2015年から2年連続で日本に最も多く輸入されているチリワイン。今や、チリワインは、日本のワイン市場になくてはならない存在だ。
チリワインの主なつくり手
チリには、どのようなワインのつくり手がいるのだろうか。これまでワインバザールで紹介してきたつくり手をあらためてご紹介しよう。
コノスル
1993年に創設された若いワイナリーだが、コストパフォーマンスに優れたワインを産している。世界各国で高い評価を得ていて、専門誌やコンクールで150以上の賞を受賞している。地球環境保全にも積極的で、有機農法などを早くから導入したり、イギリスのカーボン・ニュートラル社が推進する、二酸化炭素削減を目的としたカーボン・オフセット事業に参加したりしている。コノスルがつくるワインは、手ごろな価格で十分な飲み応えの、コストパフォーマンスが高いヴァラエタルシリーズから、最高品質のぶどうでつくるプレミアムワインまで幅が広い。
[関連記事]イギリスで最も販売されたチリワイン。常に革新を追い求め、ハイコスパワインを生み出すコノスル
コンチャ・イ・トロ
1883年にスペインの名門貴族によって設立されたチリ最大のワイナリー。最高級のチリワインと称される「ドン・メルチョー」をつくりあげ、産するワインの品質の高さを世界に知らしめた。畑を小さな区画に分け、各区画に最も適したぶどうを栽培する「マッピング」システムで栽培した質の高いぶどうと、優れた醸造技術で、高品質のワインを産出している。最高級ワイン「ドン・メルチョー」のほかに、チリを代表するワインとも評される「カッシェロ・デル・ディアブロ」、お手軽価格の「プードゥー」シリーズなどを産する。
[関連記事]高品質のぶどうと優れた醸造技術でチリ最大のワイナリーとなったコンチャ・イ・トロ
モンテス
1988年に4人のワインスペシャリストによって設立されたワイナリー。設立とほぼ同時期に発表したモンテス・アルファ・カベルネ・ソーヴィニヨンは、ヨーロッパのワイン生産国がその品質の高さを認め、輸入したことから「ヨーロッパに逆輸入されたワイン」として有名。それにより、チリワインが世界から注目されるようになったとも評されている。モンテスでは、ぶどう品種の個性を最大限に生かし、果実の味わいを残したワインをつくっている。モンテス・アルファ・カベルネ・ソーヴィニヨンのほか、世界のトップを目指してつくられたモンテス・アルファ・エムは、チリワインのアイコン的存在。
[関連記事]「ヨーロッパに逆輸入されたワイン」を産したモンテス
アルマヴィーヴァ
チリのコンチャ・イ・トロと、ボルドー5大シャトーの1つ「シャトー・ムートン・ロスチャイルド」を所有するバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルドが共同出資で設立したワイナリー。チリの優れたテロワールと、フランス仕込みの徹底した品質管理・醸造技術により、世界最高品質とも評されるワイン「アルマヴィーヴァ」を産している。アルマヴィーヴァの年間生産量は3500ケースと非常に少なく、入手するのが非常に難しいワインとなっている。
[関連記事]「世界1位」に輝いたヴィンテージも! ボルドー5大シャトーとチリ最大手がタッグを組んだ「アルマヴィーヴァ」
バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド・マイポ・チリ
上記のアルマヴィーヴァを設立した、ボルドー最高のワイナリーの一つとして評されるバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルドが、1997年に単独でチリに設立したワイナリー。テロワールとぶどうの個性を引き出し、チリの太陽とフランスの上品さを感じさせるワインを産している。フラッグシップワインとされる「エスクード・ロホ」シリーズや1000円台の「マプ」シリーズなどを産しているが、どれも品質が高いワインとなっている。
[関連記事]ボルドー第1級シャトーの流れをくむバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド・マイポ・チリ
ミゲル・トーレス・チリ
スペインの老舗ワイナリーであるトーレスがチリに設立したワイナリー。トーレスは、最新醸造設備を導入し、チリで近代的なワインづくりを始めた。これにより、チリのワイン産業が飛躍的に向上したため、ミゲル・トーレス・チリの設立は、「チリワインの歴史における重要な3日間」の1つに挙げられている。ミゲル・トーレス・チリでは、ぶどうの生育状況を毎日分析するなどして高品質のぶどうを栽培している。そのぶどうの個性を、トーレスが長年培ってきた醸造・熟成技術で最大限に引き出し、品質の高いワインを産している。特にスパークリングワイン「ミゲル・トーレス・コルディエラ・ブリュット・ピノ・ノワール」は世界各国で多くの賞を受賞し、高い評価を得ている。このほか、チリを代表する高品質なワイン「シングル・ヴィンヤード(単一畑)」シリーズなども産している。
