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ボルドーワイン委員会(CIVB)は2020年12月2日、ウェビナー「ボルドーの赤ワイン~正統派だけじゃない、モダンで型にはまらないスタイルも~」を開催した。
ウェビナーでは、3人の若手生産者が、これまでの伝統にとらわれない新しいスタイルのキュヴェをライブテイスティングで披露した。今回は、メドック地区のシャトー・ベルヴュを紹介する。
クリュ・ブルジョワ認定の実力派、シャトー・ベルヴュ
シャトー・ベルヴュは、メドック地区の格付けの1つであるクリュ・ブルジョワで最高クラスのクリュ・ブルジョワ・エクセプショネルに認定されているつくり手だ。ウェビナーには、ゲストスピーカーとして、シャトーのディレクターを務めるヤニック・レーレル氏が登場した。
プチ・ヴェルド100%のユニークなワイン
レーレル氏が紹介してくれたのは、プチ・ヴェルド100%のユニークなワイン「プティ・ヴェルド・バイ・ベルヴュ シャトー・ベルヴュ」だ。
樹齢80年以上のプチ・ヴェルドを使用
19世紀末~20世紀初め頃のボルドーでは、かなりの栽培面積を占めていたとされるプチ・ヴェルド。収量性に優れているが、晩熟型の品種であるため生産者に避けられる一面もあり、時代と共にその存在感は小さくなっていった。
しかし、近年の気候変動や栽培技術の進化により、以前は難しいと判断されたぶどう品種にも再び脚光が当たるようになった。シャトー・ベルヴュがプチ・ヴェルド単体のワインに挑戦した背景には、こうした栽培環境の変化があるという。
シャトー・ベルヴュでは、畑全体の約20%でプチ・ヴェルドを栽培している。レーレル氏によると、これは、現在のボルドーでは異例の高比率だという。また、シャトー・ベルヴュで栽培しているプチ・ヴェルドの多くが80年以上の樹齢を誇る古株だという点も、驚くべき事実だ。同シャトーは、こうした希少な遺伝子の存在を世界に発信するために、プチ・ヴェルド100%のワインに取り組んだという。
「80年の樹齢を誇るぶどうから、どういった味わい、どういった個性を持つワインが出来上がるのか。それを楽しんでほしい」と、レーレル氏はウェビナーの参加者にメッセージを送った。
アンフォラと木樽の併用で、果実本来の個性を引き出す
シャトー・ベルヴュのプチ・ヴェルドは、ジロンド河口に面している粘土質、沖積土壌の区画で栽培されている。栽培は、除草剤を使用せず草生栽培を取り入れるなど、手間のかかる方法を取り、収穫は全て手摘み。蔵に搬入した後は手作業で選果し、ステンレススチールタンクで発酵させる。
その後、温度を4℃まで下げてマセレーション(醸し)を行うが、この作業により、豊かでピュアな果実味が抽出される。マセレーションによって、アロマを十分に抽出した後、およそ12日間アルコール発酵させる。
興味深いのは、発酵後、一部をアンフォラ(粘土製の素焼きの甕)に、一部を400L容量の木樽に詰めて育成・熟成させる工程だ。
レーレル氏によれば、アンフォラでの熟成は、粘土の多孔性を利用してマイクロオキシネーションを柔らかく進め、果実味豊かなワインに仕上げる効果があり、木樽での熟成はワインに甘みと粘性を含ませることができる。アンフォラと木樽を併用することで、プチ・ヴェルド本来の果実の個性を存分に引き出した仕上がりになるという。
和食とも相性が良い、スパイシーな香り
外観は、プチ・ヴェルド特有の暗さのある赤。最初に濃厚な果実の香りが立ち上がり、エアレーション後にはプチ・ヴェルドの特徴であるスパイシーな香りが感じられる。口に含むと、プチ・ヴェルドならではのブラックペッパーのような香りが広がり、味わいはタンニンの存在感がたっぷり。骨格の良さとともにビロード感、滑らかさやしなやかさも感じられる、とレーレル氏。
飲み頃については、若いままでも楽しめるし、熟成させる場合はワインセラーで5年~8年保存して楽しむのもおすすめとのこと。
レーレル氏はペアリングについて、「プチ・ヴェルドの果実感、特に摘み立て果実の香りやスパイスのほのかな風味が、和食にも合わせやすい」と話した。
「樹齢80年のプチ・ヴェルド」「アンフォラと木樽を併用した熟成」など、型にはまらないワインづくりによって生まれた「プティ・ヴェルド・バイ・ベルヴュ シャトー・ベルヴュ」。新世代のボルドーワインを象徴する革新的な1本だ。
プティ・ヴェルド・バイ・ベルヴュ シャトー・ベルヴュ
品種:プチ・ヴェルド
AOC:ボルドー
ヴィンテージ:2018
認定:HVE認証取得
栽培面積:2.05ha
1939、1949、1958年に植樹された古樹
年間生産量:1万5000本
栽培:環境を重視した実践が評価されHVE(環境価値重視認定)を受ける。通気性を良くするための強剪定や、芽かき、副芽の取り除き、除葉といった工夫をしている。また、テロワールを最大限に表現すべく、ぶどう樹の根がより深く地中に入り込むように、草を生やしたり土を全体的に耕したりしている。