コラム

日本ワインが飲みたくなる! 映画化もされた『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』

知識がなくても味わえるけれど、知識が増えれば楽しみの幅がさらに広がるワイン。ワインについての基礎知識だけでなく、どんな人がどんな思いを込めてワインをつくっているのかを知れば、ワインを飲む楽しみがいっそう増すだろう。

今回紹介したいのは、『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』だ。登場人物は、実際に日本ワインをつくり続けているワインメーカーたち。日本ワイン愛好家だけではなく、あまり飲んでこなかったという人も、読めば日本ワインへの愛着や興味が深まる1冊だ。

ワインおたくの学生たちが、愛されるワインを生み出すまでの実話

本作は、海外からワインやぶどう果汁を輸入してワインをつくることが多かった時代に、日本のワイン用ぶどうの栽培から醸造までを一貫して手掛けるワインづくりを目指した「ウスケボーイズ」が、ワインに情熱を傾ける学生から、天候や金銭面で苦労をしながら高い評価を受けるワインメーカーへと進化していく姿を描いたノンフィクションだ。

本書のプロローグには、「父の遺言」という標題が付けられている。父というのは、日本のワインづくりを主導し、「現代日本ワインの父」と称される、醸造家の麻井宇介(あさいうすけ、本名・浅井昭吾)氏のこと。物語は彼に教えを受けた岡本英史氏、城戸亜紀人氏、曽我彰彦氏が、死を目前にした麻井宇介と最後に過ごしたワイン会から始まる。

あらすじは以下の通りだ(版元・小学館の紹介文を引用)。

「入手困難な日本ワインの知られざる誕生秘話」
日本のワイン造りは、世界の常識からかけ離れていた。
ワイン用ぶどうではなく生食用ぶどうを使い、また、海外からワインやぶどう果汁を輸入して造ることも多かった。
そのような状況に異を唱えた人物がいる。
「海外の銘醸地にコンプレックスを感じながら日本でワインを造る時代は終わった。君たちは本気で海外に負けないワインを造りなさい」 
日本のワイン造りを主導した醸造家・麻井宇介の教えを受けた岡本英史、城戸亜紀人、曽我彰彦の3人は、師の遺志を受け継ぎ「ウスケボーイズ」と自らを名乗る。
そして、それぞれが日本では絶対に無理と言われたワイン用ぶどうの栽培から醸造までを一貫して手がけるワイン造りにすべての情熱を傾けるようになる。

日本で“本当のワイン造り”に打ち込んだ青年達の出会いから、ワイン造りを目指し、葛藤しながら成功していくまでの物語。

(引用元:小学館文庫『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』

書籍だけでなく映画も

本作は文庫化されているので、気軽に手に取ることができる。また、2018年に同じタイトルで映画化もされており、DVDや時期によっては動画配信サービスで観ることができる。

シャトー・メルシャンのゼネラル・マネージャー兼チーフ・ワインメーカーである安蔵光弘氏は、「日本ワインが飲みたくなる映画です」と、SNSで映画を紹介している。

本書に登場する日本のワイナリー

本書は、過去の出来事ではなく、現在も活躍中のワインメーカーたちが描かれているので、日本ワインを片手に読みたくなってしまうかもしれない。

以下に、ウスケボーイズのワイナリーや、彼らにゆかりのあるワイナリーをまとめた。

ウスケボーイズのワイナリー

ウスケボーイズである3人のワインは、抽選販売や限られた酒屋、レストランでしか提供されていないなど、入手困難なものが多い。

●岡本英史氏:ボーペイサージュ(BEAU PAYSAGE)/山梨県
岡本氏は、標高の高い津金の地で、ビオデナミを実践しているつくり手。まずは“ぶどうありき”で、ぶどうがなりたいワインになっていく。そのような思いでぶどうに向き合う岡本氏のワインは、2008年に北海道洞爺湖サミットでも提供された。

●城戸亜紀人氏:城戸ワイナリー/長野県
城戸氏は桔梗ヶ原という土地を大切にしながら、「自分が心の底から本当においしいと思うワイン」をつくっている。そのワインは、ワイナリーによる抽選販売や、ごく少数の酒屋での販売しかしていない。

●曽我彰彦氏:小布施ワイナリー/長野県
曽我彰彦氏は、1942年創業の小布施ワイナリーで4代目を務めている。丁寧なワインづくりのため、2013年に「減産宣言」をした。また、ワインが品薄であることを理由に「脱ワインコンクール宣言」もしている。

その他の登場人物ゆかりのワイナリー

●シャトー・メルシャン/山梨・長野
麻井宇介氏が勝沼工場長を務め、世界にも通用する品質の「シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原メルロー」の誕生に貢献した。現在は、安蔵光弘氏がゼネラル・マネージャー兼チーフ・ワインメーカーを務めている。

また、「城の平カベルネ・ソーヴィニヨン」は 、ウスケボーイズが国産ワインの可能性に気づくきっかけとなったワインとして登場する。

●五一わいん/長野
城戸亜紀人氏がワイナリーを立ち上げる前に就職していたワイナリー。ここで手掛けたメルローを麻井氏がほめた。

●フジッコワイナリー/山梨
岡本英史氏が就職していたワイナリー。

●カーブドッチ ワイナリー(CAVE D’OCCI)/新潟
曽我彰彦氏がワインを学んだワイナリー。

●ドメーヌ・タカヒコ/北海道
曽我彰彦氏の弟・曽我貴彦氏が、北海道余市町で立ち上げたワイナリー。

●ソレイユワイン/山梨
ウスケボーイズの後輩である鈴木剛氏が立ち上げたワイナリー。鈴木氏は、その前は山梨の中央葡萄酒(グレイスワイン)で勤務していた。

●丸藤葡萄酒工業(ルバイヤートワイン)/山梨
ウスケボーイズの後輩である水上正子氏が就職し、2005年から再び醸造家として勤務しているワイナリー。水上氏は安蔵光弘氏と結婚し、現在は安蔵正子となっている。

ぜひ日本ワインを片手に、読書または映画鑑賞をしてみてはいかがだろうか。

『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』
著者:河合香織
出版社:小学館
定価:570円(税別)
発行年月:2018年10月

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