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カリフォルニアワイン協会(CWI)は、カリフォルニアワインについての知識を深めることを目的として、影響力のある若手ソムリエに現地のワイナリーを“バーチャル”で体験してもらう「カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー」を開催した。
ツアーは2020年11月19日・20日と同年12月3日・4日の2回に分けて実施され、ソムリエたちは、コンラッド東京(東京都港区)に設けられた会場から、ワイナリーを訪問した。
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今回はそのバーチャルツアーから、パーカーポイント100点を何度も獲得している、カベルネ・ソーヴィニヨンの名手ハンドレッド・エーカー(Hundred Acre)の内容を紹介する。
ハンドレッド・エーカー
今回のバーチャルツアーでは、営業部長兼副社長であるランドン・パターソン氏がガイドとして登場した。
ハンドレッド・エーカーとは、カリフォルニア州ナパ・バレーで、“完璧さ”にこだわったワインづくりをしているワイナリーだ。
ハンドレッド・エーカーがこだわる完璧なワインとは
ハンドレッド・エーカーが全てのブランド、ヴィンテージでこだわっているのは、完璧なワインだけを瓶詰めするということ。セカンドラベルを生産していないのも、ぶどう収穫前の2020年8月から発生した山火事の影響で2020年ヴィンテージの生産をあきらめたのも、そのためだ。
ハンドレッド・エーカーが考える完璧なワインとは、「ワイン評論家から高いスコアを付けられるワイン」や「高価格のワイン」ではなく、「妥協をせずにすべきことを全て行った上で瓶詰めしたワイン」だ。ぶどうの栽培から醸造に至るまで、100%の努力をつぎ込んだワインのみが瓶詰めされている。
このことから、パターソン氏は「ハンドレッド・エーカーは単なるワイナリー名ではなく、アイデアでありコンセプトを示す言葉だ」と説明している。
オーナー兼ワインメーカーのジェイソン・ウッドブリッジ氏
ハンドレッド・エーカーのオーナー兼ワインメーカーであるカナダ出身のジェイソン・ウッドブリッジ氏は、カナダ軍の特殊部隊に所属していたこともあるという。投資銀行業務に携わり富を得たものの、30代半ばに「これは自分が生きるべき道ではない」と感じて、ワインをつくるためにナパ・バレーに移住した。その時には既に、20ドルや50ドルのワインをつくるのではなく、「ナパ・バレーの歴史上で、最高のワインをつくる」と考えていたそうだ。
カリフォルニアでワインについて語るときに重視されるのが、ワインメーカーだ。スターのような存在のワインメーカーもいるが、ウッドブリッジ氏のように、ヴィンヤードのぶどうを他のワイナリーに売ることも、ワインづくりのコンサルタント業をすることもなく、ナパ・バレーでワインづくりに専念しているオーナー兼ワインメーカーは珍しいようだ。
ワインづくりを学校で学んだわけではなく、独学で身に付けたこともユニークな点だ。実験的な挑戦をいくつも行い、大きなリスクを冒し、失敗を繰り返しながら新しい方法を探るのが、ウッドブリッジ氏のスタイルだ。瓶詰めされた完璧なワインの背後には、無駄になったワインも数多く存在しているという。
ワインボトルに隠された意味
バーチャルツアーでは、ワイナリー名やワインボトルに隠された意味が説明された。
ワイナリーの名称であるハンドレッド・エーカーは、児童小説『クマのプーさん』でプーさんや仲間たちが住んでいるとされる「100エーカーの森」が由来とのこと。
ラベルに描かれている5つの星は、彼とパートナーの5人の子どもたちを表しており、瓶口に描かれた結婚指輪のような金のリングは、顧客へのコミットメントを示している。
ハンドレッド・エーカーの3つのヴィンヤード
ハンドレッド・エーカーは、カリフォルニア州ナパ・バレーに3つの自社畑を持っている。それぞれの特徴を見ていこう。
ケイリー・モーガン・ヴィンヤード
ケイリー・モーガン・ヴィンヤードは、セント・ヘレナの北東にあり、ハウエル・マウンテンの麓に位置している。
ハンドレッド・エーカーが購入する以前は、平均的な品質のソーヴィニヨン・ブランが植えられていたという。当時のナパ・バレーでは、一般的に水はけが良くなかったり、斜面がなかったり、日当たりが良くなかったりという理由で、カベルネ・ソーヴィニヨンにはベストな畑ではないとされた場所で、ソーヴィニヨン・ブランが育てられていた。
土壌も水を含みやすく、冷たい粘土質で、カベルネ・ソーヴィニヨンには適さない。しかし、ウッドブリッジ氏はこの土地を調べていくうちに、その土壌が単なる粘土質ではなく、スメクタイトという種類の粘土質土壌だと気づく。赤みがかった若い粘土質の土壌とは異なり、スメクタイトは黒みがかった古い粘土質の土壌だ。フランスのポムロール地区にあるペトリュスの土壌も青みがかったスメクタイトだ。古くなればなるほど、若い土壌にはないミネラルを含むようになり、保水力もなくなって砂利のように水はけが良くなる。さらに、大量の火山ガラスや火砕物質が含まれていることも分かった。
ナパ・バレーでは、このような土壌でカベルネ・ソーヴィニヨンを栽培しているところはない。「他とは違う土壌を探し、他の人とは違う表現ができるワインをつくらなくてはいけない」と考えていたウッドブリッジ氏は、2000年8月にこのヴィンヤードを購入した。
パターソン氏は「このケイリー・モーガン・ヴィンヤードこそ、他の人たちとは違う挑戦をしようとしている好例だ」と語っている。
アーク・ヴィンヤード
アーク・ヴィンヤードは、セント・ヘレナ郊外に位置する半円形のヴィンヤードだ。地層によって9つの区画に分かれているが、それぞれに斜面の高いところと低いところがあり、日当たりが異なるので、実際には18の異なる条件の区画に分かれているともいえる。
