カリフォルニアワイン協会(CWI)は、2025年3月4日に東京・丸の内のパレスホテル東京、同月6日に大阪市北区のヒルトン大阪で、「カリフォルニアワインAliveテイスティング 2025」を開催した。
今回のレポートでは、今年のテーマ産地であるカリフォルニア南部のサンタバーバラAVAについてのセミナー「サンタバーバラ・カウンティ〜2000万年の時が織りなすワイン産地〜」の内容を紹介する。
今回のモデレーターを務めたのは、ブリュワー・クリフトンの創設者であり、ジャクソン・ファミリー・ワインズのワインメーカーでもあるグレッグ・ブリュワー氏だ。
サンタバーバラAVAとは
グレッグ氏は、サンタバーバラと日本との共通点のひとつに「海」を挙げた。衣服や食べるものなど、生活のさまざまな点が海の影響を受けているという。
サンタバーバラは海の影響が強いエリアであり、数百万年前に北アメリカプレートと太平洋プレートが衝突した際に形成されたファラロン海溝が海岸のすぐ近くにある。ここから生まれるカリフォルニア海流は冷たいアラスカの水を西海岸に沿って南下させ、暖かい空気と組み合わさることで、涼しい夏と温暖な冬という、ワイン用のぶどうにとって最適な栽培条件を生みだしている。
サンタバーバラは、映画「サイドウェイ」の舞台となった場所だ。“サイドウェイ”というタイトルの理由は山脈の向きにある。カリフォルニアのほかの地域は、山脈が海に向かって平行に連なっているが、サンタバーバラは地殻変動の影響で垂直向き(サイドウェイ)になっている。夕方になると海からの冷たい空気が内陸に向かって流れ込み、ぶどうの果実を冷やしてくれる。
サンタバーバラは、68万5000ha以上の総地域面積、4450ha以上の総栽培面積となっており、海からの影響の受け方などによって7つのAVAに分かれている。
この地域で盛んに栽培されているぶどう品種は、シャルドネ、ピノ・ノワール、シラー、ソーヴィニヨン・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨン。希少な品種なども合わせていくと75種類もの品種が栽培されている土地だ。
サンタ・マリア・バレーAVA
1981年に認定された、カリフォルニアで2番目に古いAVAであるサンタ・マリア・バレー。大変冷涼な土地で、海洋性の土壌となっており、ビエンナシードやカンブリアなど、有名なヴィンヤードがあり、オー・ボン・クリマなどの素晴らしい生産者がいる。主要品種はシャルドネとピノ・ノワールだ。
サンタ・リタ・ヒルズAVA
1990年頃からワインづくりが盛んになり、2001年に認定された。最も海に近いため、とても寒くて強い風が吹く。
ブリュワー・クリフトンもここに位置している。「25年間でだんだんと成長していき、シー・スモーク、メルヴィル、バブコック、サンフォード、ザ・ヒルト、フェス・パーカーなど、みなさまがご存知のようなたくさんの生産者がこの地に根を下ろしました」とグレッグ氏は語る。冷涼で風が強く、ぶどうの生育期間が長いエリアということで有名だという。
ドメーヌ・ド・ラ・コートやLa Bargeに続く道沿いには、チョーク質の丘がある。化石化したプランクトンが多く含まれており、海の影響をいかに受けているかを見て取れる場所だ。主要品種はシャルドネとピノ・ノワール。
バラード・キャニオンAVA
2013年設立の少し内陸にあるAVA。海からの距離が遠いことに加えて、海岸山脈が少しだけ北南に動いていることで、海からの影響が妨げられ、暖かいエリアだ。
海洋性由来の土壌だが、カリフォルニアでも珍しい石灰質土壌がある。さまざまな品種が手掛けられているが、特にシラーやグルナッシュ、ムールヴェードルなどのローヌ系品種が多い。
ハッピー・キャニオン・オブ・サンタバーバラAVA
さらに内陸に行くとあるのが、2009年設立のハッピー・キャニオン・オブ・サンタバーバラAVAだ。最東端に位置しており、海からさらに離れて暖かい。
