コラム

サステナブルなワインづくりとワイナリーの強化 ――サントリー2024日本ワイン戦略説明会④

サントリーは2024年5月14日、TKPガーデンシティPREMIUM京橋(東京都中央区)において、2024年の日本ワイン方針・戦略についての説明会を開催した。

当日は、同社常務執行役員ワイン本部長の吉雄敬子氏、サントリー登美の丘ワイナリー(以下、登美の丘ワイナリー)栽培技師長の大山弘平氏が登壇。世界と肩を並べる日本ワインをつくるための取り組み、日本らしさを大事にした持続可能なワインづくりなどについて話があった。

第4回となる本記事では、登美の丘ワイナリーのテロワールを生かす取り組みや、新たに建設される醸造棟、同社のサステナブルなワインづくりについて紹介する。

登美の丘のテロワールを生かすため、畑を50に区分け

登美の丘ワイナリーのぶどう畑は25haと広大で、複雑な地形のため、土壌の特徴もさまざまだ。同ワイナリーでは、日当たりや水はけなどそれぞれの土壌の特徴を見極めて畑を約50の区画に分け、各区画に最適なぶどう品種を植えている。

新醸造棟を建設

区分けして育てたぶどうの個性を生かすため、同社は約7億円の設備投資を行い、登美の丘ワイナリーに新たな醸造棟を建設する。2024年9月に着工し、1年後の2025年9月に稼働を開始する予定だ。新醸造棟は、40台の小容量タンクを備え、ぶどうの特徴ごとに分けて仕込みができるようになる。

新醸造棟の内観イメージ

ぶどうを区画ごとに小ロットで仕込むことで、多様な原酒づくりが可能になる。アッサンブラージュの幅が広がり、ワインのさらなる品質向上が期待できる。

サステナブルなワインづくり

同社では、気候やワインづくりの環境の変化に対応しながら、100年以上にわたってワインをつくってきた。吉雄氏は、これから先も日本ワインをつくり続ける上で、サステナブルなワインづくりはつくり手の責務と捉えていると語る。

地球温暖化への適応や対策

気候変動への適応として、ぶどうが実る枝の先端やぶどうの花を切断して、その後から出てくる芽(副梢)を成長させる、副梢栽培技術を取り入れている。ぶどうの成長時期を遅らせて、涼しい時期に成熟させることで、最適な状態でぶどうを収穫できる。

他には、気候変動への適応力があるとされるマルスラン(赤ワイン向け)やアルバリーニョ(白ワイン向け)など、新しい品種の植え付けを拡大している。

CO2削減に向けて山梨県が推進する「やまなし4パーミル・イニシアチブ」の取り組みにも参加。剪定した枝を炭化させ、畑に戻して土壌の炭素量を増やしているほか、草生栽培なども行っている。

地域社会との共生

登美の丘ワイナリーは、有機JAS認証を取得した国内では数少ないワイナリーで、一部の畑で有機栽培を実施している。また、シイタケの廃菌床や稲わらなど地域の人に提供してもらった廃材を土壌の健全化に活用している。

より深く魅力を感じてもらうため、ワイナリーを強化

登美の丘ワイナリーでは、各種イベントや体験ツアーを通して、つくり手とユーザーとの対話の機会を増やし、ワイナリーの魅力を伝える工夫を続けてきた。その成果は、2023年のワイナリーへの来場者数が3万6000人(前年比151%)と増えていることにも表れている。

今後、さらにワイナリーの魅力を知ってもらうため、限定ツアーを開催したり、新たなワインの楽しみ方を発信したりしていく。例えば、副梢栽培や50の区画を体験できるツアー、地元山梨の食材とワインのマリアージュを紹介するイベントなどを予定している。

サントリーの日本ワイン中期方針

同社は日本ワイン事業の中期方針として、ワインの「ものづくり」を向上させ、ユーザーとの接点を強化して販売数量の拡大を目指す。そうした取り組みを通じて、2023年の販売数量6万6000ケースを、2030年には10万ケースに拡大する計画だ(単位:9L/万ケース)。

100年以上続く、サントリーのワインづくり。同社は今後もオリジナリティのある日本ワインづくりに取り組み、世界に誇れる「ジャパニーズワイン」を生み出すとしている。

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