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山梨県甲州市の勝沼エリアは、明治時代からぶどう栽培とワインづくりが盛んな日本のワイン銘醸地だ。このシリーズでは、勝沼エリアのワイナリーを紹介していく。
第3回目は、“勝沼御三家”の1つに数えられる「勝沼醸造」。国内外から高い評価を受ける、創業80年を超える家族経営のワイナリーだ。
世界で競えるワインを生み出す家族経営のワイナリー
家族経営のワイナリーながら、年間生産量は2017年で約42万本。日本固有の甲州種にこだわりを持ち、生産するワインの約7割が甲州種をベースとしたものだ。
スパークリングワインの「アルガブランカ ブリリャンテ」は、G7伊勢志摩サミットの夕食会(2016年5月)や、五輪候補地の視察に訪れた国際オリンピック委員会(IOC)の評価委員らを招いた夕食会(2013年3月)で提供され、国際的なおもてなしの場を彩ってきた。
「甲州は世界に日本を最も感じさせることができるワイン。そして世界市場で海外のワインと競い合える個性を持っている」と、有賀雄二社長は2013年の産経新聞の取材で語っている。
また、甲州種の保全を目的とした農業生産法人の立ち上げなども行っている。
ワイナリーの歴史
個人醸造からワインづくりをスタート
勝沼醸造の歴史は、1937(昭和12)年にまでさかのぼる。初代社長の有賀義隣氏が、製糸業の傍ら、ワインの個人醸造をスタートしたのだ。1941年には、近隣の29人の農家が集まり、勝沼醸造の前身である金山葡萄酒協同醸造組合を設立した。1954年からは、現在の社名である勝沼醸造となった。
甲州ワインを世界へ
1999(平成11)年に、現在の社長である有賀雄二氏が代表取締役に就任。3代目として、世界に目を向けるようになった。
その結果、2003年にはフランス醸造技術者協会主催の国際ワインコンテスト「ヴィナリーインターナショナル」で、「甲州特醸樽醗酵1999」が銀賞を受賞。続く2004年には、同コンテストで、「勝沼甲州樽醗酵2002」が銀賞を受賞した。以降、国内外で数々の賞を受賞している。また2007年には、日本航空(JAL)が日本のワインを紹介する企画の第1弾として、和食と相性の良い「アルガブランカ ピッパ」を採用。国際線ファーストクラスで提供された。
さらに同年、フランス・ボルドーで最も古いワイナリーの1つ「シャトー・パップ・クレマン」と提携し、甲州ワインのEU輸出をスタートさせている。
“最高”を目指したワインづくり
勝沼醸造のワインづくりのテーマは、「たとえ一樽でも最高のものを」。良いワインのために、さまざまな手法を取り入れて良いぶどうを栽培し、醸造にもこだわりを見せている。その一部を以下に紹介する。
ぶどうの収量を減らして糖度を高める
湿気の多い日本では、ぶどうは棚づくりが一般的だが、勝沼醸造ではヨーロッパなどで主流の垣根仕立てを採用。1本の樹に実るぶどうを制限している。また、ぶどうの肩や先端を落として房を小さく仕上げている。ぶどうの収量は減るが、1粒1粒の糖度を高める栽培方法を選択している。
ぶどうに適した土地づくり
日本の土地は栄養が豊富に含まれているが、実はワインの原料となるぶどうは、砂利や石が多く痩せた土地が適している。そこで、ぶどうのポテンシャルを高めるために、石灰などを投入して、ぶどうに適した土地へと改良を行っている。
手間をかけて栽培
雨の時期はぶどうの房ごとに傘をかけるなど、まめに手入れをすることで、ぶどうを病気にさせないように栽培している。
ぶどうを凍らせながら成分を凝縮(氷結濃縮法)
この方法を採用するに当たり、製造コストはかなり高くなったという。しかし、価格以上の価値を追求し、他社に先駆けて氷結濃縮法を導入した。
ゆっくりと時間をかけて搾汁
白ワイン用のぶどう品種は、圧力をかけずに搾汁すると皮や種の渋味・苦味が入らないため、上質な果汁が取り出せると考えられている。しかし勝沼醸造では、皮と実の間にある甲州種のうま味を取り出すため、しっかりと圧力をかけて搾汁している。ゆっくりと丁寧に時間をかけて搾ることで、甲州種ならではの苦みを生かした個性が際立つワインに仕上げている。
勝沼醸造のおすすめワイン
勝沼醸造を代表するのが、食前から食後まで楽しめる「アルガブランカ」シリーズ(全5種類)だ。
アルガブランカ ブリリャンテ
2016年5月に開催されたG7伊勢志摩サミットの夕食会では、スパークリングワインの「アルガブランカ ブリリャンテ」が首相らに提供された。和食に合うスパークリングワインとして、漫画『神の雫』でも取り上げられている。
厳選したぶどうの果汁を使用し、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵で2年以上熟成させてつくられた本格派のスパークリングワインだ。
