ボルドー地方に位置するサン・テミリオン地区は、高級赤ワインの産地として知られている。同地区には、小さなシャトーが非常に多く存在しているため、ワインの種類も豊富。ただ、品質に大きな差があるため、多くの種類の中から品質の良いワインを探すのが難しいとも言われている。
サン・テミリオン地区の主なつくり手
フランス、ボルドー地方のサン・テミリオン地区には、どのようなワインのつくり手がいるのだろうか。これまでワインバザールで紹介してきたつくり手をあらためてご紹介しよう。
シャトー・オーゾンヌ
サン・テミリオン格付けが公式発表された1958年以来、シャトー・シュヴァル・ブランとともに最高位「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA」に格付けされているシャトー。シャトー・シュヴァル・ブランと並びサン・テミリオンのトップシャトーと評されている。
シャトー・オーゾンヌは、「ボルドー9大シャトー」の1つに数えられている。しかしながら、年間生産量はおよそ2万本と非常に少なく、入手が困難なレア・ワインとなっている。また、シャトー・オーゾンヌのワインは長期熟成型で、100年以上の熟成にも耐えるポテンシャルを持っていると言われる。長い熟成を経て良さが引き出されるシャトー・オーゾンヌのワインは、ボルドーワインの中で最も個性的なワインと評される。
シャトー・オーゾンヌは、石灰を含んだ粘土質土壌のコートと呼ばれるエリアに7haのぶどう畑を所有している。そこで栽培されるカベルネ・フランとメルローの平均樹齢はおよそ50年という。品質の高いぶどう果実を使用するために、収穫はぶどうが完熟するまで待ってから行い、「1ha当たり約35hl」という低収量を維持している。シャトー・オーゾンヌは、良いワインをつくるために手間と投資を惜しまず、安定して品質の高いワインを産出している。
シャトー・シュヴァル・ブラン
シャトー・シュヴァル・ブランは、先述した通り、格付けが制定されてからずっと、シャトー・オーゾンヌとともに最高位「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA」に格付けされている。また、シャトー・オーゾンヌ同様、「ボルドー9大シャトー」の1つに数えられ、サン・テミリオン地区においてシャトー・オーゾンヌと双璧をなすと評されている。
シャトー・シュヴァル・ブランは、砂利質のグラーヴと呼ばれるエリアに栽培地を所有している。砂利質の土壌は、カベルネ・フランの栽培に適しているため、同シャトーでは、ほかのボルドー地方で補助品種とされているカベルネ・フランを多く栽培している。ワインのブレンド比率も非常に特徴的で、カベルネ・フランとメルローをほぼ同じ割合で使用している。カベルネ・フランの割合が多いことにより、豊かなコクと力強い味わい、粘性を持つ独特なワインに仕上がっている。
さらに、熟成するほど深みが増すというカベルネ・フランの特徴から、シャトー・シュヴァル・ブランのワインは、20〜30年熟成させるとさらに味わい深くなる。シャトー・シュヴァル・ブランが産するワインは、若いうちから楽しめるものもあり、ボルドー9大シャトーの中で、飲み頃の期間が最も長いと言われている。
シャトー・パヴィ
シャトー・パヴィは、シャトー・アンジェリュスとともに、サン・テミリオンの格付けが制定されて以降、初めて最高位「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA」への昇格を果たしたシャトー。
現オーナーのジェラール・ペレス氏は、1998年にシャトーを購入すると、さまざまな改革を行って品質の向上をはかった。その結果、シャトー・パヴィのワインは、伝統的なスタイルのワインからモダンなワインへとスタイルを変え、2012年にサン・テミリオンの最高格付け「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA」に格上げされた。
シャトー・パヴィは、約32haのぶどう畑を所有し、サン・テミリオン地区において、最大規模のシャトーとなっている。シャトー・パヴィのぶどう畑は、石灰を含んだ粘土質土壌のコートと呼ばれるエリアにあり、最高ランクのぶどう栽培地と言われている。シャトー・パヴィのワインは、最高の畑で栽培した品質の高いぶどうからつくられるため、サン・テミリオン地区を代表するワインの1つに数えられる。パーカーポイントでも4度、100点を取得している。
シャトー・アンジェリュス
