INDEX
メルシャンは2022年6月21日、初主催となるマスタークラス「sustainability masterclass~大橋健一マスター・オブ・ワインと紐解くサステナビリティの基本~」を開催した。
当日は、第1部にマスタークラス、第2部に試飲会が開催された。試飲会では、マスタークラスで紹介された、サステナブルな取り組みを行う3つのワイナリーのワインをテイスティングした。
連載4回目となる本記事では、試飲会で紹介されたワインについて、マスター・オブ・ワイン(Master of Wine:MW)の資格を持ち、シャトー・メルシャン、コンチャ・イ・トロなどのブランドコンサルタントを務める大橋健一氏のテイスティングコメントを紹介する。
コンチャ・イ・トロ「カッシェロ・デル・ディアブロ デビルズ ブリュット」
梅雨空や梅雨が明けて夏に向かう時期に、ぜひ楽しんでほしいという願いを込めて選んだ1本だ。
チリの中でも最も話題性の高い、リマリという産地のワイン。チリワインは日本では500~800円ほどで買えるものが多いが、このワインは1910円と倍以上の価格で、 “プレミアムチリ”の1種に位置付けられる。シャンパーニュでも使われる品種のピノ・ノワールを使用し、シャンパーニュ製法と同様の製法でつくった高品質なスパークリングワインだ。
プライベートでも、すしに合わせるものとして選ぶのがこのワインで、相性は抜群だ。一般的に生ものと白ワインは合わないが、これは相性が良い。魚をカルパッチョ仕立てにしてサラダとあえたり、光り物よりもタイやヒラメといった白身のすしなどによく合う。
リンゴの果皮のような香りで、口に入れると酸味のおいしさを感じる。チリは一般的に暑い産地なので、そこでつくられた白ワインは冷やさないと酸味が得られない。しかしこのワインは、チリを代表する冷涼産地でつくられているため、キリっとした酸味が非常に高く存在している。
ほんのりとマスカットのようなフレーバーがあり、幅広い人が楽しめる。それでいて、澱(おり)と長く接触させていることから、酵母の澱がやや長めの余韻につながっているという高品質なワインだ。
アルベール・ビショー「ドメーヌ・デュ・パヴィヨン ブルゴーニュ・コート・ドール シャルドネ 2019」
価格は3190円だが、バリューが素晴らしい。ブルゴーニュワインはここ数年間、収穫量の激減のため価格が非常に高騰していて、日本でも10年前の2倍以上になっている。メルシャンは大きな値上げは控えているが、この値段で供給できることは奇跡といえる。
この品質は、アルベール・ビショーの真骨頂といえる。利益が取れない小規模の生産者だと、どうしても金額設定が高めになり、特に円安市場では飲み続けることが難しい。そうした中で、メルシャンという大手が取り扱っていることは、消費者にとってのサステナビリティにつながる。
ワインの味わいは、焼きリンゴのニュアンス。香りはバターやオートミールのようで、ブルゴーニュワインの真骨頂の片鱗を、この香りから捉えることができる。口に入れると酸味は高いが、最初にテイスティングした「カッシェロ・デル・ディアブロ デビルズ ブリュット」のような爽快な酸味ではなく、じんわりと余韻が長く続く。
生がきの中でも、特に夏の大きな岩がきで、クリーミーなものが合う。余韻にバターやオートミールを感じるので、牛乳を使ったような料理、例えばカルボナーラなどと合わせて、このワインの本当の良さを楽しんでほしい。
メルシャン「メルシャン・ワインズ ブレンズ パーフェクト・ブレンド レッド」
オーストラリアとスペインのワインをブレンドした、業界でも画期的な取り組みの商品。かつ970円という安さなので、本格的なワインを飲みたいが、あまりお金をかけたくないという人や、ワインをじっくり飲んでみたいという人の入門編としてぴったりのワインだ。
オーストラリアのシラーズとスペインのテンプラニーリョなどをブレンドしているが、フランス・ボージョレ地方のガメイに近いニュアンスを感じる。ハーブやバナナリキュールのような香りも少しあり、オーストラリアを思い出させるような、ユーカリミントっぽさもある。
それでいて樹脂的なニュアンスがあって、シラーからくるスパイシーさを感じる。どこの産地か迷うような玄人好みの側面もあるが、口に含むとジューシー。タンニンや渋みは意外としっかりしている。
ワインの樹脂的でスパイシーなニュアンスというのは、ロースト香にもつながる。タンニンがしっかりあるので、かみ応えのある肉に焦げ目を付けて焼くような料理、まさに夏のバーベキューなどにふさわしいワインだ。
シャトー・メルシャン「シャトー・メルシャン 椀子メルロー2018」
シャトー・メルシャン 椀子(マリコ)ワイナリーのワイン。シャトー・メルシャンは世界の名だたるコンクールで数々のアワードを獲得している。
まだ若く、熟成のポテンシャルはあと10年ほど。ボルドーに引けを取らないクオリティだが、ボルドーよりやや酸味が強いのは、椀子ワイナリーの標高の高さにある。寒冷地でつくられるワインであることが、酸のストラクチャーをつくっている。
クールミントや熟した桑の実、バラの花弁の香りがほんのりとあり、スーッとするような印象。主体性を持って主張してくるのは、血のようなニュアンス。赤身の肉のニュアンスが全面に出て、完熟したときのメルローの良さが出ている。
味わいは、タンニンは決して強めではないが、きめが細かい。余韻はスエードのベルトのような革っぽいニュアンス。典型的な、偉大なメルローの特徴だ。
若く刺激性が高いが、きめが細かい。この両極の個性をどのような食べ物と合わせるか。例えば、馬刺しなどのきめが細かい肉を冷やして食べるときなどにも合う。高級な馬刺しは、5100円というこのワインにふさわしい。
サステナビリティと共に、ワインのおいしさを極めることが重要
ワインのテイスティングを通じて大橋氏は、「サステナビリティを極めるのと同時に、本来のワインのおいしさや楽しさなど、ガストロノミーの部分も忘れてはいけない」と語った。
どんな食べ物と合わせるとおいしいか、どう演出すれば家族や友人とのワインパーティーがもっと映えるのかなど、ワイン関係者がしっかりと消費者に伝えることも重要だという。
「ワインは社会にとってなくてはならないものである。キリスト教にとっては宗教であり、文化である。また、国にとっては税収の源である。こういう観点も持ちながら、ワイン業界の倫理観を高めつつ、さらに市場を盛り上げていかなければならない」と大橋氏は語り、メルシャンの新たな取り組みとして「メルシャン・ワインズ」という新しいブランドを紹介した。
一般的にワイン業界では、2つの国のワインをブレンドすることはタブー視されてきたという。しかし、同ブランドは、南半球のオーストラリアと北半球のスペインのワインをブレンドしている。そのため、「産地や品種が分からないので難しいと感じているZ世代やミレニアル世代をターゲットとして、新たなワイン文化をつくりたいというメルシャンの新しい取り組み」だとしている。
セミナーの最後には、まとめとして「ワインのおいしさ、楽しさ、必然性を念頭に置いた上でサステナビリティを進め、日本のワイン業界の持続的発展に寄与していきたい」と大橋氏は語り、今回のマスタークラスは終了した。
※価格は取材時点での参考小売価格。変動の可能性あり。
【メルシャン初のマスタークラス】
ワイン産業におけるサステナビリティとは? ①課題提起
ワイン産業におけるサステナビリティとは? ②現状把握と今後の取り組み
ワイン産業におけるサステナビリティとは? ③世界のワイナリーの取り組み