価格:5000円(税別)
アルガブランカ クラレーザ
澱(おり)との接触時間を長くして、うま味をワインに取り入れるシュールリー醸造法でつくられたワイン。2018年には、「インターナショナルワインチャレンジ(IWC)」で2016年ヴィンテージが銀賞を受賞するなど、数々の受賞歴を誇っている。
みそやしょうゆ、わさびなどとも相性が良く、和食に合わせたい1本だ。
価格:2000円(税別)
アルガブランカ イセハラ
笛吹市御坂町にある単一畑で、契約農家の手によりつくられた甲州種のみを使用し、ステンレスタンクで発酵熟成させた1本。風土の個性が感じられるワインだ。2018年には、インターナショナルワインチャレンジ(IWC)で2016年ヴィンテージが銀賞を受賞するなど、数々の受賞歴を誇っている。2014年のヴィンテージから大幅な値上げに踏み切ったが、人気は根強い。
グラスを手にしてまず感じるのは、ずっと感じていたいような華やかな香り。上品な酸味や絶妙な甘さとのバランスも絶妙なワインだ。
価格:5500円(税別)
アルガブランカ ピッパ
こちらのワインも、2018年のインターナショナルワインチャレンジ(IWC)で、2015年ヴィンテージが銀賞を受賞している。
冷凍して甘みを凝縮させたぶどうを使用し、樽で6カ月醸造した後、2年以上の瓶熟成を経た1本。凝縮感があり、バランスの良い果実味と柔らかな樽香が味わえる。
価格:4000円(税別)
アルガブランカ ドース
補糖していない、自然な甘さのデザートワイン。ぶどうの甘みと酸味を冷凍凝縮してつくられている。ハチミツのような甘さとしっかりした酸が感じられる1本。
価格:3500円(税別、375mlのみ)
ワイナリーを楽しむ
ワイナリーは、築140年の日本家屋を今も使用する。テイスティングカウンターをはじめ、蔵や貯蔵庫、グラスギャラリーなどがあり、ワイナリーツアーも開催している。徒歩10分圏内には、ルミエールワイナリー、イケダワイナリーなどがある。
●勝沼醸造
電話:0553-44-0069
住所:山梨県甲州市勝沼町下岩崎371
営業時間:9:00~16:00
定休日:年末年始
アクセス:JR中央線「勝沼ぶどう郷駅」から車で7分、同線「塩山駅」から車で15分
ワイナリー見学
ワイナリーツアーは、休日に不定期で開催している。母屋でのプチワイン講座から始まり、ぶどう畑の見学とテイスティングを楽しめる2時間のツアーだ。
ワイン講座では甲州ぶどうの栽培や歴史を、テイスティングではワインを楽しむ3つのポイント(色、香り、味わい)や、どんな料理にどんなワインが合うのかといったことも学べるため、ワイン初心者にはうれしい内容だ。
■スタッフコース
参加費:3000円
所要時間:2時間
開始時間:10:30、13:30
予約:要予約
定員:12人(6人に満たない場合は開催されないこともある)
※開催日時はこちらのページで確認・予約できる。
ワイナリーでの試飲システム
母屋の1階にあるテイスティングルームには、試飲用のワインサーバーが2台設置されており、8種類のワインが有料でテイスティング可能だ。スタッフが気軽に話しかけてくれるので、ワインについていろいろな話を聞きながら、テイスティングが楽しめる。
レジで購入したカードをサーバーに差し込み、飲みたいワインと分量(15ml、30ml、50ml)を選ぶシステムになっている。ワインの種類や分量ごとに料金は異なり、1杯当たり100~300円ほど。カード料金は1500円(カード代500円+チャージ代1000円)で、1000円単位で追加のチャージができる(上限は5000円)。カードは次回以降来店した際にも利用できるので、なくさないようにしよう。
訪問した2019年6月には、売店限定商品2種類に加えて、祝村のぶどうを使用したワインと、「アルガブランガ クラレーザ」(白・辛口)の2013~2017年ヴィンテージを試飲できた。売店限定商品は、技術的な試作で醸造したワインを、毎年限定生産しているものだ。
テイスティングは時間制で、空いていれば当日参加することも可能だが、混雑時は予約が優先される。また、テイスティングコースでは、2階のミニギャラリーも自由に見学できる。
■テイスティングコース
参加費:1500円(カード代500円含む)
所要時間:30分
開始時間:10:00、11:00、13:00、14:00、15:00、16:00
予約:要予約
※予約はこちらのページから行える。
レストラン情報
地元の食材を使った料理と、勝沼醸造をはじめとする勝沼エリアの32社のワインを提供しており、勝沼の味覚を存分に満喫できる。
■レストラン「風」
電話:0553-44-3325
営業時間:
(ランチ)平日 11:30~14:30(L.O)
土日祝 1部11:30~13:00、2部13:30~15:00
(ディナー)17:00~20:00(L.O)
定休日:毎週水曜日