コラム

クマ使いからワインメーカーに転身! 魚介に合うドメーヌ・タリケとは

フランス・ガスコーニュ地方の白ワインのパイオニアであり、2024年に日本での売り上げが過去最高を記録したドメーヌ・タリケ(Domaine Tarique)。2025年1月下旬には、オーナーの1人であるアルミン・グラッサ氏と営業担当のシモン・ボワシエラ=ヌーヴィル氏が来日した。

左から、アルミン・グラッサ氏とシモン・ボワシエラ=ヌーヴィル氏

今回は、その際に開かれたランチ会でうかがった話を中心に、ドメーヌ・タリケの興味深い歴史やこだわり、そして日本ならではの漁連との関係について紹介する。

クマ使いからワインづくりへ! ドメーヌ・タリケの歴史

フランス南西部の大西洋とピレネー山脈に挟まれた、ガスコーニュ地方に位置するドメーヌ・タリケ。その歴史は、1683年にさかのぼる。この年、ドメーヌの起源となる初の「バ・アルマニャック」がつくられた。「アルマニャック」とは、ガスコーニュ地方で生産されている、白ぶどうを蒸留してつくられるブランデーのこと。「バ・アルマニャック」が「アルマニャック」の中で最も高級とされている。

ガスコーニュ地方についてアルミン氏は、夏は暑くなりすぎず、夜は温度がきちんと下がって昼夜の寒暖差がある気候で、きれいな酸味のアロマティックなワインができる地域と説明されていた。土壌としては、砂質に多少の粘土が混ざる、白ワインに適した土壌とのこと。

1912年、クマ使いだった初代が購入

現在のオーナー一族がワイナリーを購入したのは、1912年のこと。初代となるピエール・アルトー氏は、当時農業に関わっていたわけではなかった。非常に貧しかったピレネー地域を出て、アメリカンドリームをつかむためにアメリカへ渡る。ニューヨークで、長年クマ使いとして働いていたそうだ。

ドメーヌ・タリケが売りに出されるという情報を聞いたピエール氏は、購入を決意。第1次世界大戦やフィロキセラ禍を乗り越えて、もう一度ぶどうの樹を植え直すところから「アルマニャック」づくりをスタートしたという。

白ワインのパイオニアへ

1972年には、4代目となるイヴ・グラッサ氏がビジネスを継承した。アルマニャック地方ではもともと白ぶどう品種が栽培されていたということもあり、1982年には初めて手がけた白ワイン「タリケ クラシック」が誕生。その後も白ワインづくりに注力し、ガスコーニュ地方における白ワインのパイオニアとなった。1987年には、イヴ氏が「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(International Wine Challenge:IWC)」で白ワインメカー・オブ・ザ・イヤーに選出されている。

イヴ氏の息子である、レミー氏とアルミン氏の兄弟がワイナリーを受け継いだのは2007年のこと。以降もドメーヌ・タリケのこだわりを受け継ぎ、ワインづくりを続けている。

ドメーヌ・タリケのこだわり

ランチ会では、ドメーヌ・タリケが世代を超えて大切にしているこだわりについて、アルミン氏が話してくれた。

ぶどう栽培からボトリングまで

ドメーヌ・タリケが所有しているぶどう畑は、1100ha以上にも及ぶ。ぶどう栽培から醸造、ボトリングまで、自社で一貫して手がけるガスコーニュ地方で初のワイナリーだ。1100haもの畑にぶどうの苗を植えるところから、ワインが瓶詰めされるまで、全て自社で管理するというのが彼らのこだわりだ。

また、安定した品質を保証するため、注文を受けてからボトリングしているとのこと。

環境保全

環境保全は、ドメーヌ・タリケが力を入れている取り組みの1つだ。エネルギーの節約、水のリサイクル、天然肥料の使用などの他に、生態系への配慮も大切にしている。

ぶどう畑3haにつき、1haの生態系保護地域(森林、草地、生垣、湖など)を設けており、現在は約400haを維持している。ワイナリー周辺の生物多様性を保つことで、土壌を守れる上、微生物などの力で土に水分をためておくことができる。これにより土壌を守り、保水力を高めて灌漑(かんがい)をせずにぶどう栽培ができるのだという。