それぞれの区画ごとに熟成度を見ながら3~5回に分けて収穫を行い、それぞれの区画、収穫日によって小容量のロットに分けられた状態で発酵や熟成が行われる。これは全てのヴィンヤードで行われている作業だが、アーク・ヴィンヤードは土壌が複雑なため、11エーカー(約4ha)ほどのヴィンヤードで収穫されたぶどうが最大80ロットほどに分かれるという。
メルローやカベルネ・フラン、プティ・シラーなどとブレンドされることが多いカベルネ・ソーヴィニヨンだが、収穫したぶどうを細かく分けて味わいの広がりをつくり出すことで他の品種を混ぜる必要がなくなり、カベルネ・ソーヴィニヨン100%を実現させている。
2000年にこの手法を始めた頃には、このような方法でワインをつくっているワイナリーはなかったが、今では多くのワイナリーがこのやり方を取り入れている。
フュー・アンド・ファー・ビトウィーン・ヴィンヤード
フュー・アンド・ファー・ビトウィーン・ヴィンヤードは、ナパ・バレーの最北端に位置するカリストガにあり、9割の区画でカベルネ・ソーヴィニヨンを、残りの1割の区画でカベルネ・フランを栽培している。購入は2008年。最も新しく最も小さい、4.8エーカー(約2ha)ほどのヴィンヤードだ。
土壌は火山性土壌で砂利が多い。日中には太陽の日差しが降り注ぎ、夕方になるとチョーク・ヒル・ギャップから冷たい風が流れ込んで寒暖差をつくり出す。
五大シャトーの1つである、シャトー・ラトゥールのオーナーが所有するアイズリー・ヴィンヤードを見下ろす好立地だ。購入時の価格は1エーカー当たり169万ドルで、ナパ・バレー史上、最高額となった。ウッドブリッジ氏は、それほどのお金をかけた理由について、「グラン・クリュやDRCのロマネ・コンティ畑に価格を付けられるだろうか。そういう畑には価値があり、値段の付けようがないほど貴重なのだ」と説明したという。
ハンドレッド・エーカーを味わう4つのワイン
バーチャルツアー中に紹介された4つのワインを、パターソン氏によるテイスティング・コメントとともに紹介する。
ハンドレッド・エーカー ケイリー・モーガン・ヴィンヤード 2017
干ばつ最後の年となった2017年ヴィンテージ。火事を思い出させる年だが、その前に全ての収穫を終えていたという。オールドワールドのワイン愛好家にカリフォルニアワインを知ってもらうのに良いヴィンテージとのこと。
【テイスティング・コメント】
ハンドレッド・エーカーのラインアップの中で、比較的エレガントなワイン。非常にアロマティックで、ライラックなど紫の花の香りが豊か。黒鉛や鉛筆の芯のような香りもある。
HUNDRED ACRE KAYLI MORGAN 2017
アルコール度数:15.5%
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン100%
参考小売価格:10万7800円 (税込)
ハンドレッド・エーカー アーク・ヴィンヤード 2017
クラシックなカリフォルニアの重いワインが好きな人におすすめしたいワイン。山のカベルネ・ソーヴィニヨンを感じる1本だ。
【テイスティング・ノート】
アロマティックだが、味わいはよりポップで深い。ストラクチャーや酸がしっかりしていて、パワーが楽しめる。
HUNDRED ACRE ARK VINEYARD 2017
アルコール度数:15.5%
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン100%
参考小売価格:10万7800円(税込)
ハンドレッド・エーカー フュー・アンド・ファー・ビトウィーン 2014
ハンドレッド・エーカーで、100%カベルネ・ソーヴィニヨンではない唯一のワイン。カベルネ・フランがアロマを加えている。残念ながら、2014年ヴィンテージは日本では販売されていない。2016年ヴィンテージが2021年5月にリリース予定で、価格は11万5500円(税込)。
HUNDRED ACRE ARK FEW AND FAR BETWEEN 2014
アルコール度数:15.5%
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン92%、カベルネ・フラン8%
ハンドレッド・エーカー レイス 2013
3つのヴィンヤードのワインをブレンドした1本。ブルゴーニュで異なるAOCのワインを混ぜると、元は数千ドルのワインが200ドルのワインになってしまうが、ウッドブリッジ氏はそれをおかしいと思っていた。
単一畑とは異なる表現をするために、それぞれのヴィンヤードの最高の樽をブレンドしている。単一畑のワインの熟成期間は28~32カ月だが、レイスはそれよりも1年ほど長い40~44カ月も熟成させている。
このワインの2013年~2015年ヴィンテージは、いずれも『ワイン・アドヴォケイト(Wine Advocate)』誌でパーカーポイント100点を記録している。なお、2013年ヴィンテージは記事執筆時点で完売状態だが、2016年ヴィンテージが2021年5月にリリース予定。価格は10万5000円(税別)。
【テイスティング・ノート】
2013年は良いヴィンテージだ。素晴らしいことが起こっていると感じられる。デカントをして空気に触れさせて、アロマティックさと果実味を引き出すのが良い。
HUNDRED ACRE WRAITH 2013
アルコール度数:15.5%
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン100%
参考小売価格:11万5500円(税込)
挑戦を恐れず、高品質を追求するハンドレッド・エーカーのワイン。オーナー兼ワインメーカーのジェイソン・ウッドブリッジ氏が1本1本に込めたこだわりとストーリーを味わってみてはいかがだろうか。