シャトー・アンジェリュスは、シャトー・パヴィとともに、サン・テミリオン格付史上初めて、最高位「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA」への昇格を果たした。
1980年代になるまで、シャトー・アンジェリュスのワインは熟成に耐えられず、若飲みしかできないワインだった。しかし、ユベール・ド・ブアール・ド・ラフォレ氏とジャン・ベルナール・クルニエ氏がワインの品質を向上させるため、ボルドーのエノロジストとして著名なミシェル・ロラン氏をコンサルタントとして迎え入れるなど改革に着手。すると、1980年代になってから品質が向上した。1996年にプルミエ・グラン・クリュ・クラッセBに、そして2012年には、念願のプルミエ・グラン・クリュ・クラッセAに昇格した。
シャトー・アンジェリュスは、コートと呼ばれる石灰を含んだ粘土質土壌のエリアに位置するが、多くの1級シャトーと異なり、粘土質の土壌は栽培地の一部にしか含まれていない。残りは砂や砂利が多く含まれる土壌となっているため、粘土質石灰岩の土壌ではメルローを、砂や砂利が多く含まれる土壌ではカベルネ・フランやカベルネ・ソーヴィニヨンを栽培している。
その結果、コートエリアに位置するほかのシャトーと比べて、カベルネ・フランを多く使用している。例年、その比率はメルロー50%、カベルネ・フラン47%、カベルネ・ソーヴィニヨン3%ほどとなっている。そのため、メルローの出来に左右されることなく、安定して品質の高いワインを産することができる。
さらに、霜に対応した剪定方法、収量の抑制、丁寧な選果と醸造によって、シャトー・アンジェリュスは、現代のボルドーワイン系統の代表格と称されるワインを産出している。
サン・テミリオン・ワインの特徴
ボルドー地方の高級赤ワインの産地として知られているサン・テミリオン。中世の古い街並みが残る同地区は、ワイン産地として初めて1999年に世界遺産に登録された。
ボルドー地方にはドルドーニュ川、ガロンヌ川、この2つが合流し大西洋に向かうジロンド川という3つの川が流れている。川の流れる方向を向いてドルドーニュ川~ジロンド川の右側を「右岸」、ガロンヌ川~ジロンド川の左側を「左岸」と呼ぶ。ボルドー地方の赤ワインは、この右岸と左岸で特徴が異なる。右岸は粘土質土壌が多く、メルローが多く栽培されている。一方、左岸は砂利質の土壌が多く、カベルネ・ソーヴィニヨンが多く栽培されている。
サン・テミリオンは右岸に位置するため、メルローを主体とした、果実味が豊かで、タンニンが少なく、口当たりが滑らかな赤ワインを産出している。サン・テミリオンと比べられることが多いメドック地区やグラーヴ地区は、左岸に位置しており、カベルネ・ソーヴィニヨンを主体としたタンニンの豊富な赤ワインを産出している。
さらに、サン・テミリオンは、コートとグラーヴという2つのエリアに分けられる。コートは石灰質土壌の丘で、メルローが多く栽培され、グラーヴは砂利と砂が混ざった土壌で、カベルネ・フランが多く栽培されている。
サン・テミリオン・ワインの歴史
サン・テミリオンの地でぶどうが栽培され始めたのは、2世紀頃。古代ローマ帝国がぶどうを植えたのが始まりとされている。
8世紀になると、僧侶の聖エミリオがサン・テミリオンの地にある洞窟に隠遁し、エミリオに従事していた僧侶たちが、ワインの醸造を行うようになった。サン・テミリオンという名前は、この聖エミリオ (Saint Emilion) にちなんでいる。
13世紀には、ジュラードという自治組織がつくられた。ジュラードは、王から多くの権限を与えられており、ワインの品質を守る重要な役割も担っていた。ジュラードが良質と認めたワインの樽にはジュラードの焼印が押された。一方、質が悪く、サン・テミリオンのワインとして認められないとされたワインは、町の広場で樽ごと焼き捨てられ、そのつくり手は罰せられたという。
サン・テミリオンは、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステラへの巡礼に向かう宿場町として栄えていたため、サン・テミリオンのワインは、巡礼者たちの間で評判となり、優れたワインとして知られるようになった。
その後、ボルドー地方の商業の中心が左岸だったこともあり、左岸を代表するワイン産地の1つであるメドック地区と比べると、サン・テミリオン地区は、商業的に出遅れた。メドック地区の格付け制定が1855年であるのに対し、サン・テミリオン地区の格付けが制定されたのは、およそ100年後の1958年だった。サン・テミリオンの格付けは、ほかの地区と異なり、生産者主導によるもので、おおよそ10年ごとに見直される。