スポーツ界をはじめ、海外に拠点を置いて活躍する日本人が多くなった。ワイン界でも、海外に拠点を持ち、世界のワイン愛好家たちをうならせるワインをつくる日本人がいる。
世界で活躍する日本人のワインのつくり手を紹介する本シリーズ。今回は、ニュージーランドの有名なワイナリーを救った小山竜宇(たかひろ)氏にスポットライトを当てたいと思う。
ものづくりに携わりたい
小山竜宇氏は1970年に神奈川県横浜に生まれた。中学卒業まで、父親の仕事の関係から台湾で生活していた。
大学はアメリカ・シアトルにある学校へ進み、大学卒業後は日本のイベント会社に就職。しかし、「ものづくりに携わりたい」という強い気持ちから退職し、ワイン醸造家への道を歩み始めた。
そして小山竜宇氏は、ニュージーランドへ渡る。2003年からリンカーン大学でぶどう栽培学とワイン醸造学を学びつつ、2004年からは有名なプレミアムワイナリー「マウントフォード・エステート」に就職。アシスタント・ワインメーカーとしてワインづくりに携わりながら、イタリアのトスカーナ地方やドイツでも修業を積んだ。
2009年には自身のワイナリー「コヤマ・ワインズ」を設立した。コヤマ・ワインズは、ニュージーランド南島のクライストチャーチに近いワイン産地、カンタベリー地区のワイパラ・ヴァレーにある。
ワイパラは、ワイン新興国と言われるニュージーランドの中でも、新しいワイン生産地だ。ぶどうの樹齢が若いものの、品質の高いワインを産出するポテンシャルの高い産地として注目されている。
育ててくれたワイナリーの救世主となる
そして小山氏は2017年、大きな決断をした。自身を育ててくれた「マウントフォード・エステート」を取得し、オーナーとなったのだ。
ニュージーランドで最も歴史の浅いワイン産地であるワイパラ。その名を世界に広めたのは、「マウントフォード・エステート」だと言ってもいいだろう。
マウントフォード・エステートは、冷涼な気候と石灰質の土壌で育てた高品質なピノ・ノワールとシャルドネで、素晴らしいワインを産出していた。そのエレガントな味わいに魅了された人は多く、イギリスの有名なワインジャーナリスト、ジャンシス・ロビンソン氏が「ニュージーランドワインのベスト8」に選出するほどだった。
しかし、オーナーが変わると経営難に陥る。自分を醸造家として育ててくれたワイナリーの苦境をなんとかしたいと、小山氏はマウントフォード・エステートのオーナーになることを決心した。その決断は、現地で歓迎されたという。
小山氏のワインづくりと今後の目標
小山氏がつくるリースリングとピノ・ノワールのワインは、高い評価を得ている。
自然なワインづくりを目指している小山氏は、ぶどうの破砕を足で踏んで行ったり、自然酵母を使用したりしている。できるだけワインに手を加えるのを避けて、ピノ・ノワールに至っては清澄もろ過もせずに瓶詰めしているという。
マウントフォード・エステートのオーナーにもなった小山氏は、「マウントフォード・エステートのワインの質を上げること」「マウントフォード・エステートの畑のシャルドネで、コヤマ・ワインズのワインを仕込んでみること」に取り組んでいく考えだ。
さらに、リースリングや、シャルドネとピノ・ノワールをブレンドしたスパークリングワインの醸造にも着手し始めた。
海外で活躍する日本人醸造家の中でも、評価が高いと言われる小山竜宇氏。コヤマ・ワインズのワインラベルには、小山氏の名前「竜宇」をイメージした「竜」が描かれている。
もし「竜」のラベルを見掛けることがあったら、ぜひ1度手に取って、小山氏のワインを味わってみてほしい。