[関連記事]チリのワイン産業に大きな影響を与えたミゲル・トーレス・チリ
チリワインの特徴
チリでは、赤ワインが多くつくられていて、特にカベルネ・ソーヴィニヨンが有名。チリのカベルネ・ソーヴィニヨンを略して「チリカベ」と呼ばれるほど人気があり、多く生産されている。一方、生産量は少ないが、白ワインも高く評価されている。中でもソーヴィニヨン・ブランは、フランスのボルドーとは大きく味わいが異なるチリ独特のソーヴィニヨン・ブランに仕上がっていて、非常に高い評価を得ている。
しかしながら、チリワインの特徴といえば、やはり優れたコストパフォーマンスだろう。フランスやイタリアなどのワインと比べても引けを取らないような品質のものが、非常に安く手に入る。その理由として、チリの気候、ワイナリーの規模が大きいこと、フランスから醸造家が流入したことなどが挙げられる。
チリでは、南緯30~50度のエリアでぶどうが栽培されている。このエリアは、日照時間が長いうえに雨が少なく、乾燥した気候となっている。また、昼夜の寒暖差が大きいなど、非常にぶどう栽培に適している。さらに、太平洋やアンデス山脈に囲まれていて、害虫が侵入しにくい地形であるため、虫害をほとんど受けず、ヨーロッパで猛威を振るった「フィロキセラ」の被害も受けていない。
ぶどう栽培に適した土地に加え、チリのワイナリーが大規模であることも、チリワインのコストパフォーマンスが高い理由の一つだ。巨大な資本を醸造設備などさまざまなことに投入し、品質の高いワインを効率的に安定して生産することが可能になっている。
また、醸造技術もチリワインの質の高さを支えている。19世紀の後半、フランスをはじめヨーロッパではフィロキセラによって甚大な被害を被った。それに伴い職を失った多くのフランス人醸造家がチリに流入したのだ。その結果、優れたフランスの醸造技術が伝えられ、高品質のワインを醸造できるようになった。
このように、チリワインのコストパフォーマンスの高さは、フランスの伝統ある醸造技術と、ぶどう栽培に適した気候、安定した生産量に支えられている。
チリワインの歴史
チリワインには、「チリワインの歴史における重要な3日間」と呼ばれる歴史的に重要な日が3日ある。1つ目が、1548年にぶどうの樹がフランシスコ・カラバンテス氏によってチリにもたらされた日。2つ目が、1851年にフランス原産種のぶどうがシルベストレ・オチャガビア氏によってもたらされた日。そして、3つ目が、1979年にスペインの老舗ワイナリー「トーレス」がチリに進出し、ミゲル・トーレス・チリを設立した日だと言われている。
16世紀、スペイン人が植民地とするためチリにやってきた際、宣教師を伴っていた。キリスト教ではワインをキリストの血としてミサで使用するため、必然的にワインが必要となる。そこで、ワインを醸造するためにぶどうが持ち込まれた。これが1つ目の「1548年にぶどうの樹がフランシスコ・カラバンテス氏によってチリにもたらされた日」にあたる。カラバンテス氏は宣教師で、氏によってぶどうの苗木がチリに持ち込まれたことが、チリワインの歴史の始まりとなった。
1818年にスペインから独立すると、今度はフランスのぶどう品種がチリにもたらされた。これが2つ目の「1851年にフランス原産種のぶどうがシルベストレ・オチャガビア氏によってもたらされた日」にあたる。この時期に持ち込まれた苗木が、現在のチリの主要品種であるカベルネ・ソーヴィニョンや、メルロー、ソーヴィニョン・ブラン、シャルドネなどの祖先となっている。さらにヨーロッパでフィロキセラの被害が広がると、被害で職を失った醸造家や栽培家がフランスからチリに渡り、ぶどうだけでなくフランスの醸造方法も広まった。
20世紀になると、アルコール法の制定や第2次大戦の勃発で、チリのワイン産業は停滞する。しかし、1974年にアルコール法が撤廃されると、大手ワイナリーの株式会社化や、外国資本の参入が起こった。同時期に、ワイン醸造の新しい技術も導入された。これが、3つ目の「1979年にスペインの老舗ワイナリー『トーレス』がチリに進出し、ミゲル・トーレス・チリを設立した日」にあたる。トーレスがチリに進出したことにより、ステンレスの発酵タンクなど最新の醸造設備が導入され、近代的なワインづくりが行われるようになった。
そして現在、低価格で高品質のチリワインは、多くの国で人気を博し、90カ国以上に輸出されている。
2007年に日本はチリとEPA(経済連携協定)を締結した。ワインを輸入する場合、関税がおよそ15%かかるが、この協定により、チリワインに課せられる関税は段階的に軽減され、2019年にはゼロになることが決定している。ますます手軽に楽しめるようになるチリワイン。色々と試してみてはどうだろうか。