コラム

高品質ワインをリーズナブルに楽しめる! セントラルコーストのつくり手「J. ロアー・ヴィンヤーズ&ワインズ」 ~カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー

   

カリフォルニアワイン協会(CWI)は、カリフォルニアワインについての知識を深めることを目的として、影響力のある若手ソムリエに現地のワイナリーを“バーチャル”で体験してもらう「カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー」を開催した。

ツアーは2020年11月19日・20日と同年12月3日・4日の2回に分けて実施され、ソムリエたちは、コンラッド東京(東京都港区)に設けられた会場から、ワイナリーを訪問した。

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今回はそのバーチャルツアーから、J. ロアー・ヴィンヤーズ&ワインズ(J. Lohr Vineyards & Wines)の内容を紹介する。

J. ロアー・ヴィンヤーズ&ワインズ

今回のバーチャルツアーをガイドしてくれたのは、J. ロアー・ヴィンヤーズ&ワインズの最高経営責任者(CEO)であるスティーブ・ロアー氏。10歳から畑仕事を手伝い、大学進学や建築会社での経験を経て、再びヴィンヤードに戻ってきたロアー家の長男だ。かつては最高執行責任者(COO)として、創業者である父のジェリー・ロアー氏と共にヴィンヤードを仕切っていた。

家族経営のワイナリーであるJ. ロアー・ヴィンヤーズ&ワインズの現在のオーナーは、創業者ジェリー・ロアー氏とスティーブ氏を含む3人の子どもたちだ。

左側の写真に写っているのが、創業者のジェリー・ロアー氏をはじめとするロアー一家だ。車の右前方に立っているのがスティーブ氏で、車に乗っているのがジェリー・ロアー氏。その隣に写っている女性がブランド・オフィサーを務めているシンシア・ロアー氏で、ジェリー氏の隣で立っている男性がヴィンヤードの現COOであるローレンス・ロアー氏だ。

右側の写真に写っている4人は、J. ロアー・ヴィンヤーズ&ワインズのワインメーカーたち。白いシャツを着ている男性が、37年間ワインメーカーを務めているジェフ・マイヤー氏。ワイナリーの社長であり、COOでもある。

マイヤー氏の隣に写っている男性が、ワインメイキング・ディレクターを務めるスティーブ・ペッカー氏。マイヤー氏の隣の女性は、白ワイン担当のクリスティン・バーンハイゼル氏。その隣に立っている半袖シャツの男性は、赤ワイン担当のブレンデン・ウッド氏だ。

J. ロアー・ヴィンヤーズ&ワインズの沿革

創業者のジェリー・ロアー氏は、サウスダコタ州で小麦、トウモロコシ、大豆などの穀類、酪農を手掛ける農家に生まれた。しかし、重度の花粉症のため穀物の花粉に悩まされていた彼は、父親の勧めもあり、大学で土木工学を学ぶことに。そしてカリフォルニアの大学院に進学し、自身の妻となる人物に出会った。1960年代には、後にシリコンバレーとして知られるエリアで住宅建築業を手掛けていた。

ジェリー氏がぶどう栽培に乗り出すきっかけになったのは、1960年代後半に環境問題への関心が高まり、住宅建築許可が下りるまで2年もかかるようになったことと、当時のビジネスパートナーがフランス系カナダ人だったことだ。農家出身のジェリーさんとワインを飲んで育ったビジネスパートナーはまさに最高の組み合わせであり、1972年に初めてぶどうを100haの土地に植えることとなった。

1970年代初頭は、ナパ・バレーが世界的なワイン産地として頭角を現し始めた時期でもある。最初にぶどう栽培を始めたモントレー郡も、カリフォルニア州やアメリカ国内では、有名になりつつあったという。

その後、1980年代前半には、ナパ・バレーのセント・ヘレナで、カベルネ・ソーヴィニヨンの栽培を開始。さらに、パソ・ロブレスでのぶどう栽培にも着手している。

サステナビリティ活動の旗手

J. ロアー・ヴィンヤーズ&ワインズは、カリフォルニア州で盛んなサステナビリティ活動のリーダー的存在だ。2010年に「カリフォルニア・サステイナブル・ワイングローイング・アライアンス(California Sustainable Winegrowing Alliance:CSWA)」に加入し、現在、スティーブ氏はCSWAの役員を務めている。

また、2020年には、カリフォルニア州内の4000を超えるワイナリーやヴィンヤードの中で、毎年1カ所しか選出されない「Green Medal Leader」賞を受賞している。

