カリフォルニアワイン協会(CWI)は、カリフォルニアワインについての知識を深めることを目的として、影響力のある若手ソムリエに現地のワイナリーを“バーチャル”で体験してもらう「カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー」を開催した。
ツアーは2020年11月19日・20日と同年12月3日・4日の2回に分けて実施され、ソムリエたちは、コンラッド東京(東京都港区)に設けられた会場から、ワイナリーを訪問した。
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今回はそのバーチャルツアーから、サンタ・バーバラのディアバーグ&スターレーン・ヴィンヤード(Dierberg & Star Lane Vineyard)の内容を紹介する。
ディアバーグ&スターレーン・ヴィンヤード
ディアバーグ&スターレーン・ヴィンヤードは、ディアバーグ夫妻が250年続くワイナリーを目指して、1996年に設立した。サンタ・バーバラの可能性に着目し、個性の異なる3つのヴィンヤードからワインを生み出している。
今回のバーチャルツアーでは、醸造家のタイラー・トーマス氏とインターナショナルセールスマネージャーのジャミン・ディアバーグ氏がガイドとして登場した。
10世代以上続くワイナリーに
ワイナリーを「最低でも10世代続くプロジェクト」と考えているディアバーグ夫妻は、何世代にもわたって土地を受け継ぐには、ワインの質だけではなく、土地の健康も向上させることが必要だと考え、サステナブルにも力を入れている。
醸造家であるトーマス氏は、2013年にワイナリーの一員となることを決める際に、この考えを重視したという。
全て自社畑であり、「ヴィンヤードのためのワイナリー」という視点で、自らの手でヴィンヤードを管理。二酸化炭素の排出量を計算し、フクロウやヒツジ、ハチといった生き物の力を借りて、ヴィンヤードの健康を守っている。
ワイナリーには重力を利用した醸造施設があり、グラヴィティ・フローを導入している。グラヴィティ・フローは、ポンプを使用せずに重力でぶどうやワインを移動させるため、ストレスが少なく優しいワインづくりができる。
ディアバーグ&スターレーン・ヴィンヤードの産地
ディアバーグ&スターレーン・ヴィンヤードは、サンタ・マリア・バレーのディアバーグ・ヴィンヤード、サンタ・リタ・ヒルズのドラム・キャニオン・ヴィンヤード、ハッピー・キャニオン・オブ・サンタ・バーバラのスターレーン・ヴィンヤードの3つのヴィンヤードを管理しており、いずれもサンタ・バーバラにある。
多様性のあるサンタ・バーバラ
まずは、サンタ・バーバラの位置を確認してみよう。ナパ・バレーやソノマなど、カリフォルニアワインの産地はサンフランシスコ周辺にあるイメージが強いが、サンタ・バーバラはロサンゼルスの方が近い。
この地図からも分かるように、カリフォルニアは大きな州であり、ワイン産地も数多い。風景や気候、人々、ワインなどの多様性に満ちた州だ。
ロサンゼルス空港からは、パシフィック・コースト・ハイウェイに乗り、サンタモニカやマリブを通ってサンタ・バーバラに向かう。
山やヤシの木があり、スペイン風の住宅が並んでいるサンタ・バーバラは、マリンスポーツが盛んなエリアだ。
多くのセレブリティがバケーションで訪れる場所でもある。2020年には、英王室を離脱したヘンリー王子とメーガン妃が、サンタ・バーバラで新生活をスタートさせたと報じられた。内陸のハッピー・キャニオンには、マイケル・ジャクソンの所有地として有名だったネバーランドがある。
サンタ・バーバラのAVA
サンタ・バーバラは、ナパ・バレーやソノマより南に位置しているが、気候は冷涼だ。その理由は、この画像を見ると分かりやすい。
サンタ・バーバラの海はとても冷たい海流で、エアコンのように気候をコントロールしている。ぶどうの生育期には、内陸地の気温が上がると、海からの冷たい空気が画像の矢印のように内陸に引き寄せられて、空気が冷やされる。
海に近いほどその影響を強く受ける。サンタ・マリア・バレーにあるディアバーグ・ヴィンヤードやサンタ・リタ・ヒルズにあるドラム・キャニオン・ヴィンヤードは、海から22kmほどの距離。内陸のハッピー・キャニオン・オブ・サンタ・バーバラにあるスターレーン・ヴィンヤードは、海から40kmほど離れている。
