作家の山口瞳が著書『礼儀作法入門』において、西洋料理のコースを間違いない作法で最初から最後まで食べることができるか、それこそが大人のマナーであるという趣旨のことを書いており、なるほどと思わされたことがある。
「間違いない作法」にはナイフ・フォークの使い方はもちろん、ワインなどの飲み方の作法も含まれてくる。
「お酒を飲むときに、かたいことはあまり考えなくていいだろう」と思う人もいるかもしれない。でも、同席の知人や周りのテーブルの人に「見苦しい」と感じさせることは避けたいものだ。
そこでレストランやビストロでワインを嗜むときに、「これは守りたい」という最低限のルールをご紹介したい。
テイスティング
注文したワインを抜栓し、「テイスティング」を求められたら誰しも緊張してしまうだろう。テイスティングは大抵、ワインを選んだ人やホスト役に依頼される。
ご存知の方も多いと思うが、テイスティングはワインの味の良し悪しを判断するものではなく、状態の良し悪しを確認するためのものだ。
市場に出回るワインの中には、「ブショネ」と呼ばれる問題が発生しているものがある。コルク栓などがバクテリア汚染された結果、ワイン自身をも劣化させてしまった状態のことだ。カビ臭く、心地の悪い味わいとなる。
全流通量の5%前後はブショネワインと言われている。ワインが好きでよく飲む人なら1年に1~2本はブショネワインに出会うかもしれない。ブショネ以外にも、日差しや温度によって劣化する恐れもある。
テイスティングを求められたら、注がれたワインの匂いをかぎ、口に含み、カビ臭くなくおいしければ、にこやかに堂々と「大丈夫です」と返そう。少しでもカビっぽい印象や異常があれば、店員さんに確認してもらおう。
乾杯
みんなでグラスを持って「乾杯!」とグラスを合わせたいところだが、本来、レストランではあまり音を立てない方がよい。グラスの足を持って、少々持ち上げる程度がスマートだ。
どうしてもグラスを合わせたいときは、やはりグラスの足を持ってグラスの膨らんだところを軽く当てる程度にしよう。ちなみにグラスの膨らみ部分を手の平で持つのは、体温でワインが温まってしまうのでお勧めしない。
継ぎ足し
もっと飲みたいけれどグラスが空になってしまった。そんなとき、自分で継ぎ足してもいいものかと迷うところだろう。
判断基準のひとつになるのは、テーブルにボトルがあるか否かだ。スタッフが継ぎ足ししてくれるお店は、テーブルにボトルを置かないところが多い。
テーブルにボトルがなくてもスタッフがなかなか来てくれないような場合には、テーブルにボトルを置いてもらうようにお願いしてもいい。
テーブルにボトルが置いてある場合は、自分で継ぎ足ししても問題はない。だが、基本的にテーブルの他のグラスを継ぎ足してから、スマートに自分のグラスにも注ぎたい。
他のお酒もそうだが、ワインは1本をみんなでシェアして楽しむお酒だ。自分のグラスだけを満たすのは、みっともなく映るのだ。
また、注ぎ足す量については、ワイングラスの膨らみより少々上くらいでストップしておこう。良いワインなら良いワインほど、グラスから立ち上る香りが重要だからだ。
フィニッシュ
濃い赤ワインの場合、瓶底に澱(オリ)が溜まっていることが多い。デキャンタージュしてくれるお店ならいいが、そうでない場合は注意が必要だ。良かれと思って接待相手に最後の一滴を注ぎきったが、グラスは澱だらけということになりかねない。
澱は飲んでいて害のあるものではないが、口の中がザラザラして気持ちの良いものではない。心配な場合は、お店の方にサーブを依頼しよう。
いかがだっただろうか。お値段の張ったレストランでも、守るべきマナーはそんなにたくさんあるわけではない。マナーを知っていることで、肩の力を抜いて食事ができるようになれば、料理やワインのおいしさも増すというもの。ワインについて、分からないことはスタッフに聞けばいい。自信を持って、胸を張っておいしいレストランに出掛けよう。