主要品種は、ソーヴィニヨン・ブラン、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンなどで、「ここはボルドー系品種が大変に成功したところ」とグレッグ氏は強調。代表的なつくり手として、クラウン・ポイントやディアバーグ、スターレーン・ヴィンヤードが挙げられた。
ロス・オリヴォス・ディストリクトAVA
2016年設立のロス・オリヴォス・ディストリクトAVAは、ちょうどサンタバーバラの真ん中に位置している。
主役となる品種はソーヴィニヨン・ブランだが、カベルネ・フランやメルローなどのボルドー系品種のほかにローヌ品種も植えている。グレッグ氏は、「まさにサンタバーバラの真ん中に位置しているということで、サンタ・リタ・ヒルズほど涼しくなく、そしてハッピー・キャニオンほど暖かくありません。そういった美しいシナジーがこの地を成功に導いているわけです」と説明している。
サンタ・イネズ・ヴァレーAVA
サンタ・イネズ・ヴァレーAVAは、サンタ・リタ・ヒルズからハッピー・キャニオンまで包括している大きなアペレーションだ。
1983年に設立され、長年かけてこの地を理解していくなかで4つのサブAVAが誕生した。
アリソス・キャニオンAVA
アリソス・キャニオンAVAは、 2020年に設立された最も新しいアペレーションだ。メンシアやピクプールのような今までサンタバーバラでは手掛けられていなかったさまざまな品種が植えられている。「ここが何に適しているか、どんなふうに発展していくかということも含めて、成長過程にあります」とクリフトン氏は語っていた。
セミナーでテイスティングされたワイン
セミナーで紹介された5本のワインを左から順に紹介する。
フェス・パーカー シャルドネ アシュリーズ サンタ・リタ・ヒルズ 2023
Fess Parker, Chardonnay “Ashley’s”, Sta. Rita Hills 2023
100%樽発酵。フレンチオーク樽(37%新樽)で7カ月熟成
生産者:フェス・パーカー
産地:サンタバーバラ
品種:シャルドネ
アルコール度数:14.2%
参考小売価格:4500円(税別)
ブリュワー・クリフトン ピノ・ノワール サンタ・リタ・ヒルズ 2023
Brewer-Clifton 2023 Sta. Rita Hills Pinot Noir
全房発酵したピノ・ノワールを、完全にニュートラルな樽(平均10~25年使用)で10カ月熟成。
生産者:ブリュワー・クリフトン
産地:サンタ・リタ・ヒルズ
品種:ピノ・ノワール
参考小売価格:1万1000円(税別)
オー・ボン・クリマ ピノ・ノワール ノックス アレキサンダー 2020
Au Bon Climat, Pinot Noir “Knox Alexander”, Santa Maria Valley 2020
30%のみを全房発酵させ、あまり味が強く出ないフランソワ・フレールのフレンチオーク新樽で22カ月熟成。
生産者:オー・ボン・クリマ
産地:サンタ・マリア・ヴァレー
品種:ピノ・ノワール
アルコール度数:13.5%
参考小売価格:オープン価格
LaBarge グルナッシュ サンタ・リタ・ヒルズ2021
LaBarge, Grenache, Sta. Rita Hills 2021
ニュートラルな樽で18カ月熟成。
生産者:LaBarge
産地:サンタ・リタ・ヒルズ
品種:グルナッシュ
アルコール度数:15.4%
参考小売価格:オープン価格
クラウン・ポイント カベルネ・ソーヴィニヨン ハッピー・キャニオン2021
Crown Point, “Cabernet Sauvignon” Happy Canyon 2021
フレンチオークで22カ月熟成(新樽50%)。
生産者:クラウン・ポイント
産地:サンタ・バーバラ(ハッピー・キャニオン)
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン97%、プティ・ヴェルド3%
参考小売価格:オープン価格