サンタ・バーバラのAVA(アメリカ政府承認ぶどう栽培地域)は、次のように分布している。
最初に認定されたAVAは、1981年のサンタ・マリア・バレーだ。その後、1983年にサンタ・イネズ・バレー、2001年にそのサブAVAとしてサンタ・リタ・ヒルズ、2009年にハッピー・キャニオン・オブ・サンタ・バーバラ、2013年にバラード・キャニオンと認定が続いていった。
1970年代にはカベルネ・ソーヴィニヨンが育てられていたサンタ・リタ・ヒルズだが、現在ではピノ・ノワールやシャルドネの銘醸地として知られている。2016年にサンタ・イネズ・バレーのサブAVAとして認定されたロス・オリボス・ディストリクトでは、ソーヴィニヨン・ブランやイタリア品種、ハッピー・キャニオン・オブ・サンタ・バーバラではボルドー品種が栽培されており、サンタ・バーバラは多様性のある地域だ。
ドラム・キャニオン・ヴィンヤード
続いて、ディアバーグのヴィンヤードを見ていこう。サンタ・リタ・ヒルズにクローズアップした地図がこちらだ。
赤く囲われているところに、ディアバーグのドラム・キャニオン・ヴィンヤードがある。土壌は南北で異なっており、北側は若干砂っぽく、粘土質のシルトローム。南側は珪藻土が比較的含まれており、石灰岩もある土壌だ。
ドラム・キャニオン・ヴィンヤードの写真がこちらだ。
上の写真の黄色い場所でシャルドネを、赤い場所でピノ・ノワールを栽培している。シャルドネの植えられている標高の高い斜面は砂質土壌で、とても風が強い場所だ。この画像を見れば、風の通り道がいかに狭く、強い風が吹いているのかが伝わるだろう。
3月にぶどうが葉をつけ始めてから収穫まで、毎日吹く強い風がぶどうにストレスを与え、粒を小さくし、皮を厚くする。サンタ・マリア・バレーのディアバーグ・ヴィンヤードとは異なる果実ができる。
スターレーン・ヴィンヤード
次は、ハッピー・キャニオン・オブ・サンタ・バーバラのスターレーン・ヴィンヤードを見てみよう。
サンタ・バーバラの内陸にあり、海からの冷たい風が到達するのに時間がかかる。下の右の写真は朝の8時ごろに撮影されたもの。丘の背後に見えるのが、前日の夕方に海からやってきた冷たい霧だ。霧が晴れるとエリアの気温は上がり始め、風が到達する午後3時頃まで気温は下がらない。
ボルドー品種の栽培に適しており、暖かくて乾燥し、蛇紋石の丸石が多く、水はけの良い土壌だ。
降水量は少なく、ナパ・バレーやソノマに比べると、3分の1程度だという。特に冬の降水量が少ないため、ぶどうは小さくて凝縮した果実になる。
1998年に開拓され、2001年にぶどうが植えられた。5種類のボルドー系黒ぶどう品種とソーヴィニヨン・ブラン、セミヨン、若干のシュナン・ブランに加えて、最近は実験的にネッビオーロの栽培をしている。標高の高低差が250mほどあり、栽培が難しい。環境が違うため、実際には単一畑ではなく、4~5の異なる畑があるとも言える。
ディアバーグ&スターレーン・ヴィンヤードのワイン
ワインづくりの哲学は、酵母選びからも感じられる。ソーヴィニヨン・ブランとシャルドネは、同じ酵母を使用しており、赤ワインは全て自然にある酵母で発酵をさせている。ワインに個性を与えるために酵母を選ぶつくり手もいるが、ディアバーグ&スターレーン・ヴィンヤードでは、テロワールやヴィンヤードが前面に出るワインをつくりたいと考えているという。
バーチャルツアーでは、以下の5本のワインが紹介された。
スターレーン ソーヴィニヨン・ブラン ハッピー・キャニオン・オブ・サンタ・バーバラ 2017
ソーヴィニヨン・ブランは、酸が高いうちに収穫。酸がどれぐらいあるのかによって、大樽で発酵させる割合を決めている。大樽を使用すると口当たりに丸みを持たせることができ、2017年ヴィンテージは35%に大樽を使用。ちなみに2020年は非常に暑かったこともあり、その割合はかなり低くなった。
2017 STAR LANE SAUVIGNON BLANC
アルコール度数:13.4%
品種:ソーヴィニヨン・ブラン100%
産地:スターレーン・ヴィンヤード/ハッピー・キャニオン・オブ・サンタ・バーバラ
参考小売価格:2970円(税込)
ディアバーグ シャルドネ サンタ・リタ・ヒルズ 2018
