コラム

シャトー・メルシャン×コンチャ・イ・トロが生み出した「シャトー・メルシャン 岩出甲州 アミシス」とは ~「メルシャン2024年ワイン事業戦略説明会」レポート②

   

メルシャンは2024年3月19日、「メルシャン2024年ワイン事業戦略説明会」を実施した。当日は2024年の事業戦略として、チリの最大手ワイナリー、ヴィーニャ・コンチャ・イ・トロ(コンチャ・イ・トロ)とタッグを組んだ、「パシフィック・リンク・プロジェクト」について説明があった。

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今回は、パシフィック・リンク・プロジェクトの第1弾となる「シャトー・メルシャン 岩出甲州 アミシス 2023」について紹介する。

「シャトー・メルシャン 岩出甲州 アミシス」が生まれるまで

「シャトー・メルシャン 岩出甲州 アミシス」について説明したのは、メルシャン技術部技術企画グループの勝野泰朗氏だ。

メルシャン技術部技術企画グループの勝野泰朗氏

現在は技術部で商品開発に携わっているが、日本とフランスで栽培から醸造までの豊富な経験を持つベテラン。留学中の2013年には、フランスの国家資格であるエノログ(ワイン専門分野の職務を行える醸造技術者の資格)を取得している。

シャトー・メルシャンが知り尽くした甲州を使用

パシフィック・リンク・プロジェクトでは、シャトー・メルシャンとコンチャ・イ・トロのワインメーカーが日本とチリを行き来して、新しいワインを生み出していく。

その第1弾となる「シャトー・メルシャン 岩出甲州 アミシス」は、その名の通り山梨県山梨市岩出にある畑で育った、甲州種のぶどうを使用したワインだ。シャトー・メルシャンでは、1983年にシュール・リー製法で甲州のワインづくりを成功させるなど、長く向き合ってきた品種でもある。かんきつの香りを引き出した「甲州きいろ香」、オレンジワインの「甲州グリ・ド・グリ」など、世界的にも評価の高いワインを生み出している。岩出は「甲州きいろ香」が誕生した地であり、メルシャンにとっても思い入れの深い場所だという。

このようにシャトー・メルシャンにとっては知り尽くした畑と品種だが、コンチャ・イ・トロにとっては、未知の畑と品種だ。

「国際的には酸っぱすぎる」との指摘

プロジェクト第1弾のワインが目指すスタイルは、「甲州きいろ香」だ。そこにコンチャ・イ・トロのワインメーカーのエッセンスを加えて、どのように表現していくかを探った。

まずは、来日したコンチャ・イ・トロのワインメーカー、マックス・ワインラブ氏と岩出の畑を見に行き、ぶどうを一緒に食べ、この畑の成り立ちや特徴を知ってもらった。棚仕立てはチリでも行われているが、甲州は日本の固有品種だ。見たことのないぶどう品種に遭遇したワインラブ氏だが、すぐにいろいろなことを理解した様子だったという。

その後、お互いに思っていることを意見交換した結果、勝野氏は「固定観念にとらわれがちだった目を開かせていただいた」という。日本人は酸に対する許容が高いが、ワインラブ氏からは「国際的な味覚からいくと、これは酸っぱすぎる」との指摘があった。

こうした試行錯誤を経て、シャトー・メルシャンがこれまで大事にしていた価値観に加えて、より国際的な味わいを取り入れ、バランスを重視してつくり上げたのが「シャトー・メルシャン 岩出甲州 アミシス 2023」だ。

どんなワインが完成したのか

2024年4月2日に発売された「シャトー・メルシャン 岩出甲州 アミシス 2023」の参考小売価格は7000円(税込)。まだ検討中の段階だが、国内と海外で半数ずつ発売していく予定だ。

「シャトー・メルシャン 岩出甲州 オルトゥム」との比較テイスティング

説明会では、同じく岩出の畑のぶどうを使用した「シャトー・メルシャン 岩出甲州 オルトゥム 2022」との飲み比べが行われた。ヴィンテージは異なるものの、どちらも18℃に管理したステンレスタンクで約14日間発酵した後、ステンレスタンクでさらに約4カ月育成している。

「岩出甲州 アミシス」のベースとなっているのは、かんきつの香りを表現した「甲州きいろ香」だ。かんきつといってもグレープフルーツではなく、勝野氏は「もっと柔らかい、薄い黄色のかんきつのようなイメージを持っていただけるかと思います。カボスや晩柑、ザボンなどの淡いかんきつの果実に、柔らかい雰囲気の大桃のような香りのあるワインです」と説明している。一方の「岩出甲州 オルトゥム」からは、ユズのような心地よい和風のかんきつの香りが楽しめた。香りの種類だけではなく、「岩出甲州 アミシス」はより広がりを感じる香りだった。

口の中に含むと、「岩出甲州 アミシス」は柔らかさ、「岩出甲州 オルトゥム」ははつらつさやシリアスさをまず感じた。「岩出甲州 アミシス」は白身魚の脂や豚肉の甘い脂に、「岩出甲州 オルトゥム」は刺身や塩焼きとの相性が良い印象だ。どちらが優れている、劣っているということではなく、目指した味わいの違いが感じられるテイスティングとなった。

シャトー・メルシャンでは、基本的なワインづくりの精神として“フィネス&エレガンス”という言葉を大切にしているが、国際的な味覚を目指す中で、ワインラブ氏から“コンフォタブル”という言葉が出たという。勝野氏は、「フィネス&エレガンス&コンフォタブルというものを実感していただければ」と説明していた。

秋には第2弾コンチャ・イ・トロ「アミシス」が発売予定

「シャトー・メルシャン 岩出甲州 アミシス」は、パシフィック・リンク・プロジェクトの第1弾として、2023年秋に日本で仕込まれている。その後、地球の反対側に位置するチリがワインづくりのシーズンを迎えた2024年3月には、勝野氏とシャトー・メルシャン 椀子ヴィンヤードの岡村敦氏らがチリを訪れて、第2弾となるワインの仕込みを行った。コンチャ・イ・トロのワインメーカーは、同社の全てのワインづくりを統括しているマルセロ・パパ氏だ。

使用したのは、コンチャ・イ・トロが所有するプエンテ・アルトのぶどうだ。プエンテ・アルトは、チリのグラン・クリュともいえる場所で、パーカーポイントで100点を獲得した「コンチャ・イ・トロ ドン・メルチョー」を生み出している。この場所のぶどうを使用して、シャトー・メルシャンのフィロソフィーであるフィネス&エレガンスを目指したという。

第2弾は2024年の秋に発売を予定している。今後も生産本数やスタイルなどに縛りを設けず、イノベーションを目指して新しいワインを生み出していく。

次回は、事業説明会に出席したイサベル・ギリサスティ氏が語ったコンチャ・イ・トロについて、そしてパシフィック・リンク・プロジェクトへの期待について紹介する。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