白とロゼがリリースされ、赤ワインは少し遅れて6月頃にリリースされる。
ラボ(Labo.)シリーズ
「ラボ」シリーズは、試験的・スポット的につくられているワイン。毎月1アイテムくらいの頻度でリリースされ、それぞれ300本ぐらいと非常に生産数量が少ないため、ワイナリーでしか手に入らない。「お客様のご意見を聞きながら、新しい取り組みを評価していくシリーズ」だという。
訪問時に発売されていた「STW106 混醸 タカヤマフィールドブレンド」は、信州高山村を1つの畑と見立てて、全ての品種や畑を混醸したワインだ。「自然環境だけがワインの品質を決定づけるわけではなく、人の要素も大きい。ぶどう畑は人の影を好むと言われるほど、かけた愛情や情熱が品質に影響していきます。多様性から豊かさが生まれ、また1つになることでバランスが生まれるのです」と、このワインについて熱く語られると、ツアーの参加者のほとんどがその魅力にひかれて購入していた。
少量生産ではあるが、つくり手としての思い入れが感じられるシリーズだ。
ワイン用ぶどうの産地として、ワイナリーからもワインファンからも信頼を集める信州高山村。この地で未来を見据えたワインづくりを続けている信州たかやまワイナリーは、天気が良ければ長野市内を一望できる絶景ポイントでもある。ワイン好きの人にも、観光地・信州高山村を満喫したい人にも、ぜひ足を運んでもらいたいワイナリーだ。
信州たかやまワイナリー
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