サンタ・リタ・ヒルズのシャルドネは、150ケース程度しか生産していない。通常の2倍の大きさである、400Lの樽で発酵させている。
ドラム・キャニオン・ヴィンヤードのシャルドネはリンゴ酸の割合が高く、どの程度マロラクティック発酵(MLF)をするかの判断が難しい。マロラクティック発酵によってリンゴ酸が乳酸と炭酸ガスに分解されてワインがまろやかになるが、PHが大きく変化してしまうからだ。アルコール発酵が終わると、もう1人の醸造家であるジェフ・コニック氏と共に全ての樽をテイスティングして、マロラクティック発酵をかける割合を決めている。撹拌(かくはん)はあまりせずに、15カ月間熟成させている。
サンタ・リタ・ヒルズのシャルドネのトレードマークでもある塩気は、新樽を使うと隠れてしまうため、新樽の使用率は15~20%程度と控え目にしている。
2018 DIERBERG CHARDONNAY
アルコール度数:13.2%
品種:シャルドネ100%
産地:ドラム・キャニオン・ヴィンヤード/サンタ・リタ・ヒルズ
参考小売価格:7150円(税込)
ディアバーグ ピノ・ノワール サンタ・リタ・ヒルズ 2016
ドラム・キャニオン・ヴィンヤードのピノ・ノワールは、カリフォルニアらしい濃縮感、スパイシーさとアーシーさがあり、アロマが豊かで奥深く、ピノ・ノワールらしさが感じられる。
全房発酵ではなく、全体の25%を果実とともに茎を破砕して発酵させている。茎を含めるのは、フィニッシュに若干のタンニン、スパイスのアロマを加えることが目的だ。
甘やかさを加えることと、長めの余韻を与えるために、35%に対して新樽を使用して熟成している。
2016 DIERBERG PINOT NOIR
アルコール度数:13.9%
品種:ピノ・ノワール100%
産地:ドラム・キャニオン・ヴィンヤード/サンタ・リタ・ヒルズ
参考小売価格:8470円(税込)
ディアバーグ シラー ハッピー・キャニオン・オブ・サンタ・バーバラ 2016
スパイシーでセイボリーな香り豊かなワインだが、リッチすぎず、重すぎない口当たりとし、みずみずしさを追求した。
2016年ヴィンテージでは、新樽は全く使用しなかった。20%程度を茎と一緒に破砕して発酵させている。注意深く手掛けるが、手は掛けすぎないように仕上げられたワインだ。
2016 DIERBERG SYRAH
アルコール度数:14.2%
品種:シラー100%
産地:スターレーン・ヴィンヤード/ハッピー・キャニオン・オブ・サンタ・バーバラ
参考小売価格:5720円(税込)
スターレーン カベルネ・ソーヴィニヨン ハッピー・キャニオン・オブ・サンタ・バーバラ 2016
接ぎ木ではない、自根のカベルネ・ソーヴィニヨンを使用。スターレーン・ヴィンヤードは、カベルネ・ソーヴィニヨンが栽培されている他の地域ほど暖かくはないため、リッチになりすぎることはない。セイボリーやフレッシュなハーブのキャラクターが、カリフォルニアらしいダークなフルーツ感と共存することを目指した。
カリフォルニアでは十分な甘さのある果実ができる。樽はさらに甘やかさを加えてしまうため、新樽の使用は35%にとどめている。特に2016年ヴィンテージは、より果実味があって口触りが良い果実だったため、他のヴィンテージと比べても新樽の使用率は低い。
テクスチャーを形づくるために複数の品種をブレンドしている。
2016 STAR LANE CABERNET SAUVIGNON
アルコール度数:14.4%
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン86%、プティ・ヴェルド5%、メルロー4%、マルベック2.5%、カベルネ・フラン2.5%
産地:スターレーン・ヴィンヤード/ハッピー・キャニオン・オブ・サンタ・バーバラ
参考小売価格:8800円(税込)
ワイナリーでは、ヴィンヤードのウォーキング・ツアーや醸造家のジェフ・コニック氏によるブレンドセミナー、ブラインドテイスティングなどのアクティビティに参加できるそうだ。ワインに飽きた人はクラフトビールも楽しめるなど、おもてなしが用意されている。
ガイドの2人のやり取りや写真、語られるエピソードから、ワイナリーのアットホームな雰囲気が伝わってくるバーチャルツアーだった。