「エシェゾー(Echezeaux)」というワインの産地名をご存じだろうか。フランス・ブルゴーニュ地方産のワインが好きな人は、ワインへの理解を深めるために、ぜひ覚えておきたいキーワードの1つだ。この記事では、エシェゾーとは何かを解説する。
ワイン通も注目する、エシェゾーとは?
エシェゾーとは、フランス・ブルゴーニュのコート・ド・ニュイ地区に位置する、フラジェ・エシェゾー村のクリマ(畑)のことだ。また、一般的にエシェゾーというと、これらのクリマからつくられたワインのことも指す。
2つのグラン・クリュ
フラジェ・エシェゾー村は、銘醸地のヴージョ村やシャンボール・ミュジニー村、世界一高価なワインといわれる「ロマネ・コンティ」で有名なヴォーヌ・ロマネ村に隣接している。日照時間が長く、温暖で降水量も適度なため、古代ローマ時代からワインづくりが行われていたほど、ぶどう栽培に最適な環境だ。ただし、国道を越えた東側など、平坦な土地の大部分はぶどう栽培には適さず、主に野菜などがつくられている。ワインに使われるぶどうは、標高250~300mの斜面にある、限られた土地で栽培されている。
ブルゴーニュでは、シャトー(生産者)ごとに格付けされるボルドーとは異なり、クリマごとに格付けされる。フラジェ・エシェゾー村には、「エシェゾー」と「グラン・エシェゾー」の2つの特級畑(グラン・クリュ)がある。
なお、フラジェ・エシェゾー村には原産地呼称であるアぺラシオン(AOC)は存在しないため、グラン・クリュのエシェゾーとグラン・エシェゾー以外は、隣にあるヴォーヌ・ロマネ村の村名を表記したワインになる。そのため、フラジェ・エシェゾー村とヴォーヌ・ロマネ村は2つで1つのエリアとされている。
エシェゾーの歴史
エシェゾーは斜面の中腹に11の区画を持ち、それぞれのクリマを84のドメーヌ(生産者)が所有している。
エシェゾーの歴史は、13世紀にシトー派の修道院が入植したのが始まりだ。もともとは、面積がわずか3.55haのエシェゾー・デュ・ドシュという小区画のみだった。しかし、1937年のAOC制定時に周りの10区画も統合され、現在の37.69haにまで拡大。エシェゾーと、さらに上級のグラン・エシェゾーがグラン・クリュに格付けされた。
地質とワインの品質
エシェゾーの地質は、1億7500万年前のジュラ紀に属する。土壌は小石、泥土、黄色の泥灰土など多様で、傾斜や位置などによって土壌にバラつきがある。水はけの良し悪しなども影響するため、どこにクリマがあるかによってもぶどうの出来や特徴が大きく異なるのである。
また、さまざまなドメーヌがつくっているため、ワインの品質もそれにより変わってくる。一般的にグラン・エシェゾーでつくられるワインのほうが上級とされるが、ドメーヌによっては、グラン・エシェゾーをしのぐ優れたワインをつくるところもある。
グラン・エシェゾーはさらに標高の高い場所にあり、9.14haと面積は狭くなるが、土壌がエシェゾーに比べて均一なため、ぶどうの品質にあまりバラつきがない。地質は石灰岩盤や粘土石灰質で、エシェゾーでつくられるワインとは特徴も異なる。より高品質で希少とされているため、特に優れたものは数十万円と高価格で販売されており、ワイン通にとっても注目の存在だといえよう。
エシェゾーワインはどんな味わい?
エシェゾーのワインに使われるぶどうはピノ・ノワールのみで、他の品種とブレンドされることはない。この品種はデリケートで寒さに弱いため、栽培が難しくテロワールやつくり手、生産過程によっても味わいが変わってくる。ゆえに、ワインもドメーヌごとの個性が楽しめるのである。
一般的にエシェゾーのワインは、透明感のある美しいルビー色。ベリーに似た豊かな果実味と、繊細さが感じられる。柔らかなタンニンで渋みが少なく、まろやかさも特徴とされている。若いうちはバラやスミレなどの花やチェリーのような果実の香りが、4~5年で熟成すると、なめし革や毛皮などを思わせる芳醇な香りと、複雑な味が楽しめるようになる。
グラン・エシェゾーのワインは、エシェゾーのものよりもさらに深い味わいを持つといわれる。
また、エシェゾーのワインは、収穫年によって味が異なる。一方、グラン・エシェゾーのものは、単一区画、均一な土壌などの条件から、収穫した年にかかわらず安定した一定の品質を保っている。
あのDRCも名を連ねる、グラン・エシェゾーの生産者
グラン・エシェゾーは、12の名だたるドメーヌが所有し、ぶどうづくりを行っている。
その中で最も有名なのは、「ロマネ・コンティ」の生産者であるドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)だ。同社は2.49haを所有する。
樹齢20~60年のぶどうを手摘みで収穫し、オーク樽で熟成させたワインは、エレガントで繊細な仕上がりだ。手間暇かけてつくられる同社のワインは、とりわけ高額で取引されることが多い。
また、DRCと並ぶ代表的なドメーヌとして、ドメーヌ・デュージェニーがある。こちらは、ボルドー5大シャトーの1つである名門シャトー・ラトゥールのオーナー、フランソワ・ピノー氏が2006年から手掛けている。
設立当時は、ボルドーの名門シャトーが約19億円かけてクリマを手に入れたことに反発もあった。しかし、シャトー・ラトゥールのフレデリック・アンジェラ氏を総支配人に迎え、ブルゴーニュのテロワールを知り尽くした専門家を招き、ワインの質を向上させたことで急成長。2011年以降には、ロバート・パーカー氏によるワイン専門誌『ワイン・アドヴォケイト(Wine Advocate)』において、90点以上の高得点を獲得している。
ブルゴーニュ地方のフラジェ・エシェゾー村にある2つのグラン・クリュ、エシェゾーとグラン・エシェゾー。ブルゴーニュの最高峰とされるDRCを筆頭に、高名なドメーヌが手掛けているため、なかなか手が出せないと思われがちだ。しかし、一口にエシェゾーといっても、味わいや品質、価格はさまざま。比較的リーズナブルなものでも、グラン・エシェゾーをしのぐクオリティのエシェゾーワインも存在する。
また、テロワールやつくり手の違いにより個性が楽しめるワインでもあるため、自分の好みに合った味を探してみるのも楽しいかもしれない。