コラム

キンタ・ド・ノヴァル・ナシオナル1931年――わずか2500本、”ナシオナル”にこだわった「幻のポートワイン」[20世紀を代表するワイン]

   

Wine Spectatorが1999年1月に発表した「Wines of the Century(20世紀を代表するワイン)」。20世紀にリリースされた数多くのワインの中から、厳選された12本のワインを1本ずつ紹介していく。

Wine Spectatorに選び抜かれた12本とは、一体どんなワインなのだろうか。第3回となる今回は、キンタ・ド・ノヴァル・ナシオナル1931年を紹介していく。

1980 Quinta do Noval

「キンタ・ド・ノヴァル・ナシオナル1931年」はどんなワイン?

キンタ・ド・ノヴァル・ナシオナルは、ポルトガルのドウロ川上流にあるドウロ地方のワイナリー「キンタ・ド・ノヴァル」がつくるポートワインだ。手摘みでぶどうを収穫し、人の足で粉砕する伝統的な手法を採用している。

Quinta do Noval 2012
キンタ・ド・ノヴァルのぶどう畑は、ドウロ地区で最もぶどう栽培の盛んなピニャンにある。ワインが“ナシオナル”と名付けている理由は、北米系ぶどう樹の根に接ぎ木を“していない”木から摘んだぶどうを使用しているからだ。

1800年代にはワインの根を腐らせるブドウネアブラムシ(フィロキセラ)がヨーロッパ各地で流行した。この害虫への対策は、耐性のある北米系ぶどう樹の根に、ヨーロッパ系のぶどう樹を接木するというものだ。

キンタ・ド・ノヴァル・ナシオナルは、そうした対策をせずに済んだポルトガルの土壌に根付いた“ポルトガルの”ぶどう樹にこだわり、このポートワインを生み出している。

また、5~6歳もしくはそれ以下の若いぶどう樹から摘んだぶどうのみを使っているのも、キンタ・ド・ノヴァル・ナシオナルの特徴だろう。

Quinta do Noval
1931年のポートワインはほとんど流通していない。その数年前、1927年につくられたポートワインは質が良かったにもかかわらず、世界恐慌の影響から売れ残ってしまっていたからだ。

しかしキンタ・ド・ノヴァルは、1931年のぶどうは収穫量こそ少なかったものの、質が良かったために通常のヴィンテージとナシオナルを少量だけつくったのだという。

その結果、1931年ヴィンテージはWines of the Centuryに選ばれた。ポートワインの名門として、「キンタ・ド・ノヴァル」の名前を世界中に知らしめることになったのだ。

「キンタ・ド・ノヴァル・ナシオナル1931年」に対する評価

「今世紀最高のポートワイン」とも言われているキンタ・ド・ノヴァル・ナシオナル1931年。だが、前述の理由から出荷本数が2500本と非常に少ないため、「幻のポートワイン」とも呼ばれている。
Quinta do Noval

英人ワイン評論家のマイケル・ブロードベンド氏は、このワインを「ヴィンテージ・ポートのエベレストだ」と表現している。

ワイン専門サイトのDecanterは2015年8月23日の記事で、ブロードベンド氏によるこんな1982年の発言を紹介している。

オーデコロンやアルマニャック、とても洗練されたリコリスを思い起こさせる素晴らしいハイトーンのブーケに惹かれた。ミディアムスイートではあるものの、非常にフルボディ。濃厚さやほろ苦さ、スパイシーさが後を引くワインだ。

また、Wine Spectatorはキンタ・ド・ノヴァル・ナシオナル1931年の後継ワインとして、キンタ・ド・ノヴァル・ナシオナルの1994年を挙げている。

「キンタ・ド・ノヴァル・ナシオナル1931年」にまつわるエピソード

ごく限られた本数のみしかつくられなかったキンタ・ド・ノヴァル・ナシオナル1931年。生産本数が少ないロマネ・コンティでも、年間6000本程度であることを考えると、いかに少ないかがよく分かるだろう。
Quinta do Noval

ワイナリーのオーナーの1人であったCristiano Van Zeller氏ですら、1度しか味わったことがないそうだ。

2006年にオークションに出品された際には、5000ポンド(約76万円)を超える価格で落札された。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