コラム

モルドバワインの魅力と日本への期待 農業・食品産業大臣が語る【JICAモルドバ農業支援報告会レポート】

   

国際協力機構(JICA)は2025年5月26日、東京都千代田区のJICA本部(麹町)で、モルドバにおける農業支援をテーマにした報告会を開催した。JICAの原昌平理事やモルドバのルドミラ・カトラブッガ農業・食品産業大臣らが登壇し、同国のワイン産業とJICAの支援の状況について紹介した。

本稿では、カトラブッガ大臣が語った、モルドバのワイン産地としての魅力、そして日本への期待を紹介する。

ルドミラ・カトラブッガ農業・食品産業大臣

カトラブッガ大臣は2024年11月、現職に就任。政治家であると同時に酪農家でもあり、大臣になる前には酪農家協会の事務局長を務めていた。まさに農業大国モルドバを体現している人物だ。JICAの原理事からも、「モルドバの食の未来を真剣に考えている方」と紹介された。

農業・食品産業大臣が語る、産地の誇りと日本市場への期待

「ワインは、モルドバの名刺代わりになるようなものといっても過言ではありません」と話す、カトラブッガ大臣。彼女が語った、ワイン産地・モルドバについて紹介する。

豊かな風土が育むモルドバワイン

モルドバの気候は、「非常に日照時間が豊富で、四季がある国」だという。緯度はフランスの銘醸地・ボルドーとほぼ同じであり、ワインづくりに適した自然条件を備えている。

また、モルドバの約75%を占めるのは、“チェルノゼム”という腐植土を豊富に含んだ肥沃な黒土だ。豊かな作物をもたらすこの土壌を、カトラブッガ大臣は「モルドバの誇り」と表現している。「ワインはボトルの中にありますが、原料となるぶどうは畑で育つので、土壌は非常に大事です。モルドバの土地は素晴らしいものだと、ワインの味わいを通じて感じていただきたいと思います」とコメントした。

土着品種と国際品種の“共演”

モルドバでは、30種類以上の品種が栽培されている。本来、ワイン用ぶどうは、痩せた土地の方が高品質になるとされており、チェルノゼムのような肥沃な土壌は最良の条件とはいえない。しかし、モルドバにはこの土壌に適応した数多くの土着品種が存在し、それがモルドバワインならではの魅力となっている。政府としても、こうした土着品種を活用したワインづくりを積極的に推進していく考えだという。

一方で、シャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨンのような国際品種の栽培にも取り組んでおり、長年の研究と工夫により高品質なワインがつくられている。土着品種と国際品種をブレンドしたワインもあり、モルドバワインでしか楽しめない組み合わせもたくさんある。

生活に根差したワイン文化

モルドバでは、「畑で野菜や果物をつくり、家庭ではワインをつくる人が本当の働き者だ」といわれているという。ワインは単なる商品ではなく、家でつくったワインが家庭の食卓に自然と並ぶ、生活に根差した存在だ。

ワイナリーが醸造する洗練されたワインと同様に、各家庭でつくられる自家製ワインもまた、モルドバのワイン文化を支えている。

持続可能性と多様なトレンド

モルドバは、日照に恵まれ、ぶどうの生育期間は雨が少なく乾燥しているため病害も少なく、オーガニックワインの生産に適した条件が揃っている。もともと自然な栽培方法を取り入れている農家も多く存在していたが、最近では発信力をつけるためにオーガニック認証の取得に取り組む生産者も増えている。

世界的なトレンドであるロゼワインやスパークリングワインの需要も高まっており、ノンアルコールワインへの挑戦も始まっている。カトラブッガ大臣は「素晴らしいモルドバワインをつくるように、農家の皆さんも頑張っているところです」と話した。

日本市場への期待とモルドバの思い

モルドバで生産されるワインのうち、輸出されるのは約1割にとどまる。かつてはロシアへの輸出が多かったが、現在は縮小。輸出先を多様化する必要に迫られたが、品質の高さもあり、日本をはじめとした他国への輸出が拡大している。

大臣は日本市場に対する期待を語るとともに、「ただワインを売りたいとは考えていません。土着品種ならではの個性を持つモルドバワインの魅力、そのアイデンティティや文化そのものを伝えたいと考えています」と述べた。

今回が初来日となったカトラブッガ大臣は、日本食とモルドバワインの相性の良さも実感したという。魚料理には「ヴィオリカ」や「フロリチーカ」といった土着品種の白ワインが、和牛には「ララ・ネアグラ」という土着品種の赤ワインがおすすめとのこと。

さらに、「太陽豊かなモルドバで心を込めてつくられたワインは、国際品種とは一線を画す独自の個性を持っています。グラスを傾けることで、モルドバの歴史や風土、そして人々の情熱を感じていただければ幸いです。日本の皆さんにモルドバワインを味わっていただき、その魅力をさらに広めていくことを願っています」と締めくくった。

次回は、モルドバのワイン産業の活性化につながる、JICAによる農業支援の具体的な取り組みについて紹介する。

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