世界中で楽しまれているワイン。日本でもボジョレー・ヌーヴォーが解禁される11月第3木曜日やクリスマス、バレンタインデーなど、イベントでワインを楽しむ機会が非常に増えてきている。
世界最古の酒の1つと言われるワインは、歴史上、文明や宗教と相互に影響しつつ、世界中に広がってきた。ワインの起源はどうなっていて、世界中へどう広がってきたのだろうか。その歴史を紐解いていこう。
ワインは人類誕生以前から存在していた!?
ワインを最初につくった地域を特定するのは、なかなか難しいようだ。
それというのも、ワインという飲み物は、人類が誕生する以前から存在していた可能性がある。自然に出来上がったものを人類が偶然発見し、飲むようになったとも言われている。
ぶどうの原種は300万年前ごろから、そして糖分を分解してアルコールを発生させる酵母は数億年前から地球上に存在していた。現在の人類の祖先となるホモ・サピエンスが誕生したのは20万年前なので、ぶどうも酵母も人類よりずっと古くから存在することになる。
従って、人類が誕生する以前から、ぶどうの実が落ちて潰れ、それを酵母が発酵させて、自然にワインが完成していた可能性もあるという。
その自然にできたワインを、人類が偶然発見したのがワインの起源だという見方もある。
ワインを初めてつくった地域は?
特定するのが難しいものの、最初に人類の手でワインがつくられた最有力地域は、コーカサス山脈一帯ではないかとされている。グルジア、アルメニア、アゼルバイジャンが同地域に含まれ、ワイン発祥の地ではないかと言われている。
つい先日、2017年11月13日にはアメリカ科学アカデミーの機関誌で、ジョージアの首都・トビリシ近郊で見つかった8000年ほど前の土器のかけらに、ワインをつくるためぶどうを発酵させた痕跡があったことが明らかにされた。さらにアルメニアでは、およそ6000年前のワイン醸造跡が発掘されている。
コーカサス山脈一帯は、メソポタミア文明が栄えた地域に近い。また、メソポタミア文明の遺跡からは、ぶどう果汁をしぼるのに使ったとされる紀元前4000年ごろの石臼が発見されている。
さらにメソポタミアの文学作品「ギルガメッシュ叙事詩」の中で、紀元前5000~4000年ごろの出来事を記した文章にもワインが登場する。メソポタミア文明でもワインが醸造されていたのではないかと考えられている。
近年になり、これまでの考古学的な手法ではなく、DNA解析などの科学的な手法を用いて、ワイン発祥の地を解き明かそうとする学者も現れた。
その結果、現トルコのアナトリア南東部で、ワインづくりは始まったのではないかという説も唱えられるようになっている。
現在のワイン大国と言われるフランスやイタリア、ドイツからは離れた中近東周辺で、人類とワインの歴史はスタートを切ったという説が主流だ。
ただし最近になって、紀元前3000年ごろには既に、イタリア・シチリア島においてワインをつくっていた形跡を発見したと米サウスフロリダ大学が明らかにしている。
文明や宗教とともに普及したワイン
コーカサス山脈一帯でつくられ始めたワインは、エジプトなど、古代オリエントに普及した。その後、現在のレバノンを拠点としていたフェニキア人により、古代ギリシャや南フランスへと伝えられた。
紀元前2000年ごろに伝えられたギリシャでは、神酒バッカスの神話が存在することからも分かるように、ワインは神と結び付き、神から与えられた神聖な飲み物とされた。ワインの醸造も盛んに行われ、地中海全域におけるワインの普及に多大な貢献をした。
一方、紀元前600年ごろに南フランスのマルセイユ地方に伝えられたワインは、ローマ帝国の勢力拡大とともに、ローマ人によってヨーロッパ全土へと普及した。
また、ワインはキリスト教とも結び付き、ワインは「キリストの血」とされた。その結果、キリスト教の布教とともにワインも各地に広まり、教会や修道院で良質のワインがつくられるようになった。
その後、16世紀の大航海時代、17~18世紀の植民地時代を経て、ワインは世界中へ普及した。
文明や宗教に取り込まれ、その勢力の拡大とともに広まったワイン。ワインには、人を引き付け、取り込みたいと思わせる魅力があるのだろうか。