J. ロアー・ヴィンヤーズ&ワインズの生産地

J. ロアー・ヴィンヤーズ&ワインズのワインづくりの中心地となるのが、サン・フランシスコの南に位置するセントラルコーストだ。ジェリー氏が住宅建築業をスタートさせた地でもある。

セントラルコースト内のヴィンヤードは、アロヨセコAVAとパソ・ロブレスAVAにある。その詳細を見てみよう。

アロヨセコAVA

アロヨセコAVAがあるモントレー郡は、カリフォルニア州内でも冷涼な地域だ。当時はそれほど知られていなかったが、ウェンテ一家などがこの地でワインをつくっており、シャルドネやリースリングに適した土地であることは分かっていた。

ワイン醸造の研究機関があるカリフォルニア大学デービス校の教授を雇って、適切な品種を分析し、シャルドネやリースリングの他に、レアな品種であるヴァルディギエなどを含めて11品種を植えた。シャルドネ、リースリング、ヴァルディギエは素晴らしい結果となったが、本当に育てたかったカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローは満足のいくものにはならなかった。

ボルドー系品種には、アロヨセコの気候は寒過ぎたためだ。どれほど寒いのかは、モントレー郡内の気温分布図を見てみるとよく分かる。

セントラル・バレーの午後3時の気温を示した画像を見ると、ブルーとグリーンが入り混じった辺りに、アロヨセコAVAが位置している。

画像の左上辺りには、スティーブ氏が「グランドキャニオンのようだ」と話す、北米大陸で最も深い海溝が沿岸から約7~8km沖にある。4月にアラスカから南下してきた海流が7~8月になるとここに滞留する。そのため、海水温は非常に冷たく、内陸の空気が温まると海の冷たい空気が内陸に引き寄せられる。

アロヨセコでは夏でも気温は27~28℃までしか上がらない。カリフォルニア州で最も寒い地域の1つであり、ぶどうの生育期間は最も長い。2月下旬から3月上旬にはつぼみが開花し始め、収穫は10月だ。生育期間が長いほど、ぶどうの味わいは深まるのだという。

パソ・ロブレスAVA

もう1つのヴィンヤードがあるのは、カリフォルニア州で最も大きなAVAの1つであるパソ・ロブレスだ。アロヨセコからさらに車で1時間ほど、南に行ったところにある。

パソ・ロブレスでぶどう栽培を始めたのは、アロヨセコでのカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローの失敗を受けて、1984年にナパ・バレーでぶどう栽培を始めてから数年後のことだ。

地図画像上のパソ・ロブレスAVA内にある赤いマークが、J. ロアー・ヴィンヤーズ&ワインズのヴィンヤードの場所を示している。24のヴィンヤードを所有しており、パソ・ロブレスで最も大きなぶどう栽培農家だ。

パソ・ロブレスは、ナパ・バレーとの共通点が多いが、カリフォルニア州の他のエリアとは異なる特徴がある。それは昼と夜の気温差が大きいことだ。

パソ・ロブレスは、夏になると38℃まで気温が上がる。しかし、夕方の4時には38℃であっても、夜になると冷たい海風が入ってくるようになり、9~10℃まで気温が下がる。1日に30℃もの気温差があるのが大きな特徴だ。

J. ロアー・ヴィンヤーズ&ワインズのワイン

続いて、バーチャルツアーで紹介された、5本のワインを見ていこう。テイスティングコメントは、スティーブ氏によるものだ。

J. ロアー “リヴァーストーン”シャルドネ アロヨセコ 2018

ワイン専門誌『ワインスペクテイター(Wine Spectator)』誌が、2020年の「ベスト・バリュー」に選んだ1本。アメリカンオークとハンガリアンオーク、そしてフレンチオークの小さな樽で、7~9カ月間熟成させている。

「リヴァーストーン」という名前は、ヴィンヤードがある場所は古代には川底だったことに由来している。名前からも想像できる通り、非常に大きな川の石に覆われている砂質の土壌だ。そのため水はけがよく、ぶどうの樹をコントロールしやすいため、好むスタイルのワインに仕上げることができる。

ちなみに、画像内でボトルの横に表示されているのは、「カリフォルニア サステイナブル ワイン生産認証(CERTIFIED SUSTAINABLE)」ロゴだ。現在、カリフォルニアワインの80%が同認証をはじめとするその他のサステナブル認証を受けており、また、ぶどう栽培地域の半分以上がサステナブルと認定されている。

