メドックワイン委員会は2023年9月26日、ホテル日航大阪(大阪市中央区)で、メドックの比類なきテロワールと多様性を改めて発見する、マスタークラスを開催した。
今回は、AOCムーリスの解説とシャトー・モーカイヨー(Château Maucaillou)の2020・2016ヴィンテージのテイスティングをしたパートを紹介する。
講師を務めたのは、ホテルニューオータニ大阪のフランス料理店「SAKURA」でソムリエとして活躍する田中叡歩(あきほ)氏だ。
AOCムーリスとは
AOCムーリスとは、メドック西部に2つある内陸の村名AOC(Appellation d’Origine Controlee、原産地管理呼称)の1つだ。同じく内陸にあるAOCリストラックと比べられることが多いが、よりストラクチュアがあり、力強さと繊細さが共存する、熟成の可能性を持つワインが多い。
メドックで最も小さいAOCで、西と東に分けられる。西部は、大部分がピレネー山脈の砂利で、下土は粘土・石灰だ。冷たい土壌で、メルローが主に使われている。東部は、ガロンヌ川の砂利で、日中に熱を蓄える暑い土壌となる。カベルネ・ソーヴィニヨンに向いており、その発祥の地と呼ばれている。
シャトー・モーカイヨーのワイン
今回のマスタークラスでは、シャトー・モーカイヨーの2020年と2016年の2つのヴィンテージをテイスティングした。
シャトー・モーカイヨーとは
シャトー・モーカイヨー(シャトー・モーカイユ)は、格付けから20年後の1875年に設立したシャトーだ。当初は3haだったが、1929年にドゥルト家が所有してから発展し、現在はムーリスでは大規模となる600haを所有。そのうちの90haでぶどう栽培をしている。
栽培されているのは、カベルネ・ソーヴィニヨンが52%、メルローが41%、プティ・ヴェルドが7%だ。60%が深い砂利質で、40%が粘土石灰質というテロワールに適合した品種を育てている。
販売担当ディレクターのCyril Forget氏は、「目指しているのは、滑らかでよく融合したワイン。もちろん若くからも飲めるが、10年、15年、20年と問題なく熟成できるワインを手掛けている」とコメントしている。
ヴィンテージ解説
各ヴィンテージについて、Forget氏は次のように説明している。
2020年は、ごく少量しかワインを生産できなかったが、よく成熟して凝縮したぶどうを収穫できた。主にメルローは、果実味とアロマが豊かだった。カベルネ・ソーヴィニヨンは、数年後により表情がよくなるだろう。とても豊かで力強く、バランスのとれた、程よい酸のあるワインだ。
2016年は、より古典的なヴィンテージとなった。春はかなり条件がよく、開花が順調に進み、夏は暑くて比較的乾燥していた。9月の収穫直前に少し降った雨が、ぶどうの実を少し膨らませた。区画ごとに最高の熟度に達したぶどうを選んで収穫。今は飲みごろで、表情のある第1アロマ(果実由来の香り)に加えて、第2アロマ(発酵の段階で生じる香り)も少し発達している。今、私がよく開けるワインであり、シャトー・モーカイヨーについて、分かってもらえるワインだ。
シャトー・モーカイヨー2020/2016
品種構成は、どちらもカベルネ・ソーヴィニヨン52%、メルロー41%、プティ・ヴェルド7%。手摘みで20%を収穫し、80%は機械で収穫してセラーで選別している。
2020年はフレンチオーク樽(新樽40%)で16カ月、2016年はフレンチオーク樽で14カ月(新樽40%)熟成させている。
テイスティングコメントは、田中氏によるもの。
●2020ヴィンテージのテイスティングコメント
グラスに近づく前から感じられる、力強い香り。ストラクチャーが強く出ている。まだ若いフレッシュな黒系果実と黒系スパイスの香りがあり、それほど多いわけではないが、カベルネ・ソーヴィニヨン特有のピラジン(緑野菜の香り)を強く感じることができる。
●2016ヴィンテージのテイスティングコメント
かなり熟成していて飲みごろに近い。色調的にも鮮やかで赤い色調のある落ち着いたトーン。香りも調和している。フルーツの香りが落ち着いてきて、プラムっぽい香りが出てきている。ロースト香は穏やかで、香りのシルエットを下支えするようなスパイス香がある。クリームっぽいニュアンスや新樽由来の品のある薪のような香り。強くはないが上品で、それぞれの香りが調和している。個人的に、色々な料理に合わせられると感じられるワインだ。ピラジンの香りが落ち着いて第3アロマ(熟成により現れる香り)に発展しており、心地よく変化している
今回は、2つある内陸の村名AOCの1つ、ムーリスを紹介した。次回は、もう1つのAOCリストラックについて解説したパートを紹介する。
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