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国際協力機構(JICA)は2025年5月26日、東京都のJICA本部(麹町)で、モルドバにおける農業支援をテーマとした報告会を開催。JICAの原昌平理事や、モルドバのルドミラ・カトラブッガ農業・食品産業大臣が登壇し、現地のワイン産業とJICAによる支援の現状について語った。
報告会ではモルドバの魅力を感じてもらうため、モルドバ産ワインの試飲も実施。土着品種から国際品種まで、個性豊かな5種類のワインが提供された。
モルドバから日本へのワイン輸出量は、2023年の20万9406Lから2024年には40万9226Lへと約2倍に急成長した。日本のワイン愛好家にとって、今最も注目すべきワイン生産国の1つだと言えるだろう。
本シリーズでは、モルドバワインの魅力とJICAによる支援の取り組みを紹介していく。第1回となる今回は、ワイン大国モルドバの全体像と、会場で振る舞われた5本のワインを通じてモルドバのワイン文化を探っていく。
ワイン大国モルドバ
モルドバ共和国では、毎年10月に「ワインフェスティバル」が開催される。この祭典は国の祝日にもなっていて、モルドバがいかにワイン文化を大切にしているかを象徴するものだ。
モルドバのワインづくりの歴史は5000年以上にわたり、同国はヨーロッパ最古のワイン産地の一つとされている。現在、国内には200を超えるワイナリーがあり、多様な形でモルドバのワイン文化を支えている。
モルドバでは栽培・醸造・販売などのワイン関連産業に従事している人口が約25万人に上り、人口の1割以上を占める。さらに、人口100人当たりのぶどう栽培面積は4haと、世界1位だ。こうした数字から、ワインが国民の生活に深く根付いていることを見て取ることができるだろう。
国内で栽培されているぶどう品種は30種以上。中でも土着品種「フェテアスカ・ネアグラ(Feteasca Neagra)」は、軽やかで香り高い赤ワインを生み出す品種として知られている。モルドバでは夏になると、白ワインやロゼと共に、冷やした赤ワインを庭先やピクニックに持ち出して、気軽に楽しむ文化があるという。
モルドバワインは2024年に27の国際コンクールに出場し、合計1242個のメダルを獲得。そのうち683個が金メダルで、東ヨーロッパ諸国の中で最多の受賞数となった。その品質の高さが国際的にも証明された格好だ。
JICAの原理事は、「モルドバ料理も日本人の好みに合うので、ぜひペアリングを試して新しい発見をしてほしい」とコメントした。原理事が語ったモルドバワインに対する期待感や、JICAの具体的な支援の内容は、後日掲載の記事であらためてご紹介しよう。

JICA原昌平理事(左)、ルドミラ・カトラブッガ農業・食品産業大臣(右)
カトラブッガ農業・食品産業大臣も、「ワインはわれわれの文化そのものです。本日は、大臣としてだけではなく、モルドバの農家を代表して素晴らしいワインをご紹介できることを光栄に思います。グラスを傾け、モルドバの歴史や文化を感じてください」とコメントしている。
個性豊かなモルドバワイン5本
報告会の会場では、個性豊かなモルドバワイン5本が振る舞われた。ここでは、スパークリングワイン1本、白ワイン2本、赤ワイン2本について、それぞれの特徴と魅力をご紹介する。
ラダチーニ・メティエ・ゼロ・スパークリング・ブリュット・ナチュール
Radacini Metier Zero Sparkling Brut Nature
生産者:ラダチーニ・ワインズ
生産地:シュテファン・ヴォダ
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン100%
参考小売価格:4000円
モルドバ南東部に広がるぶどうの産地、シュテファン・ヴォダ。ニストル川沿いの肥沃な黒土(チェルノゼム)と褐色土壌に恵まれ、栽培されたぶどうから特に高品質な赤ワインが生まれる。
この地で、1998年に創業したのがラダチーニ・ワインズだ。モルドバの栽培醸造チームとイタリアのベテラン醸造家メニーニ氏の協業により、約1000haの広大な自社畑で栽培したぶどうを100%手摘みで収穫し、一番搾りのみをワイン醸造に使用するというこだわりを貫いている。2020年にはモルドバ・ベスト・ワイナリー・オブ・ザ・イヤーにも選出された。