《テイスティングコメント》

リンゴやピーチのフルーティなアロマがあり、モントレーのシャルドネ特有のマンゴーやパパイヤといったトロピカルフルーツや、ハチミツのフレーバーもある。

2018 RIVERSTONE CHARDONNAY, ARROYO SECO
アルコール度数:13.95%
品種:シャルドネ100%
参考小売価格:2500円(税別)

J. ロアー “アロヨ・ヴィスタ” シャルドネ アロヨセコ

リヴァーストーンの姉的な存在のワイン。アロヨセコのぶどうの中でも、品質の良いものを選んでいる。リヴァーストーンには9つのクローンが植えられており、複数のクローンをブレンドして、複雑さを出している。

全てフレンチオーク樽で14カ月熟成。そのうちの40%が新樽だ。澱と一緒に熟成させている。価格は手頃だが、高品質の樽を使用し、複雑な味わいをつくり出すために、毎週攪拌(かくはん)するなど手間をしっかりとかけている。

ヴィンテージによるが、平均して50~60%をマロラクティック発酵(MLF)することで、酸をまろやかにし、クリーミーな味わいにしている。

高品質のシャルドネでありながら、リーズナブルな価格が魅力のワインだ。

《テイスティングコメント》

リヴァーストーンと似た香りだが、より複雑さがあり、よりオーク樽の要素がある。口にするとバランスの良さを感じるだろう。焼いた洋ナシやクリームブリュレのような味わいは、樽由来のものだ。

樽の要素が感じられ、素晴らしい酸がある。冷涼な気候による自然な酸は、クリームやバター、油などを使った食事との相性も良い。

2017 ARROYO VISTA CHARDONNAY, ARROYO SECO
アルコール度数:14.5%
品種:シャルドネ100%
参考小売価格:3300円(税別)

J. ロアー “ファルコンズ・パーチ” ピノ・ノワール モントレー

シャルドネと同じ地域でつくられたピノ・ノワールだ。シャルドネとピノ・ノワールは栽培に適した気候や土壌が似ているため、良いシャルドネができる地域では良いピノ・ノワールもできる。

3分の1をフレンチオークで、3分の2をステンレスタンクで熟成させることで、フレッシュさの中に樽の深みを与えている。

《テイスティングコメント》

ストロベリーやラズベリーの香り。カリフォルニア州のピノ・ノワールは、ブルゴーニュと比べて果実味が豊かだが、このワインも同様だ。しかし、ブルゴーニュのようなセージなどのハーブの香りもある。味わいには、モントレーらしい親しみやすさがある。

2018 FALCON’S PERCH PINOT NOIR, MONTEREY
アルコール度数:14.0%
品種:ピノ・ノワール100%
参考小売価格:2800円(税別)

J. ロアー “セブン・オークス” カベルネ・ソーヴィニヨン パソ・ロブレス

J. ロアーが手掛けている35種類のワインの中で最も売れており、ワイン専門誌での評判も良い1本だ。

カベルネ・ソーヴィニヨンの個性が感じられるが、日中の暑さがカベルネ種特有の緑の香りを消し、夜の涼しさが酸を残している。

12カ月間、60ガロンのアメリカンオークで熟成。新樽率が高いほど、樽の要素を感じるワインになるが、このワインでは新樽率は20%に抑えている。

《テイスティングコメント》

赤い果実、ダークチョコレートの香り。目指したのはダークでソフトなタンニンだ。パソ・ロブレスの気候が、ワインにソフトさを与え、食事に合うワインをつくり出している。

2017 SEVEN OAKS CABERNET SAUVIGNON, PASO ROBLES
アルコール度数:14.4%
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン82%、プティ・シラー8%、メルロー5%、プティ・ヴェルド4%、シラー1%
参考小売価格:2500円(税別)

J. ロアー “ヒルトップ” カベルネ・ソーヴィニヨン パソ・ロブレス 2017

セブン・オークスの兄貴的存在のワインだが、カベルネ・ソーヴィニヨンの比率が非常に高い。フレンチオーク樽で、18カ月間熟成。新樽率も70%と高い。

《テイスティングコメント》

香りの構成はセブン・オークスに似ているが、より凝縮感が感じられる。ミディアムなタンニンは食事と相性が良く、ビーフ・ウェリントンのような牛肉を使った料理やジビエ料理にぴったりだ。食事中だけではなく、ワインだけ味わいたいときにも寄り添ってくれる1本。

2017 HILLTOP CABERNET SAUVIGNON, PASO ROBLES
アルコール度数:14.9%
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン95%、プティ・ヴェルド4%、マルベック1%
参考小売価格:2700円(税別)

高品質なワインを手頃な価格で提供する、J. ロアー・ヴィンヤーズ&ワインズ。バーチャルツアー中に行われたテイスティングでは、参考小売価格が紹介されるたびに、そのリーズナブルな価格に驚きの声が漏れていたのが印象的だった。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