ワインの味わいにも反映される土壌については、非常に気を使っているとのこと。ほとんど農薬を使っていないワインづくりをしているにもかかわらず、オーガニック認証を取得していないのも土壌のためだ。オーガニック栽培に切り替えたことで、病害対策に有機銅を使うことになる生産者が多い。ドメーヌ・タリケでは、土壌に残った銅が将来のワインづくりに影響を与えることを危惧し、オーガニック認証にこだわらず、土壌に対して良いと思うことを貫いているそうだ。

また、除梗されたぶどうが入ったステンレスタンクに、酸化防止剤として亜硫酸を使用する生産者も多い。これに対してドメーヌ・タリケでは、亜硫酸の代わりに酸化防止が可能な独自開発の専用の配送トラックとドライアイスを使用しているとのこと。ドライアイスの影響は、ワインにフィジーなニュアンスとして感じられる。

アルコール度数を上げ過ぎない

ドメーヌ・タリケが目指しているのは、飲みやすくてフレッシュ、かつフルーティーなスタイルの白ワイン。アルコール度数は、9.5~12.5%に抑えている。

ガスコーニュ地方はぶどうが成熟しやすい地域であり、成熟し過ぎて糖分が高くなるとアルコール度数が高いワインになるか、アルコール度数を抑えることで甘口のワインになってしまう。だからといって糖分を抑えるために早く収穫すると、グリーンな香りが残ってしまうという。ぶどう栽培から手をかけていること、そして健康な土壌のおかげで糖度を上げ過ぎずにぶどうを収穫でき、アルコール度数が低くてフルーティーなアロマのワインができているそうだ。

「魚介に合う!」を漁連が公認

日本では、サッポロビールが2018年4月からドメーヌ・タリケのワインを販売している。2024年には、販売数量が初の1万ケースを超えて前年比111%ととなり、過去最高を記録した。

その味わいは、日本各地の17漁連・漁協が「魚介に合う!」と認定している。他のワインとの大きな違いは、生がきやお寿司などの繊細な味わいに寄り添うフレッシュさとアルコール度数の低さだ。「鮮魚コーナーに置けるワイン」として信頼を寄せられている。

魚介との相性の良さをサカナバルで実感!

今回のランチ会で、ドメーヌ・タリケのワインとのペアリングを楽しんだ場所は、単店舗単位では日本で最もドメーヌ・タリケのワインが選ばれているという、サカナバル恵比寿店だった。ワインメニューは、輸入元であるサッポロの営業担当とお店で決めたとのこと。

ワインは、「タリケ クラシック」「同 ソーヴィニヨン」「同 ロゼ」「同 コーテ」の4本だ。それぞれのワインの詳細については、次回以降の記事で紹介する。

今回は、料理ごとに特定のワインを合わせるのではなく、全てのワインと料理のペアリングを楽しむというコンセプトだったため、テーブルの上はグラスとお皿でいっぱいになった。ワインづくりの話を聞きながらの貴重な体験となった。

▼1品目:カルパッチョ(サーモンと白みそ、こぶ締めの真鯛、ぶりにハーブわさび、ほたての柚子マリネ)

▼2品目:ホタテとザーサイのマリネ

▼3品目:サーモンのカツレツ

▼薫製ぶりのラザニア

▼イチゴとトマトのカプレーゼ

どのワインも、それぞれの料理の味わいに確かに合う懐の深さが感じられた。「タリケ クラシック」は素材の味を楽しむもの、「同 ソーヴィニヨン」はハーブわさびやザーサイなどのエキゾチックな味わいのもの、「同 ロゼ」はラザニアなどの強い味わい、「同 コーテ」は万能的にどれにも合うと感じられた。いずれのワインもバランスの良いきれいな酸味があり、揚げ物や歯応えの良いものと相性が良く、まさしく“食事を楽しむためのワイン”だった。

参加者を最も驚かせたのは、甘酸っぱいガリがどのワインにも合うこと。ぜひ自宅でも、酢漬けのショウガなどをかじりながら、ドメーヌ・タリケのワインを楽しみたいと思えた。

ドメーヌ・タリケのワインは、柔らかさがあってワインを飲み慣れていない人にもとっつきやすい。食事の始まりからデザートまで、料理によってワインを使い分けなくても、普段の食事に寄り添うワインだ。それでいて単体で飲んでもおいしく、ちょっとリフレッシュしたいときにも味わいたい、幅広い楽しみ方ができるワインだと感じられた。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