麦わら色で繊細な泡立ちを持つこのスパークリングワインは、カベルネ・ソーヴィニヨン100%という珍しいブラン・ド・ノワール(黒ぶどうの白)だ。数々の国際コンクールで金賞に輝き、その品質は世界で認められている。
澱と共に18カ月間瓶内熟成をしており、グラスからはエレガントな花や洋ナシ、フレッシュなリンゴ、そして澱由来の香ばしいアロマが豊かに広がる。口に含むと、豊かな果実味と引き締まった酸味が絶妙なバランスを保ち、繊細さの中にしっかりとしたコクを感じさせる奥深い味わいが楽しめる。
キリリと冷やして、魚介のマリネや鶏肉のグリルなど、幅広い料理とともに味わいたいワインだ。
アスコニ ソル・ネグル ソーヴィニヨン・ブラン2023
Asconi – Sol Negru Sauvignon Blanc 2023
生産者:アスコニ
生産地:コドゥル
品種:ソーヴィニヨン・ブラン100%
モルドバ中央部に位置する最大のぶどう産地コドゥルに拠点を置くアスコニ。コドゥルは特に白ワインの銘醸地として知られており、首都キシナウに近いこともあってか、ワインツーリズムも盛んだ。アスコニは、モルドバ初のリゾートワイナリーでもある。
モルドバ特有の肥沃な黒土チェルノゼムを意味するソル・ネグル(Sol Negru、黒い土)の名前が付けられたワイン。ソーヴィニョン・ブランらしいグレープフルーツやパッションフルーツのような柑橘系の香りに、清々しいハーブのニュアンスが重なる。
モルドバの肥沃な大地や豊富な日光を感じさせる、凝縮感のある果実味としっかりとしたボリューム感が魅力的なワインだ。
ドメニイレ・ダヴィデスク ヴィオリカ&ピノ・グリージョ2023
Domeniile Davidescu – Viorica & Pinot Grigio 2023
生産者:ドメニイレ・ダヴィデスク
生産地:ヴァルル・ルイ・トラヤン
品種:ヴィオリカ、ピノ・グリージョ
モルドバ南部に位置するヴァルル・ルイ・トラヤンは、温暖な気候と肥沃な土壌に恵まれたぶどう産地。ここに拠点を構える家族経営ワイナリーが、ドメニイレ・ダヴィデスクだ。
モルドバの固有品種であるヴィオリカの芳醇な香りで会場を驚かせていた1本だ。「スミレ」を意味するヴィオリカは、アカシアやトロピカルフルーツ、ハチミツを思わせる香水のような芳香、キリッとした酸を兼ね備えている。ピノ・グリージョとのブレンドにより、しっかりとした骨格とボリューム感が加わり、長い余韻の中にほろ苦さが広がる。
カルパッチョや焼き鳥(塩)、魚介のフリットまで、魚や鶏を使った幅広い料理と相性の良いワインだ。
カステル・ミミ フェテアスカ・ネアグラ2020
Castel Mimi – Feteasca Neagră 2020
生産者:カステル・ミミ
生産地:コドゥル
品種:フェテアスカ・ネアグラ100%
1893年、ベッサラビア最後の知事により設立されたカステル・ミミ。ソ連統治時代にはソ連最大のワイン工場だった。現在はモルドバで最も近代的かつ訪問者の多い高級リゾートワイナリーへと生まれ変わっている。
このワインは、モルドバの土着品種であるフェテアスカ・ネアグラ(黒い乙女)を使用。プルーンやスパイスの豊かな香りに加え、ブラックベリー系やアメリカンチェリーなどの濃厚な果実味が広がる。きめ細やかなタンニンによる丸みあるボディ感で、食欲をそそるような奥行きのあるワインだ。
ローストビーフやジンギスカン、鴨料理など、焼いた肉料理と合わせたくなる1本だ。
ノヴァック ララ・ネアグラ 2021
Novak – Rară Neagră 2021
生産者:ノヴァック
生産地:ヴァルル・ルイ・トラヤン
品種:ララ・ネアグラ100%
参考小売価格:3080円(税込)
2004年設立のノヴァックは、最新技術を駆使し、モルドバの土着品種からこの国の新たなワインのアイデンティティーを追求しているワイナリーだ。
このワインは、今回の試飲会で最も参加者を驚かせた1本だろう。古代から伝わる固有品種ララ・ネアグラは、軽やかで柔らかなタンニン、そしてラズベリーやイチゴのような愛らしいフルーツの香りが魅力だ。
ジューシーな果実味ときれいな酸味の絶妙なバランスは、アルコール度数14.5%という高さを感じさせないほど心地よい。ベリー系やチョコレート、スパイス感などのある複雑な香りがあり、ピノ・ノワールを思わせる繊細さや、メルローのような力強さも垣間見せる表情豊かなワインだ。
濃厚なコクと長い余韻で、和食の煮込み料理にも合わせやすい。カトラブッガ農業・食品産業大臣が「和牛に合うワイン」とお話しされていたが、和食との相性の良さを感じさせる1本だ。