コラム

さらなる品質向上につながるか? 日本の固有種「甲州」のゲノム情報を解析

世界に誇る、日本固有のぶどう品種「甲州」。東京農業大学と山梨大学は、甲州種の全ゲノムを解析し、ワイン醸造に用いられるヨーロッパ系ぶどう品種と比較した。

日本固有のぶどう品種「甲州」とは

ワインに使われるぶどう品種の1つに、ヴィティス・ヴィニフェラ(Vitis Vinifera)がある。ヴィティス・ヴィニフェラに含まれるヨーロッパ系ぶどう品種は1万2759品種あり、そのうちの1368品種がワイン製造に使用されている。

他に、北米大陸を原産とするデラウエアやキャンベルアーリーなどのヴィティス・ラブルスカ、日本の山ぶどうであるヴィティス・コワニティなどもワイン醸造に使われているが、ヴィティス・ヴィニフェラが最もワイン醸造に適しているといわれている。

山梨県を原産とする甲州種のDNAには、ヴィティス・ヴィニフェラに、中国の野生種であるヴィティス・ダヴィーディが含まれることが分かっている。そのため、カスピ海付近の品種がシルクロードを通り、中国の野生種と交雑しながら日本に入ってきたと考えられている。

甲州種は白ぶどう品種だが、皮は緑色ではなくピンク色(グリ)がかっている。

かんきつ系の香りや和を感じさせる味わいがあり、アルコール分は控えめ。後味に苦みや渋みがある。製造方法により、異なる味わいが楽しめ、フランスのロワール地方でミュスカデ種に用いられるシュール・リー製法でつくると、うま味のある味わいに仕上がる。

2010年には、日本固有種として初めてOIV(国際ぶどう・ワイン機構)に品種登録された。日本固有種では他に、マスカット・ベーリーAが2013年に品種登録されている。

赤ワインらしさと白ワインらしさを持つ甲州

今回、全ゲノム情報の解析を行ったのは、東京農業大学生物資源ゲノム解析センターの田中啓介助教と浜口悠研究員、山梨大学ワイン科学研究センター果実遺伝子工学研究部門の鈴木俊二教授と榎真一助教による共同研究グループだ。ゲノムの解読には、山梨県果樹試験場で採取した甲州種の葉を使用した。

研究では、約120品種のワイン用ぶどうと遺伝情報を比較。その結果、甲州種はヨーロッパ系品種のいずれのグループにも属さない、ユニークな遺伝的特徴を持つことが示された。

また、赤ワインらしい渋み(ポリフェノール)、白ワインらしいかんきつ系の風味に関連している遺伝子が明らかになった。今回の研究成果が、甲州ワインの味や香りの品質向上につながることが期待されている。

この研究成果は、2020年11月5日に植物科学雑誌『Frontiers in Plant Science』に掲載された。

<関連リンク>
日本固有のワイン用ブドウ品種「甲州」のゲノム解読と特徴付けに成功

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で
About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